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2022年11月21日20:06

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【ブックレビュー】人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても

人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても
戸田真琴著
角川書店


 タイトルが刺さった人が多かったかもしれません。私には刺さりました。「人を心から愛する」という事が、どういう事なのか、分からないからです。恋愛に夢中になっている時は相手を心から愛していると感じていても、冷めてしまったら、あれは本当の愛だったのか、ただの性愛ではなかったのか、と考えてしまいます。たぶんただの性愛だったのでしょう。恋愛ホルモンすげえ。
「人を心から愛する」の定義は存在しません。その心的状態を可視化する事もできません。脳科学がもっともっと進んだら、脳内の化学的・電気的状態をもって「人を心から愛する」事の定義ができるかもしれませんね。味気ない話ですが。



 本書は、僕らの天使、まこりんこと戸田真琴さんの2冊目のエッセイです。映画を映し鏡にして自分の孤独や悲しみを見て、スクリーンに映る誰かに心から寄り添いたいと願うように、ファンのひとりひとりを愛そうと努める、そんな人です。


・・・・・
 誰かを好きになるということは、孤独を覚悟することだ。そうして、1000人のうちの1人だろうと、1万人のうちの1人だろうと、誰にでも同じファンサービスをしているんじゃないかと、同じ言葉をかけているんじゃないかと不安になろうと、相手と自分の間にだけ通じている交感があるのだと信じ切ることが、愛を達成することだ。
・・・・・(P102)


 厳格な母親に性的な抑圧を押し付けられて、周囲の恋愛事情から逃げ、男からの告白を拒否し、他人との関係性を見失って自我の重さに耐えられなくなった時に、AV女優として消費され、限界まで値踏みされる生き方を選んだ…私の拙い要約では全く伝わりませんが、そういう動機でAV女優になったと記しています。「人は、孤独でいられる瞬間をなくすと、自分が誰なのかわからなくなってしまう。」(P149)、「ヒーローが勝つことよりも、悪役がどうして悪いことをする人になってしまったのか、その孤独をもっと知りたいと思ってしまう。」(P155)という人です。

 ほとんど本を読まないと書いていますが、きわめて優しい言葉を選び、自分の孤独にも他人の孤独にも寄り添う生き方を、前向きとは少し違う、抑制の効いた文章で綴っています。恋人と別れた時や、誰かに傷つけられた時、夢が叶わなかった時、ぜひ手に取って欲しい一冊です。

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