フランスで約百万人を動員した本作は航空機事故の調査を行う音声分析官を主役にすえた作品だ。全体の構成要素は一見地味だが、 *1 けっして地味にみせず「音」にまつわるミステリーとサスペンスで登場人物の感情をスリリングに描く。
音声分析にたずさわるマチューは優れた耳を持つプロ。同時に「事実誤認」をゆるせない強迫症めいた性格だ。このマチューのナイーブで厄介な性格は作品を押し進めるエンジン。線が細いイメージもあいまって主演ピエール・ニネが好演する。
タイトルにもあるよう、作品はブラックボックスの「解析」ですすむ。マチューの優れた耳はコックピットの異変――ハイジャックの兆候をつかむ。
だがここから物語は二転三転する。「一致」しないとならないブラックボックスの音声と乗客が遺言にと送った音声がちがうのだ。
以後、周囲の状況は陰謀は連想させ、墜落した機体の自動操縦システムに設計ミスがあった形跡もあらわれる。前担当者ポロックの失踪。ポロックの独断行動の気配。*2
はてはマチューにまで物語は疑惑の目を向ける。強迫症めいたマチューが自身の「ただしさ」の証明に過去マスコミに情報を流出した行動、そもそもマチューの聞いた音は「本物だったか?」 ゆさぶりをかけるのだ。*3
「真実はなにか?」緊張感と緊迫感を最後まで持続する展開は見事で、また「音声分析」なる専門領域の知的興奮をあおる部分も好感。
テンポの速い現代的なフランス映画の秀作だ。*4
※1 「地味」だが「地味」を感覚させないのは何気にすごいことだ。あと関係ないけど日本国内のポスターがフランス・アメリカとくらべ一番かっこいいな。
※2 最初の時点で事件の真相に気付く観客もいるかもしれない。ただ「ではどういう経緯でどうなったのか?」まで予想することのできる観客は少数だ。
※3 この部分は本当に秀逸だ。なにしろマチューは自分の「ただしさ」を証明するため猪突猛進して周囲の迷惑をまったく気にかけない。恋人さえ裏切るし、観客はマチューさえ疑い始める。
※4 スローテンポなフランス映画は今や昔だ。
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