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2016年05月27日18:20

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オバマ大統領の広島訪問の波紋は?

丁度今ごろ、オバマ大統領は広島にいるころです。今日のNYタイムズ紙が広島と日本の憲法の問題を取り上げていますので、要訳してみました。長文で恐縮ですがご一読下されば嬉しいです。
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東京は政治経済上の日本の中心であり、京都は幾多の寺院に囲まれた伝統文化の中心である。一方、広島は、71年前にアメリカによって焦土と化し、その後、新たなる平和国家として再生をはたした日本という国にとって、いろいろな意味で精神的なアイデンティティだと言える。

20世紀の前半、武力でアジアの国々を蹂躙した軍国主義帝国から、日本は一夜にして民主主義と平和主義へと豹変したかに見える。戦後71年間、日本は一人の兵士も戦場に送らずにきた。かっての同盟国ドイツをもしのぐ平和の記録を作った。

だが、今オバマ大統領が広島の地に立ち、再び広島とその過去に注目が集まる一方で、長年に亘り広島に代表されてきた平和の理想が薄れて行くのではないかと、多くの日本人が心配しているのも事実である。
安倍首相が提唱する野心的な保守運動によって、この不戦の理想が未だかってない危機に直面している。

ノーベル賞作家で平和運動家の大江健三郎氏は「広島は唯の一都市ではない。広島は日本人の究極の心を表す場所なのだ。だが本当にそうなのか、と最近疑問に思うようになった」と語る。
彼は、原爆で20万人の命が奪われた広島と長崎について多くの著書を出している。
昨年10月、終戦後70年を記念して、横須賀に停泊する空母ロナルド・レーガンを訪れた安倍首相は「戦争の後に日本が背負わされた服従の時代は終わった」と宣言した。
大江氏は言う「日本の憲法は東京で作られたのでなく、広島で作られたのだ。」

日本国憲法は、戦争放棄を宣言し、陸海空軍を含むいかなる軍隊も保持しない。交戦権を行使しないと述べている。
しかし、この憲法も外敵が見えてくるにつれて、反対運動が起こってきた。広島に象徴された平和主義も、いまや戦争を知らない若い世代に理解されようと必死にならざるを得ないのが現状だ。
「オバマ大統領の広島訪問は、いまこの国で起こっていることと広島とのかい離がはっきりしだした時期にぶつかっている」と語るのは前広島市長の秋葉氏である。

戦後70年、安倍首相率いる自民党は、戦後の日本に課せられた服従の首枷は時代遅れだと断じる。そして不戦の誓いをふくめて現行憲法の改定を主張しているのだ。

自衛隊は確かに戦闘目的での海外派兵はしていないが、二年前の御殿場での訓練の際に、自衛隊幹部は「日本の平和憲法は再軍備を否定するものではない」と隊員に語っている。
力を付けて自己主張を強める中国と核武装した北朝鮮を目前にして、憲法改正をしないのはナンセンスだと安倍首相は主張する。広島から広まった内向きな反戦論に対して、より積極的なオプションを提唱しているのだ。より自由な軍隊と国際問題でより大きな役割を演じることができる「普通の国」を目指そうと提唱する。

この主張は、広島の記念碑に刻まれた「二度と過ちはくり返しません」という言葉と、爆心地近くに骨組みをむき出しに立つ原爆ドームが表す精神に反すると感じる人は少なくない。
「安倍の主張は一種の軍国平和主義だ。戦争は避けられないものという前提だ」と語るのは、元広島平和協会の理事長で現在大阪経済大学教授の浅井氏である。「もし国民が安倍の主張に同調するようなことになれば、戦後自分たちが獲得した平和主義憲法を否定することになる。」

日本の平和主義は多くの矛盾をはらんでいるのも確かだ。
自衛隊は確かに戦闘目的の海外派兵はしていないが、平和憲法も事実上の軍隊を保持することを阻止できなかったのも事実だ。
日本の首脳たちは核兵器の開発は否定しているが、アメリカの核の傘は大歓迎だ。自分たちは外国で戦うことはしないが、アメリカがやる軍事行動には支持を表明してきた。

安倍首相はまだ憲法改正ができる議席を確保できた訳ではない。多くの専門家は改憲は事実上できないだろうと考えている。
それだけハードルは高いのだ。衆参両院で三分の二以上の賛成票を集めた上で、国民投票で過半数の賛成を得ねば改憲はできない。1947年に発効していらい一度も改正されてこなかった。

だが、安倍首相は憲法の精神を破壊し始めている。2012年に政権奪還して以来、前例のないほどの防衛費のかさ上げに成功し、何十年も禁止されてきた武器輸出も事実上解禁、更に自衛隊の海外での戦闘を可能にする安保関連法を成立させてしまった。

この変化は、極東地域でのアメリカの存在感を高めたいオバマ政権にとっては歓迎である。だが、日本の侵略と植民地化の苦しみをまだ鮮明に記憶しているアジア諸国、殊に中国を刺激することになる。

安倍首相は「閣議決定」という形で憲法の解釈変更により安保法制を強行成立させた。法学者や広島に原点をおく平和団体は、明らかな違法行為であり、平和条項の第9条を骨抜きにするとして一斉に反対運動を展開してきた。

原爆投下70周年の昨年8月に被爆者で構成する7つの団体が連名で安倍首相に対し安保法案の撤回をもとめる書簡を提出したが彼は取り合わず、翌月の国会で法案を強行可決していまったのだ。
平和団体が法律撤廃の訴訟を試みるが、日本の最高裁は安全保障に関する問題で政府に再考を求めたことはない。

世論調査では国民の多数は安倍首相の軍国化に反対だ。だがこの問題は世論の関心のトップにはならない。トップはいつも景気回復だ。
自民党の支持率は高止まりする一方、安保法制に反対する野党の支持率はいずれも一桁と低迷している。

安倍首相の主張は市民の反発に遭い、昨年の安保法案審議には国会前の大規模な抗議デモも起きたが、内部抗争や弱体化した指導力などで野党はこの市民の盛り上がりのチャンスを捉えることができなかった。

大阪経済大の浅井教授は「多くの市民が安倍のやり方に反発を感じていたが、安倍一派が中国や北朝鮮の脅威をチラつかせると、どうしようもないかと引っ込んでしまう」と語る。
安倍首相の周辺は、オバマ大統領の広島訪問で支持率があがることを期待する。長く待ち焦がれて来た原爆投下に対する謝罪がなくても、多くの国民はアメリカ大統領の広島訪問を歓迎している。そして反対派の無念をよそに、安倍首相はそのおコボレを頂戴することになろう。

「オバマが広島を訪問し、その結果が安倍の人気を煽る結果になり、憲法9条の命運が危うくなれば、こんな酷い話はない」と語るのはアメリカに被爆者を連れて行った実績のあるピース・ボートの吉岡代表である。

安倍首相は7月には参議院選挙を迎える。周囲は衆議院を解散して衆参同時選挙に期待する。そしてもし自民党が勝利すれば、安倍内閣はあと4年間政権を維持することができ、改憲論者にとって目標に一歩近づくことができるということだ。

広島で長年平和運動に携わってきた森谷春子さんは「オバマ大統領の広島訪問は歓迎しますが、原爆投下が誤りであったことを認めて欲しいです。そして一番嫌やなことは、安倍首相がオバマ大統領と並んで脚光を浴び、その結果、広島が体験した歴史的悲劇の教訓が薄れてゆくことです。オバマ大統領が記念碑に参拝する姿は見たいけど、その隣に安倍がいるのは見たくない。広島が彼に利用されるのを見たくないのです。」と語っている。



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