この作品も結構前から公開を待っていたのですが、いつの間にか静岡でもシレッと公開されていたので慌てて行ってきました。
注目のA24配給で、なんとなくあの「ミッドサマー」を思わせる、可愛らしくもダークな世界観というのが良かったのでしょうか。
なかなかヒットしているらしく、平日の劇場でもそれなりにお客さんが入っていました。
「ミッドサマー」も、ヒットするような映画じゃないけどね!
日本は今日も、すっかり狂っています。
結構大きな劇場で観ましたが、その意味がありました。
この作品はできるだけ大きなスクリーンで、できれば前の方で観ると、凄まじい迫力だと思います。
アイスランドの山間部の、あの素晴らしいロケーション!
超巨大な山々、広大な草原、濃密な霧等を、まさに体感できるからです。
まず、これだけでも大きな価値があります。
A24映画だから、考察が必須の難解な映画なのかと思う人もいるでしょう。
全然違います。
鑑賞後の考察はまず不要、見たままを感じるだけで構わないお話だと思います。
しかし、観ている間はずっと考える必要があります。
なにしろ、無口な映画なのです。
徹底的に説明をしてくれません。
一組の夫婦が登場しますが、彼らも無口。
話しても「タイムマシンがあったら過去に行きたい?」みたいな、大学生のピロートークみたいな会話。
まあ、これも実は意味があるとは言えるのですが・・・。
しかしまあ、映像の美しさと迫力には圧倒されます。
序盤は展開がゆっくりなのですが、まったく飽きさせません。
アイスランドの田舎の暮らしぶりを体感できます。
可愛い動物もたっぷり。
羊だけじゃなく、かしこい犬も可愛い猫もじっくり愛でる事が可能です。
動物好きはマスト!
無残に死ぬ場合もありますが、あくまでも映画の中でのお話。
心配になったら、隣の方に「これは現実じゃないですよね?」と確認してみてください。
そして、ついに「タブー」が生まれます。
アダちゃんです。
普通の羊の出産シーンかと思うと、夫婦のリアクションがおかしい。
でも、アダちゃんの異常さはそこでは描かれません。
何かがおかしいはずだが、その理由はすぐには語られません。
ここが上手いですね!
予告でアダちゃんの姿が出ているので、こちらは既にネタバレされているのですが、それでもスリリングです。
そして遂にその姿がハッキリ映るシーンのショック!
前半のハイライトでしょうね。
後半は・・・かなりコメディっぽくなります。
夫の弟がやって来るのですが、アダちゃんを隠すのかと思いきや、普通に家族紹介するのです。
「エッ、ちょっと待って」
弟のショックとは裏腹に、アダちゃんの可愛さが満開です。
ここは本当に何度も笑ってしまいました。
しかし、この弟が何を考えているのか、やっぱり分からない。
アダちゃんをどうするのか。
兄貴の奥さんにも・・・。
不穏な雰囲気と、能天気なほのぼの感が並行して描かれる、異常な家族ドラマが始まった!
一体、これは何だ。
で、まあ、カタストロフィが訪れるわけですが、やられました。
思いもしなかった。
唖然としましたよ!
確かに、考えてみればこちらはアダちゃんを受け入れていたわけだから、決してアンフェアな展開では無いのです。
むしろ、当然とも言えます。
それなのに、誰にもこれは予測できないのです。
パンフレットを読むと、監督はアイスランドの様々な民話の要素を映画に散りばめてあるようです。
幾分、宗教的に思えるのも、それが原因かもしれません。
お話は実にシンプルなのですが、監督は観客に映画の世界へ没入させた上でヒョイと投げてしまいます。
驚いてもらう事に対しては、結構意識的なのです。
こちらの思い込みを利用して最後に裏切るというところは、ミステリー的とすら思います。
多くの人の感想では、因果応報な物語だと理解されているようです。
普通に観ればそうでしょう。
しかし、監督は決して、罪人とされるべき人間にも批判的では無いのです。
自然にも運命にも、人間には決して抗えない。
そうした監督の発言が、パンフレットには散見されました。
今回のこの不可解な物語の成り行きも、誰にも止める事は出来ない事だったのでしょう。
その中で起きた、楽しく美しい瞬間、残忍で恐ろしい瞬間、悲劇。
それぞれを否定も肯定もせず、力強く描いてみせたわけです。
過去に戻れたとしても、彼らはきっとまた同じ行動をするでしょう。
皆、自分に対して誠実な行動をしていただけだからです。
それが残忍な行為であっても。
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