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2015年09月26日02:31

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『常識についての一考察』第13話

最終話です。

『常識についての一考察』第13話

「ラダマンティス!見てくれ、男に戻ったぞ!」
 ラダマンティスがカイーナに戻った時、カノンはすでに男の姿に戻っていた。帰還したラダマンティスの前で、カノンはもろ手を挙げて喜んで見せた。
「よかったな、カノン」
「でもどうして急に…」
「ハーデス様に今回の事態を報告した」
 そしてラダマンティスはハーデスとの謁見についてカノンに説明した。
「そうかぁ…。ハーデスって意外に良い神だな!常識があるぜ、誰かたちとは違って!」
「……」
 地上の生命を全て滅ぼして大地を死の世界に変えようとした神が、果たして本当に常識的と言えるかどうか、ラダマンティスには疑問だったが、臣下として不敬な批評は差し控えた。
「カノン、ハーデス様は生者のお前が冥界にいることを望まれない。男に戻ったのなら、すぐに海界に戻るがいい」
「ああ」
 でもその前に、と、カノンがラダマンティスの顔をのぞきこんだ。
「男に戻った記念に…一回しておこうぜ、ラダマンティス」
「……」
 ラダマンティスは軽くため息をつきはしたが、カノンの肩を抱いて彼を寝室にといざなったのだった。

 執務机の前に座った教皇アイオロスは、大きなため息をついた。
「またため息をついているのか、アイオロス」
 横にあるデスクに向かって書類整理をしていたサガが苦笑する。彼もすでに男の姿に戻っている。冥界からはすでに一連の経緯が説明されて、サガが男に戻った理由を明らかにしていた。
「だってさぁ…。やっぱり欲しかったよ、おれとサガの子供。きっとすごく可愛かったろうなぁ。ああ〜、見たかったなぁ」
 そう言ってアイオロスは再びため息をついた。
「仕方がない。もともと私とお前の間に子を望むこと自体が、無理筋だったのだ。今回はハーデスの言うことに理がある。それに私は男に戻れて、正直ほっとしている。やはりこちらの体のほうが落ち着く」
「そうだろうけど…。おれは残念だよ。ハーデスの機嫌が良い時を見て願い出てみるとアケローオス様はおっしゃられていたのに、ラダマンティスに先手を打たれてしまった」
「仮にアケローオス様が願い出ていたところで、ハーデスが認めていたかどうかは分からない。いい加減にあきらめろ、アイオロス」
「そう言われてもさぁ…。一度は夢を見られた分だけ、未練だよ。アケローオス様だって残念がっておられたじゃないか。ああ〜…おれとサガの子供…」
 そうしてしばらくの間、聖域の教皇様は繰り返し繰り返しため息をついては、産まれていたかもしれない自分とサガの子供の姿を夢想して残念がっていたのであった。


<FIN>

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