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2015年08月21日00:10

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『仙境の桃』第1話

 ミーノスのせいで幼児化したカノンとラダマンティスが一晩だけ一緒に過ごす話。
 ラダ誕作品にしようかと思ったけれど、あまり面白い話でもないので、小ネタとして仕上げました。
 双子の少年時代のオリジナル設定については『雪解け』を参照。神話時代のミーノスとラダマンティスの話は『クレタから吹く風』を参照。
 子供キャラは年齢相応に書くのに苦労する。実際の六歳児ってどんなものかなぁ。甥っ子たちはひたすら遊びまわって走りまわってたけど…。
 ラダ誕には格好いいカノンと格好いいラダマンティスが書きたいです。ムーサイよ、我にネタを与えたまえ!


『仙境の桃』第1話

「こんにちは、ラダマンティス」
 ある日、カイーナの執務室ににこやかな笑顔で現れたのは、冥界三巨頭の一人、天貴星グリフォンのミーノスだった。
「…何か用か、ミーノス」
 注意深く、部屋の主であるラダマンティスは答えた。
「いえね、ちょっと面白いものをいただいたので、あなたにもおすそ分けをと思いまして」
 ラダマンティスの注意は警戒にと変わった。ミーノスがこんな感じで持ってくる「贈り物」には、ろくでもない目にあわされていることが多いからである。
 ミーノスが持参したのは、蓋付きの磁器の碗だった。直径は十五センチほどで、白い地にピンクや緑や青色や金色で美しい植物文様が描いてある。ミーノスが碗をラダマンティスの執務机に置き、蓋をあける。中に入っていたのは、薄紅色の砂糖菓子だった。親指の爪先くらいの大きさで桃の花の形をしている。それが、ざっとみて十個ほど詰められていた。
「何だ、これは?」
「パシパエからもらったのですよ。ご存知ですね、パシパエと言うのは神話時代の私の妻で…」
「太陽神ヘリオスと大洋神オケアノスの娘ペルセーイスとの間に生まれた女神にして女魔術師だな」
「そうです。これは仙境の桃を使った桃花菓子でして、疲労回復の効果があるのですよ」
「ほう」
 ラダマンティスが菓子をつまむ。可愛らしい薄紅色の菓子からはほのかに桃の香がした。
「味も繊細な甘さが美味でしてね。あなたにも茶菓子にどうかと思いまいして。あなた、いつも疲れたような顔をしてますからねぇ」
 と、ミーノスが言う。
「お前やアイアコスがもっと真面目に働いてくれたら、おれの疲労は半減するのだがな」
「あなたが働き過ぎなんですよ」
 ラダマンティスの文句をミーノスは一蹴した。
 だいたいにおいてラダマンティスに「ろくでもない」結果をもたらすミーノスの「贈り物」だが、ミーノス自身には悪意や底意はないのである。むしろラダマンティスにとって良いことだと考えて、気を利かせたうえで行動している。行動しているのだが、結果として、色々とアレなのである。ただ動機は善意なだけにラダマンティスもむげに断ることができないのだった。
「わざわざすまないな、ミーノス。ありがたくもらっておこう」
 結局今回も、ラダマンティスはそう言って桃花菓子を受け取ったのだった。

「へぇ〜、これが仙境の桃花菓子ね」
 カノンは珍しそうに薄紅色の砂糖菓子をつまんだ。その夜、カノンは恋人であるラダマンティスを訪ねて冥界に来ていた。そして私室の机の上に置かれた磁器の碗に気づいたのである。
「ああ。半信半疑だったのだが、実際に食べてみると疲れが本当に取れてな。しかもうまい」
 棚からスコッチの瓶とグラスを二つ取り出しながらラダマンティスが言った。自分の前に一つ、カノンの前にもう一つ、カットグラスを置き、スコッチを注ぐ。
「お前も食べてみるか、カノン?」
「いいのか?冥界のものを食ったら冥界の住人になるという掟が…」
「これは仙境のものだからな。お前が食べても問題はなかろう。スコッチのつまみになかなか合うぞ」
「そうか。では一つ…」
 と言って、カノンは桃花菓子を食べた。舌の上で転がすとさらさらと砂糖が溶け、桃の味と優しい甘みが口の中に広がった。
「うん。確かにうま…い…」
 菓子を飲み込んだその時、カノンの動きが止まった。
「カノン?」
 ラダマンティスが名を呼ぶ。その途端、カノンの体がみるみる縮んでいった。
「な、な、何だぁ!?」
 ラダマンティスが驚いて立ち上がる。その時には向かいにいたカノンは小さくなり、すでに衣類に埋もれていた。衣服に包まれた膨らみがもごもごとうごめき、やがて首の穴の部分からから銀髪の頭がひょこんと飛び出た。背を覆うほどの長さがあった銀髪は、今は肩のあたりにまで短くなっていた。面長だった顔はふっくらと丸顔になり、切れ長だった瞳も丸く大きくなり、小さな顔の中で大きなパーツを占めている。カノンは衣服を引っ張って短くなった手足を何とか上衣の袖口と裾から出した。水色の瞳が周囲をきょろきょろと見渡し、そしてラダマンティスを見上げた。
「カ、カ、カノン…」
「…おじさん、誰?」
 子供の姿になったカノンにそう問われたラダマンティスは言葉も出せず、口をパクパクと開閉させた。

「…これをカノンに食べさせたのですか」
 急遽カイーナに呼ばれたミーノスが桃花菓子をつまみあげた。
「ミーノス、いったい何なのだ、これは!?どうしてカノンがこんな…!?」
「落ち着きなさい、ラダマンティス。うるさいですよ」
「これが落ち着いていられるかーっ!」
 半ばパニックを起こしているラダマンティスと、彼に詰め寄られるミーノスを、椅子に座った子供のカノンは不思議そうな顔で見ていた。カノンが着ていた衣服は体が小さくなったため脱げ落ちてしまい、かといって子供の衣服などカイーナにはないため、カノンは代わりにバスタオルを体に巻きつけていた。
「ふーむ…。この桃花菓子は、仙境の蟠桃を使ったものなのですよ」
「蟠桃?」
「東方の仙境、崑崙の瑤池に住まう西王母という女神のもとにある桃です。人間が食べれば不老長生を得られると言われています。とはいえ、我ら冥闘士は冥衣の作用によって肉体が変容して老化が止まっていますからね。食べても『疲労回復』くらいの効果しかないのですが…人間であるカノンには『若返り』の効果が出てしまったようですね」
「ど、ど、どうすれば元に戻るのだ!?」
「時間がたてば作用が切れて元に戻る…のではないですかねぇ、多分」
「多分!?」
「私もこういうケースは初めて見るので…。なかなか面白…いや、大変なことになりましたね」
「…今、面白いと言いかけたろう、ミーノス」
「……。まあ、パシパエにも対処法を聞いてみますよ。それまでしばらくカノンの面倒はあなたが見てください」
「お、おい、ちょっと待て、ミーノス…」
「では私はこれで」
 無責任にそう言って、ミーノスはトロメアに帰って行った。

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