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2022年06月21日06:52

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棺(コフィン)から出てくる男

 
【保存用=マニアックなので、スルーしてください】

 スクリーミン・ジェイ・ホーキンスは、広くカヴァーされた有名曲「I Put a Spell on You」と、ブードゥーの魔術を戯画化した舞台演出で知られ、オカルトロックのルーツともいわれるアクの強い歌手(ピアノとサックスもできる)。 
 ちなみに、来日もしている。
 そのホーキンスの評伝、『I Put a Spell on You』をいま拾い読みしてるんだけど、あの人、金箔付きのほら吹きっていうか、ほとんど虚言症なんだね。

 でも、ほらやうそに部分的に事実も含まれているから、評伝書き泣かせ。
 著者のスティーヴ・バーグスマンさんは、残されている多くのインタビュー記録や関係者の証言を付き合わせて、ほんとのところはどうだったのかを、探り出そうと試みている。

 たとえば、アトランティック・レコードの創設者、アーメット・アーティガンが、おれにファッツ・ドミノみたいに歌えというもんだから、殴り倒してやったぜ、というのは、尾ひれのついたほら話。

 アトランティックで、そのころ在籍していたタイニー・グライムズのロッキング・ハイランダーズが録音したときに、ホーキンスも2曲吹きこむことになった。
 「Screamin' Blues」という自作のスロウブルーズを弾き語りしたら、アーティガンがNGを出した。
 「そんなに騒ぎ立てずに、もっとすっきり歌えないのかな。 どんなふうに? ほら、たとえば、ファッツ・ドミノみたいに。」
 ホーキンスはそれに従わず、その録音はお蔵になったんだけど、アーティガンが殴られた という記録はない。
 だいたい、アーティガンはきゃしゃな小男で、ホーキンスはボクサー上がりの大男(タイトルを奪取したことがあるというのは例によってのほら話にしても)。 
 本気でどついたら、アーティガンの顔が無事にすむわけないでしょうと、著者。 そりゃあ、もっともだ。

 ファッツ・ドミノといえば、ホーキンスは、グライムズのバンドをやめたあと、あの太っちょ人気歌手の前座をしていた時期がある。
 「おれのキャラが立ちすぎで、地味な自分がかすむので、首にされたのさ」とホーキンスは語っているが、たぶんそれもうそ。
 ドミノは、前座に派手なアーティストを使うのが好きで、ホーキンスのまえの前座は、あのクレイジーなエスケリータ(本名 Eskew Reeder、リトル・リチャードに大きな影響を与えたニューオーリンズの歌手/ピアニスト)だったのだから。

 人気ヴォーカルグループのドリフターズに棺(ひつぎ)に閉じこめられたというエピソードも、ホーキンスはいろんなヴァージョンを語っているけど、いちばん派手なのは、こんなぐあい。
 「楽屋で棺に入って出を待っていたら、(共演の)ドリフターズのひとりが、いたずらで棺のふたにロックをかけた。
 棺のなかには、3分間分の空気しかない。 絶望のあまり、おれは、ドリフターズのやつらに、呪いをかけてやった。
 渾身の力をふりしぼって暴れたら、幸運にも、棺が壊れて、おれは外に出られた。
 ドリフターズのひとりが犯人なんだけど、それがだれかわからなかったから、逃げるあいつらを追いかけて、一人残らず殴り倒してやった。」

 このドリフターズは、オリジナルのではなく、ベン・E・キングとチャールス・トーマスのドリフターズ(元クラウンズ)。
 この出来事が起こったのはNYのアポロ劇場で、楽屋には、ベン・Eとチャールスがいた。
 ベン・Eは何も知らなかったといい、チャールスは、「おれはなにもしてないけど、そういえば、棺のところで、カチャッという音がしたよ。 あのとき、ロックがかかったんだろうな」と追想している。

 ステージに置かれた棺からホーキンスが出てこず、棺が「嵐のなかの木の葉のように」激しく動いているので、アポロの支配人のフランク・シフマンがあわてた。
 「カーテンを下ろして! カーテンを下ろして!」
 棺から出てきたホーキンスは、だれかを殺しかねない顔をしていた。
 シフマンは、楽屋にベン・Eとチャールスがいるのを見つけて、「あんたら、125番街のほうを散歩してきたほうがいいよ。 スクリーミン・ジェイが頭を冷やすまでね」とアドヴァイス。

 避難していた二人が楽屋に戻ったら、ホーキンスがいて、いかつい声で、「おい、おまえら、こっちへ来い」と呼んだ。
 「おまえらが楽屋で飲んでて、いたずらしたんだろう。 でも、あれは事故だったんだ。 許してやるよ。」
 結局、シフマンの冷静な判断のおかげで、その場はなんとかおさまった。
 「でもね、あの件を思い出すたびに、棺のなかのジェイは、ほんとうにおれたちに呪いをかけたかっただろうなと思うよ」と、これはチャールスの弁。

 近くにいたらかなわん人だろうけど(幼なじみの最初の妻とか、娘さんとか辛い目に遭わされてるし)、お話を読む分には、かなり面白い人です、この元祖オカルトおじさんは。

●BGM:
 Screaming Jay Hawkins - I Put a Spell on You :
 https://www.youtube.com/watch?v=82cdnAUvsw8

 Nina Simone - I put a spell on you:
 https://www.youtube.com/watch?v=ua2k52n_Bvw

 C.C.R./アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー(1968年)
 https://www.youtube.com/watch?v=PyWOsU01_TY
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