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2022年11月21日18:46

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【ブックレビュー】ウクライナ戦争と米中対立

ウクライナ戦争と米中対立
(副題)帝国主義に逆襲される世界
峯村健司(ホスト)
幻冬舎新書


 著者は朝日新聞社において珍しく自民党寄りと目されていたため、保守系の人達からは「朝日の良心」と呼ばれていました。退社時のゴタゴタは会社側の嫌がらせと見る向きもあるようですね。現在は青山学院大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員をされています。本書は、朝日新聞社退社後初の出版で、5人の専門家へのインタビューです…が、実質的には対等な対談のような雰囲気です。

第一章 プーチンの戦争・習近平の夢
小泉悠(軍事評論家・ロシアが専門)

第二章 武器を使わない戦争
鈴木一人(国際政治学者)

第三章 苦境に立つアメリカ
村野将(安全保障政策)

第四章 台湾有事のリスクとシナリオ
小野田治(元空将・軍事評論家?)

第五章パワーポリティクスに回帰する世界
細谷雄一(国際政治学者)


 という、その道の専門家が相手です。
 タイトルと副題にある通り、ウクライナ戦争を物差しとして、あるいは鏡として、米中関係とりわけ日本に直接関係する台湾問題を中心に、世界が民主主義から権威主義に移行していく傾向に警鐘を鳴らす内容となっています。前回紹介した対談本(ウクライナ戦争の200日https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1983377750&owner_id=29675278)と同様、気になった部分を抜き出して本書の紹介とします。


・・・・・
小泉 白人が犠牲になった途端に、みんな同情を寄せ始めるんです。白人ではないわれわれ日本人でさえ、チェチェン人やシリア人よりもウクライナ人に同情している。自分自身、そういう内なる差別意識みたいなものをグサッと尽きつけられたような気がします。
・・・・・(P28)


 これは仕方ないといいますか、命の価値を差別するのは人間の性でしょうか。アジア人の方が実際の距離が近いとはいえ、心理的な距離は別ですから。


・・・・・
村野(前略)
 ここから逆に言えるのは、核使用の閾値を下げなければならないのは中国側ではなく、むしろわれわれ現状維持国側ではないかということです。アメリカは、欧州においては通常戦力面でいまだにロシアに対して優勢を保っていますが、インド太平洋地域においては、通常戦力面で劣勢になりつつあります。(中略)中国の立場はロシアとは違います。実は通常戦力面で劣勢に立たされているのはわれわれだということを、忘れてはいけません。
・・・・・(P199)


 とはいえアメリカが先に核兵器を使う事はないでしょうから、日本や韓国や台湾がリース(シェア)された核兵器を使うという事になるでしょうか。


・・・・・
峯村(中略) 一部のテレビのコメンテーターや有識者は、ロシアの侵攻は問題だが、ウクライナ側にも非があるという「どっちもどっち論」を展開していました。だからこそウクライナは戦争被害が拡大する前に降伏したほうがいい、という主張です。(以下略)
・・・・・(P263)


 私はテレビを殆ど観ないので、実際にどんなコメントだったのか分かりませんが、この点は著者や世間一般とちょっと違う見方をしているかもしれません。
 まず、戦争開始前後で切り分けるのが必要だと思います。戦争開始後は民主主義陣営(というか反権威主義陣営)がウクライナを支援するのは当然で、ロシア早く負けて引っ込めと思っています。ただ、戦争開始前にウクライナ政府に落ち度や見込み違いがなかったのか、本当に戦争を回避する努力をしていたのか、という点については検証すべきでしょう。そこから、台湾や日本が学ぶ事があるかもしれません。
 さらに、戦争の影響による資源不足や食料不足、経済の停滞、といった理由で人命が失われつつある事を重視したいです。その失われた人命の合計がウクライナ戦争で失われたウクライナ人や周辺国の国民の合計を上回った場合、功利主義(帰結主義)では、ウクライナを見殺しにするかもしれません。反権威主義国家は全て民主主義ですので、その政府が、自国が苦しくなり選挙で負けるリスクを負ってまでウクライナを支援して戦争を長期化するでしょうか。ひと口で「ウクライナ疲れ」と言うと非倫理的なようですが、現在の世界は功利主義が主流ですので、ウクライナを見捨てる事がより倫理的である、という結論に至る可能性が高いです。私は義務論者ですが。もちろん、中国が台湾に攻め入った場合、台湾と日本を見捨てるのがより倫理的だ、というケースもあるかもしれませんね。


・・・・・
細谷 私が5月にポーランドで政府関係者に会ったときにも、「ロシアはタフだ。少しのことでは諦めない。必ず再び力を蓄えてキーウを攻撃するだろう」と言っていました。(中略)多くの人が10年くらい続くだろうと見ている。
・・・・・(P289)


 これにはげんなりしてしまいました。その10年間で世界がどのような対応をするのが分かりませんが、例えば、小麦粉を趣味に使うのを止める(!)とか、ロシアからのパイプラインを全廃して原発をたくさん作る、といった可能性もありますね。米粉スイーツを勉強しなければ…(´・ω・`)。



 他にも、皆様さすがその道の専門家で、鋭い分析や指摘に溢れています。全体的に反中国・反権威主義というトーンですが、これは現在の日本では当然の姿勢ですね。ただ、著者が紹介している通り、アメリカの研究では、世界人口の中で民主主義国の人数は過半数を割り込んでいます(P293)し、先日の報道では、国連で投票する場合、民主主義国家の方が少ないという事態となっています。これは、世界の行方を投票という民主主義のツールで決めると、民主主義側が破れる、という意味です。本書の専門家の皆様が予想する通りに数年以内(早ければ来年?)にも台中戦争が始まりそうです。その時、民主主義国家側が勝つ事ができるのかどうか、正念場ですね。多くの人に読んで欲しい一冊ですが、自国の政治にすら興味を持たない人に届くかどうか…。

追記
 テーマ違いかもしれませんが、ロシアも中国も、低迷から脱して大国に育ったのは欧米と日本の欲(自由主義経済)が原動力という点はもっと省みて欲しかったかなと思います。

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