【保存用です、長いです】
皆さま方は、気楽にロックンロールとかロケンロールとか言っておられるけど、rock と roll の意味の違いとか、それがつながるとどうなるとか、考えてみたことがおありかな？
何も考えずにボーっとその単語を口にしてると、どこぞの５歳児はさておいても、「ロックマン」のロックくんとロールちゃんに突っ込まれますぞ。
辞書には、rockは＜（優しく）前後［左右］に動かす、揺する＞、rollは＜転がる、回る、〈車が〉進む・走る、〈波などが〉うねる・波動する＞なんてふうに書かれております。
前者の基本イメージは、子守歌の「Rock a by Baby」や、ゆらゆら寛げる rocking chair（揺り椅子）ですね。
B・B・キングで有名な「Rock Me Baby」（1964）の「ぼくを揺すって、一晩じゅう／背骨がなくなってしまうまで、揺すってほしいんだ」という歌詞も、そうした揺りかごや揺り椅子のイメージを、�．瀬鵐后↓�男女のお楽しみ の暗喩に使ったものと考えて、まず間違いない。
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さて、もういっぽうの roll は、も少しやっかい。
いままたぞろ新譜が話題の、若者音楽奏者がお達者クラブになったローリング・ストーンズ。 あの苔が蒸さない転石（rolling stone）が、流れ者とか風来坊とかいう意味なのは、これはもう皆さんご存じのこと。
この慣用句の黒音楽方面でのお手本になる使用例はというと、･･･いえいえ、テンプスの「Papa Was a Rolling Stone」（1972）じゃなくて、そのネタ元とまではいわないけど大先輩に当たる、オーティス・ブラックウェルの「Daddy Rolling Stone」（1953）。
ブラックウェルは、R＆B の名曲をたくさん書き、プレスリーを（ロックンロールのではなく）中道ポップのスターにするのに貢献した大物ソングライター。 でもってその歌（英国ではザ・フーのカヴァーで知られる）で歌われる、「浮浪雲」をもっと激しくしたような人物像って、まんまブルーズマンのイメージですよね。
ストーンズは、マディ・ウォーターズの「Rollin’ Stone」（1951）にちなんでグループ名をつけたってことになってるけど（だから最新アルバムの最後の曲でも、このマディの曲―もともとは以前からある「Catfish Blues」―のメロとモチーフを借りてる）、意外とブラックウェルの曲も意識してたんじゃね？ とか、私、勝手に思ってます。
でも、以上は “roll＋石”の慣用句の話。 roll の原義に戻るとですね。
やっぱ、黒人霊歌の「Roll, Jordan, Roll」を想い出すあたりから始めたほうがいいでしょう。
そこで歌われるヨルダン川は、実際の中東の川というより、旧約聖書に出てくる、亡くなった人が「約束の地」（キリスト教徒にとってはほぼ天国と同義）にたどり着く前に渡る川。
その川の水に、「ゆらゆらさざ波を立てながらずっと流れ続けてね」と呼びかける歌なんです、あれは（だれです、あのアイドル好きおやじが作詞した「川の流れのように」と似たイメージっすかとか、フキンシンなことをいうのは）。
「roll」のイメージに、たゆたって流れていくさまっていうのがあるから、ポピュラー楽曲の「That Lucky Old Sun」（1949、レイ・チャールスやアリサや大西ユカリで有名）でも、「あの幸せ者のお日さまは、いちんち空を流れ歩いているだけ roll around heaven all day（だけど、ニンゲンの自分は･･･）」なんて歌詞も出てくる。
いっぽうで、ピアノ演奏には rolled chords っていうのがあって、弦楽器のような音を出す奏法らしいんだけど、ジョー・ターナーがブギ・ピアノの名手ピート・ジョンソンに「弾け、弾け」と煽る「Roll 'em Pete」（1938）では、必ずしもそれを指してるんじゃなくて。 ピート、流れるようにブギのピアノを弾いておれをノセてくれよ、というココロなんだろうと思います。
川や海で波が roll すると、当然、船もrollする。 つまり揺れる。
さて、この roll という語がダンス曲で使われた例となると、もちろんこれが最初じゃなんだけど、ファンとしては、ティーン時代のエッタ・ジェイムズの「The Wallflower」（1955）を挙げたい。
これ、別題が「Roll With Me Henry」もしくは 「Dance with Me, Henry」。 歌詞でははっきり、「ヘンリー、私とロールして」と歌っていて、自分と一緒に踊って roll の動きをしましょうよ、と誘う歌なんですが。
それに、なぜ別の題がつけられたかというと、歌詞が当時としてはあまりに suggestive、つまり性的な意味を思い起こさせるとされたからで（踊るときに腰を rollするって、もちろん性的なお楽しみのときの動作とパラレルですからね）。
でもって、無邪気なダンスの歌に、道徳警察的な音楽の世界の偉いさん方がいちゃもんをつけるのを畏れて、そういう工夫がなされた、言い換えれば、まったくの冤罪で迷惑をこうむったのかというと、もちろんそうじゃない。
黒音楽の場合、ダンスと性的な動作とのダブルミーニングは、ブルーズの時代以来、むしろ基本。
とはいえ、ティーンのエッタ（しかも元少女ゴスペル歌手）にこうゆう歌を歌わせるのって、山口百恵に「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」と歌わせたオヤジプロデューサーと同種の心理が働いてたっていう気がしなくもないですが。
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さて、いよいよ rock と roll の合体。
既存の R&B とそれに影響された白人のティーンの音楽に、ロックンロールという名をつけて、ポップ市場でのプロモ―ショーンの道具に使ったのは、50ズの人気ＤＪアラン・フリードだというのが、いまでは定説。
でも、「rocking and rolling」という表現自体は、黒音楽の分野では、じつは第二次世界大戦前からあった。 もちろん、ダンスと性的なことの両方を指すものとして。
たとえば、ロックンロールのルーツの一つだという人も少なくないシスター・ロゼッタ・サープの「Rock Me」。 あの曲の『ビルボード』誌の1942年５月のレビューには（米wikiによれば）、はっきり"rock-and-roll spiritual singing"と書かれているとのこと。
つまり、サウンドの中身だけでなく、それを指す言葉のほうも、どうやらしっかり黒音楽起源なんですよね。
まとめると、「元は海洋の船の揺れを意味する用語 rock and roll が20世紀前半には黒人の間で精神の熱狂及び性行為の連想を意味するようになり R&B などで使われていたが 、1950 年代にアラン・フリードがこの言葉をラジオ放送で使うようになって、 Rock and Roll という言葉が一般に広まり、新たな音楽スタイルを示すようになった」（Y.T.さんの「JAZZ SONG」のサイトの、「"Rock and Roll" という言葉について」から借用
http://jazzsong.la.coocan.jp/es20130905.html ）てなところですかね。
というわけで、ロックくんとロールちゃんのペアにも、それなりに長い歴史があるのでした。
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