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2016年05月25日13:38

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マルティノン、二つ目の『悲愴』

 inaから発売になったジャン・マルティノンのライヴ録音、チャイコフスキーの『悲愴』が届いた。

 1971年10月20日 パリ・シャンゼリゼ劇場でのライヴ録音だが、先ずこの時代のものとしてはすこぶる録音がいい。混濁感のないクリアな音で楽器間のバランスもいい。

 マルティノンの『悲愴』というとウィーン・フィルを指揮した1958年の英デッカ録音が有名だ。これはウィーン・フィルとしては録音史上初のステレオ録音による『悲愴』で、大袈裟に表現すれば画期的なものだった。しかもマルティノンがウィーン・フィルを指揮したものはこれ一枚しか存在しない。後にも先にもマルティノンとウィーン・フィルの顔合わせが他に無いというのはレコード史上のミステリーといっていいだろう。

 このウィーン・フィルとの『悲愴』はデッカの録音の素晴らしさも相まって、この曲の代表的なレコードとして日本ではベストセラーになった。私事ながら初めて小遣いで買った『悲愴』がキング・レコードから発売されていたこのレコードだった。

 多くの録音を残したマルティノンも『悲愴』に再録音はなかった。そこに登場したのが今回のライヴ録音。

 さて14年後の演奏はどのように変化したのだろうか。こう言っては身も蓋もないようだが殆ど変化は見られなかった。それだけこの曲の解釈は揺るぎないものというべきだろうか。後半の二つの楽章は各1分ほどテンポが遅くなっているが、過度の感傷を嫌った演奏は共通している。只、第4楽章などはやはり時を経た深みのようなものが感じられはするが。

 1950年代のマルティノンは総体にテンポが速く溌剌とした演奏が身上だった。それが70年頃になると遅くはないがテンポが落ち着き風格ある演奏を聴かせるように変わってくる。

 しかし『悲愴』の演奏にその変化が見られないこと、生涯セッション録音を一度しかしなかったことなど考え合わせると、マルティノンにとって『悲愴』という曲は、それほど大きな意味を持つ曲ではなかったのではないだろうか。そんなことを思い巡らしながら聴いた一枚だった。
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