【新春特別ソウル本紹介―保存用です、長いのでスルーしてください】
コスグローヴの３巻シリーズのソウル史本、『Detroit 67』、『Memphis 68』、『Harlem 69』。 去年、最後のニューヨーク編を読んで、知らないことがたくさん書いてあったのにびっくり。
お次にモータウンの変貌と内紛を扱ったデトロイト編を読み、最後にこのメンフィス編に手を伸ばした。 変な順番だけど、歴史なんて好きなところから読めばいいのよ。
この『Memphis 68』の副題は、「サザンソウルの悲劇」。
おそらくサザンソウルファンにとって（オーティスとそのクルーの事故死以外の）最大の悲劇は、1975年末のスタックスレコードの倒産だろう。
そしてそこに至る道のりの出発点は、この1968年にワーナーブラザーズ／セヴンアーツがアトランティックを傘下に入れ、アトランティックとの契約のスタックスにとってきわめて不利な事項（ジェリー・ウェクスラーは「知らなかった」といっているらしいけど、彼もけっこう古狸だからね）の履行を求めたことだった。
それによって、両社の牧歌的なwin-winの関係は終わりを告げる。
もう一つ、この年に、メンフィスで大きな悲劇が起こった。
キング牧師の暗殺と、そのあとに黒人街で起きた暴動だ。
ピーター・ギュラルニックの『スウィート・ソウル・ミュージック』にいわせれば、この暴動が、ブッカー・ＴとＭＧズのメンバー構成に象徴されるような、公民権運動の牧歌的な人種統合の理念の終わりを告げた、ということになる（ちょっとうがちすぎみたいな気もするけどね）。
この本、たとえば、ゴスペルの世界出身のジョニー・テイラーが不倫ソング、「フーズ・メイキング・ラヴ」を歌うのをとても嫌がったというエピソードのあとに、死後に明らかになったキング牧師の不倫（お盛んなのは盟友のＣ・Ｌ・フランクリン牧師だけではなかった）についても述べる、といったふうに進むんだけど、不倫話の件はここではさておいて。
今回は、メンフィスで録音したソウル歌手の大物の一人、ウィルソン・ピケットについて。 つまり、どうしてピケットが wicked と呼ばれたのかって話ね。
Wilson Pickett (March 18, 1941 – January 19, 2006)。 アラバマ州プラットヴィルで11人きょうだいの４番目として生まれ、しつけ（というか体罰）が厳しい母の手で育てられたが、14のときに父がいるデトロイトに行く。
＜デトロイトっ子としてのティーンエイジャー時代、ピケットは危険なまでに各種の銃に入れ込み、無分別に武器を持ち歩いた。 ［ドン・］コヴェイは、『若くてやんちゃ（wild）だったんだ』というが、他の人たちはそんなに優しい言い方はしない。 何人ものスタックスのミュージシャンが、ほんのちょっとの不都合でもすぐキレてしまう、火山のような彼の気質を見聞きし、スタジオの廊下でさえピケットを避けるようになった。
ジム・スチュアート［スタックスの社長］は再度の録音を断り、ピケットはスタックスのスタジオを出禁になった。
アトランティックの経営陣は、ピケットを北部に戻して録音させるのではなく、NBAがけんかっ早いバスケットのスター・プレイヤーを別のチームへ移籍させるのと同じ対応をした。 彼は、今度はメンフィスのトーマス・ストリートにあるアメリカンサウンドに移され、そこで、ボビー・ウォマックと一緒にレコーディングした。
そして、最後に、アメリカンのスタッフがもう我慢できないと言うようになったとき、スタックスとの関係がまずくなったときにジェリー・ウェクスラーのレーダーが探知したスタックスの南部でのライヴァル、アラバマのマスル・ショールズでリック・ホールが運営するフェイム・スタジオへピケットは送り込まれた。
ピケットは生涯を通じて、その癇癪持ちの気質を自制できず、銃への強迫的なこだわりも弱まることがなかった。 1987年に、弾を装填したショットガンを車に積んでいたかどで実刑判決を受けそうになったが、司法取引をし、多額の罰金を払って刑務所に入るのを免れた。 そのあと、ニュージャージー州イングルウッドで、公園の芝生の上を無謀運転したかどで逮捕されている。 何かで腹を立て、公共施設への仕返しをしたらしいのだが、何が理由だったのかはよくわからない。
他にも何度も、飲酒運転や薬物事案、配偶者への暴力で罰金を科されているが、もっとも悲劇的なのは、86歳の通行人を死に至らしめた事故だろう。 ピケットが運転する車が、ニュージャージー在住の引退したアニメーター、ペプ・ルイズをはねた。 ルイズは、ニューヨーク市のアニメーター組合の副会長を務めたことがある人で、その葬式には彼を悼む多くの友人や同業者が集まった。
しかし、彼の人生が数多くの犯歴や約束破りや過失事故に彩られているにもかかわらず、「ウィッキド［“邪悪な”とbadより“格好いい”の二つの意味がかかっている］」・ウィルソン・ピケットは、音楽愛好家たちにひんぱんに賛美され、そしてその偉大なメンフィス録音のレコードは、彼の暗くアブナいパーソナリティをなんとか包み隠している。＞（Cosgrove, 2018, pp.57-58）
そういや、ディスコかライヴスポットでの日本公演のときも、ツアー中に腹を立てて、バンドメンバーを首にした、といううわさが流れてきました（そのときのパフォーマンス、かなりお座なりっぽかった）。
コスグレイヴに言わせれば、アトランティックがスタックスに送り込んだもう一人の北部の歌手、ドン・コヴェイは、自信過剰で気分屋のピケットとは正反対の、内気で自分に自信が持てないタイプのアーティストで（むしろソングライター向き？）、二人の性格を混ぜればちょうどよくなるのに、みたいな感じだったらしいです。
あと、抜粋して訳したくだりの前に書いてあることだけど、ピケットは飲酒と飲酒運転だけでなく、ギャンブルのほうもかなりだったみたい。 楽屋で、おまえは「カイジ」かみたいな、負ければ年収が吹っ飛ぶくらいの額をかけて賭け事をしたらしい。
刹那的に快楽やスリルを追い求めるタイプの人だったんだろうね。
音楽性はともかく了見や性根は、のちの都市スラムのギャングスタ―ラッパーたちの大先輩に当たるような人だったんだろうなと思ったりする。
読み進んで、気が向いたら今度は、スタックスが破産に至る詳しいいきさつについて紹介しますね（サウジアラビアの王だか王子だかの暗殺によってオイルマネーという頼みの綱が断たれたことがとどめをさしたという、めちゃ意外な裏話が書かれているようです）。
〇BGM
�〕萋�の二年前のTV出演、やはりかっこいい：
Wilson Pickett on Letterman, January 15, 1986
https://www.youtube.com/watch?v=09unkUlX9DA
�■沓闇�代のマスル・ショールズ録音のベストカットのひとつ：
Wilson Pickett Soft Soul, Boogie Woogie
https://www.youtube.com/watch?v=nDwEl8TtqlM
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