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2009年10月16日21:22

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ユズリハ外伝ネタバレ

インドとチベットの国境ジャミール。
荒涼とした山地に色とりどりの旗がひるがえる。赤い衣装を着たユズリハに、牡羊座の黄金聖衣をまとったシオンが話しかけた。
「麓の村へ行く途中の谷への転落と聞いた。ユズリハ…あの鳥葬は…」
「…。父様、母様です。弟のトクサだけは深い場所へ落ちたか、遺体は見つかりません」
振り返ったユズリハが笑う。
「シオン様、私は、一族の血を絶やさぬために嫁ぐことに決めました」
その言葉にシオンは瞳を見開いた。
「いいのか?ユズリハ、お前は…」
「…。ええ、私の夢は…、貴方のような戦士になること。でも、いいのです。これが残ったもののつとめ」
鳥がユズリハの周囲を舞う。
「ああ…。鳥たちが父様、母様を連れていく」
赤い衣装を脱ぎ捨てたユズリハが向かいの崖に跳んだ。
「シオン様!わざわざ聖域から来たのは、族長に用があるのでしょう?私はこのまま両親の魂を送ります。さあ、私にはかまわず、きっと族長も首を長くしてお待ちですよ」
「…ああ」
シオンははかなげに笑み、修行に励むトクサとユズリハの姿を思い出した。
『我ら聖闘士といずれ共に聖戦を戦う戦士になると、そう思っていた』
赤い衣装を手にひるがえして鳥とともに舞うユズリハを背後に残し、シオンは歩き出した。
『それが在るべき未来と、信じていたな…』
聖戦とは。
(見開きページ。右ページにサーシャ、テンマ、シジョフォス、シオン、童虎。左ページにハーデス、パンドラ、アイアコス、ミーノス、ラダマンティス、輝火。互いに向き合って争う両陣営の絵)
神話の時代より、二百数十年ごとに地上の覇権を巡って女神アテナと冥王ハーデスの間で繰り広げられていた戦い。百八の魔星に選ばれた不死の戦死・冥闘士を従え地上への侵攻を繰り返すハーデスに対し、この地上を邪悪から守るため、女神アテナは各々の守護星座の名を冠する聖闘士と呼ばれる戦士を率いて戦った。
18世紀の現在、百数十年の時を経て、再び百八の魔星が世に解き放たれた。その意味するところは。
(巨塔から放たれる魔星の絵)
冥王ハーデスの復活。聖戦の幕開け。
(ハーデスの冥衣とキャンバスを手にしたアローン)
『いまや各地で復活した冥闘士たちの猛威が多数報告されている。それら冥闘士の討伐に、幾人かの聖闘士が各地に派遣されたと聞く』
(暴れるギガントたち)
『聖闘士を統べる教皇がなぜ、黄金聖闘士の私を故郷ジャミールに派遣したというのか…?』
見上げるシオンの先にはいわゆる「ムウの館」があった。
壊れた聖衣たちが並ぶ室内でシオンが膝をつく。
「よくもいまさらのこのこと帰ってこれたのう。里帰りか?この師ハクレイに何の用じゃ、小僧!」
先の聖戦時にアテナの血を受けた剣を抱き寄せて座るハクレイに、シオンが不服そうな顔で答えた。
「用でもなけりゃ、わざわざ貴方の顔など拝みに来ませんよ」
「わしも反抗的な弟子が飛び出してせいせいしていたところじゃ。…して?用件とは?」
「教皇セージ様の星見により…このジャミールに凶星の兆しありと」
(スターヒルと星を眺めるセージの絵)
「…弟が…」
剣を横へやるハクレイ。
「確かに…ここ数日、不穏な小宇宙がこのジャミールを取り巻いておる。気づいておったか…」
ハクレイは椅子から立ち上がり、シオンに命を下した。
「わかった。この任務、くれぐれも気をつけてかかれ。絶対じゃぞ」
「!?」
「トクサも逝って、ユズリハも嫁に行くんじゃ。弟子3人に去られては、さすがに落ち込むわい」
悔しげなハクレイの様に、シオンは微笑した。
一方、ユズリハは家でストールをまきつけて床に座り込み、弟トクサのことを思っていた。
『姉さん。母さんからもらったストール、返しちゃったのかい?』
声をかけた弟に振り向くユズリハ。
『ああ、戦うには不要のものだろう?』
廊下を歩むユズリハをトクサが追いかける。
『きっと似合ったのに。母さんの嫁入りの時のだろう?』
『だからさ。私はジャミールのために戦い抜くと決めた。そんな私には似合わんよ』
『姉さんはきっと、何かを守って戦っていたいと息ができないんだね』
歩みを止めたトクサが、そう言った。
『トクサ?』
ユズリハが弟を振り返る。
『いいさ!家は男の僕が継ぐし!姉さんはシオン様みたいな強い戦士になってジャミールを守ってよ』
だけどね。僕は本当は、姉さんには…。
ストールに顔を埋めるユズリハ。
『トクサ…。…昔の夢か。気が弱くなっているな…』
その時、玄関にかけられた布が動いた。ユズリハの前に、ボロボロの少年が立っていた。
「姉さん…」
「ト…クサ?…本当に…?」
弟に抱きつくユズリハ。
「姉…」
「馬鹿者!心配したぞ!心配したぞ!トクサ!」
「うん…。ゴメンね、姉さん…。本当にゴメン…」
姉の胸に顔を埋めるトクサ。だがその左腕からは不穏な小宇宙が立ち上った。
シオンがその小宇宙に気づいた。
「今、一瞬、燃え立つ黒い小宇宙を感じた…。あの方角はユズリハの家…」
まさか。まさか!まさか…!
シオンが駆けつけたとき、ユズリハの家は崩壊、炎上していた。呆然と座り込むユズリハをシオンが見つける。
「ユズリハ!大丈夫か!?」
「シオン様…。申し訳ありません…。我が一族より魔が…魔星が…」
シオンの視線の先には、炎上する家の瓦礫の上に立つ、漆黒の鎧をまとった少年がいた。
「…。トクサ…か?」
冥衣…。冥闘士の証。
「ええ、シオン様。だけど貴方と共に山脈を駆けたトクサはいない。ここにいるのは、百八の魔星の一つ、天巧星ハヌマーンのトクサ!」
「なぜ…」
「僕は冥王の使い、死(タナトス)の声を聞いた!「目覚めよ、魔星よ!」と」
額に五芒星を持つ巨大な影の前に立つトクサ。
「冥闘士となれば、もはや死を恐れることはない。永遠の命を与えると。その代償を捧げよと」
「代償…?まさか…?」
つぶやくユズリハにトクサが告げる。
「愛する者たちの死!」
ぐらりと傾いたユズリハの体をシオンが支える。
「ユズリハ!」
「父様…。母…。…ッ!」
シオンはユズリハの頭をなでつつ悔しがった。
『ハーデス!嘲っているのか…そうやって地上の人々を…。私たち人間の愛情すら踏みにじる…!許せん。絶対に!』
トクサの体を光の柱が覆う。
「ハーデス様へ捧げる代償はあと一つ。何だかわかる?姉さん。それはね」
貴女の死!
「積尸気如意霊臨!」
ユズリハの体を抱いたシオンが跳ぶ。
『くっ…!何て技だ。霊魂を光の柱のように撃つとは…!』
シオンが技からユズリハをかばう。
「ぐわっ!」
その姿を高みから見下ろすトクサ。
「馬鹿だな、シオン様。こんなところであっけなく討ち死にかい?それが…故郷を飛び出してまでなった、牡羊座の最期とはね!」
その時、ユズリハのストールがトクサの右腕にまきついた。
「ちッ!」
「間違うなよ、トクサ。お前の目的は、私のはずだ!」
倒れたシオンを前にユズリハが立ち上がった。
「…フッ!母様のストール!戦には不要じゃなかったっけ?」
ユズリハの拳が震える。
「…息ができないからさ。…わかったよ。やはり私は何かを守って戦ってなきゃ気がすまない。この血筋も、家紋も、父様や母様の思いも。地獄まで守っていく。…全て」
トクサをにらみ、胸を張るユズリハ。
「お前の血をこの身に刻んでな!」
「いいね!やってみせてよ!」
だがそんなユズリハの肩をシオンがつかんだ。
「シオン様!お放しください!どうか!」
「お前が討っては、冥闘士のやり方と同じになる。そこまでの咎は背負うな、ユズリハ」
シオンはトクサと向き合った。トクサの腕からストールが抜け落ちる。
「貴方はいつもそうだな。貴方のその強さに姉さんは憧れ目指し続けた。そして姉さんは今では女ながらにいっぱしの戦士。姉さんが戦いで傷だらけになるのは、貴方のせいだ」
トクサの前に、シオンは静かに立ち続けた。トクサの右腕の中で光が燃える。
「姉さんが女を捨て戦いに身を投じるのも…!だったらせめて…!僕自らの手で、姉さんの命を散らすのみ!」
トクサが拳を振りかざす。
『トクサ…!』
シオンが自らの思いを断ち切る。
『分かれたな、私達の未来』
修行中の己と、トクサ、ユズリハの姿をシオンは思った。
カッと閃光が走る。
「スターダストレボリューション!」
回転する星屑。シオンの必殺技を前に、トクサは吹き飛んだ。
「くッ…!」
「恐らく私の使命は…兄弟子として歪んだお前からユズリハの道を守ること。そしてお前に引導を渡すこと。せめて故郷の地で眠れ!トクサ!」
毅然と言い放ったシオン。大地へ沈んだトクサの前にユズリハが立り、弟の手を握った。
「…姉さん。…血がつくよ。…汚れてしまう」
「ああ。構わないよ。私は戦士だから」
「そう。そうだよね…」
ユズリハの膝の上で、トクサは絶命した。
「シオン様。私はやはり戦士として、この先も強くあります。…だけど」
「ああ…」
「フッ…くっ…」
ユズリハの目から涙が流れる。彼女は弟の体を抱きしめた。
「トクサ!」
その日から、彼女は弟の地を掬い、家紋をその身に刻んだ。
鶴星座(クレイン)のユズリハ。
彼女の決意と共に。
右上腕に紋を刻んだユズリハは、鶴星座の聖衣をまとい、毅然と立った。


ユズリハ外伝です。この時点では冥闘士は生き返りOKのはずなんですが…まあ、いいか。別雑誌の外伝だし。
ユズリハの婿候補の顔を見たかったですが…結局登場しませんでした。
なんで同じ秋田書店とはいえ少女漫画雑誌の『プリンセスGOLD』に掲載なのか分からないのですが、この雑誌は私がほぼ唯一定期的に購入している雑誌なので結果オーライ。
「アリーズ2」とか「エロイカより愛をこめて」とか、滝口琳々さんの中国モノとかが掲載されているので、マイナーだけどワタシ的には濃くて好きな雑誌です。

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