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2020年10月14日08:19

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短期連載ブログ小説 淋しい生き物たち−ねぇおじーちゃん 第3話

 1歳から2歳、3歳とすくすく育っていくクーちゃん、その愛らしさはもうアクリルの中に封じ込めてしまいたいほどだったし、クーちゃんが何かの折にとびきりの笑顔やこちらの方が切なくなるような泣き顔を見せたたときに、時よとまれと念じたことは数えきれなかった。

 あれは3歳のころだったか、我が家に遊びに来ていたクーちゃんがある夜、
「おじーちゃんのおへやでねたいの」と言った。うちに滞在するときにはいつもはお母さんやおばあちゃんと3人、和室で寝ていたので、つまりそれはおじーちゃんとふたりで寝たいという、ぼくにすれば飛び上がりそうなほどうれしい意思表示だった。
 けれどもぼくの部屋は掃除が行き届いていないので、埃がクーちゃんにはよくない。ベッドなので寝相の悪いクーちゃんは落ちる危険性が高い。以上ふたつの理由からお母さんとおばあちゃんに却下されてしまったのだった。
 ぐずるクーちゃんの横でぼくも子どものように少々むくれながら、
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「いつかふたりで旅行に行こうよ」と、泣きそうなクーちゃんをとりなした。
「うん、いつかおじーちゃんとりょこいく」
 多分このときクーちゃんは、旅行というのはぼくとふたりで寝ることだと理解したに違いない。

 やがてクーちゃんが旅行の意味を正しく理解し、小学校1年生になったとき、約3年越しのふたりの夢が実現した。和歌山県まで1泊でパンダを見に行ったのだ。クーちゃんは初めてのパンダや絵本で見るペンギンさんの行進を目の当たりにし、何度も歓声をあげていた。軽くお父さんを押しのけ、クーちゃんにとってナンバー2の地位にのし上がっていたぼくには、絶対に勝ち目のないナンバー1であるお母さんを置き去りにし、クーちゃんを独り占めできるふたり旅は、これ以上の幸せがあるだろうかというくらい極上の2日間になった。
 夜中にはたと目を覚ましたクーちゃんが、「おかあさんは?」とひとぐずりするシーンもありはしたのだけれど。

(挿絵 匿名画伯)

【作中に登場する人物、施設等にモデルはあります、実在のものとは一切関係がありません】
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