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2022年08月10日23:45

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美術教師は,役所お抱えの美術専門家です…僕が常々思っていること

 先生方の美術展覧会,大いに興味を抱くと同時に人々の考えを変えさせるきっかけにもなれば良いと感じます。

 都道府県と市区町村とを問わず,地方自治体の行政においては美術に関わる事柄が少なくありません。公立美術館の運営や芸術振興などは当然ですが,その他にもポスター制作等の広報活動等においても美術の力が不可欠なのは言うまでもありません。このうち美術館については研究を行う関係上,専門職の学芸員が在籍していますが,それ以外については外部の有識者の力を借りることが大部分です。また美術館においてもそこに展示される作品は,地元出身の美術家や美術愛好家からの寄贈といった場合を除けば外部からの購入や借用によることが殆どです。
 無論,行政機関が外部の優れた力を借りること自体は全く問題無いどころか積極的に進めるべき事柄です。しかし,内部に専門家が居る場合にまで外部有識者の力に頼る必要があるのか。仮に行政機関内部の独善を避けるために外部有識者にご協力を頂くにせよ,少なくとも内部専門家に積極的に活躍してもらうのがコストの面でも人材育成の面でも好ましいのではないか。或いは外部有識者に意思決定の大部分を委ねるにせよ,その決定内容の妥当性を審査するためにも内部専門家の力は不可欠ではないか。僕はそのようなことを以前から考えておりました。たとえば自治体が広報でポスターを作るとします。現在ではそうした場合には広告代理店などに制作を依頼し,採否について最終決定を下す行政職員も別に美術の知識の持ち主というわけではありません。もし内部に専門家が居れば職員にポスターを創らせることも可能です。それが本当に世間で好評を得るかについては外部有識者に審査に加わって頂くにせよ,ゼロから外注するよりはコスト面でも事務手続面でもずっと有利になります。或いは外部のデザイナーにポスターを制作して頂くとしても,その採否を決める際には内部の美術専門家が加わったほうがより妥当性の高い決定を下せるでしょう。また美術作品についても,既に評価の高い優れた作品の収蔵に力を入れるべきは当然として,仮にも展示を行う以上は作品の数も大切ですから,行政機関内部の専門家が作品を制作してそれを収蔵・展示することが出来ればそれは美術館の振興にも極めて有益な話です。

 このようなことを申し上げると,或いはこの文章をお読みの皆様は「行政機関の内部に,美術の専門家が居るのかね」という疑問をお持ちになるかもしれませんね。実は大勢いらっしゃいます。公立の中学の美術教師は市区町村職員(給与支払者は都道府県。但し政令指定都市の場合は給与支払も指定市),公立高校の美術教師は都道府県の職員です。因みに公立小学校の教員については制度は中学教師と同様の仕組みになっています。小学校には特定科目専門の教師はあまり在籍していませんが,中には大学で美術を専攻して教師になったという先生もいらっしゃいますね。
 このように申し上げると「美術教師を美術専門家と言えるのか」という反論も予想されるところです。「たしかに美術教師は大学で美術を専攻した人々だ。しかし中学・高校の数学教師を数学者とは言わないし,地歴・公民科の教師を社会科学者とは言わない。中には学者を兼任している人も居るのかもしれないが」と。しかし僕の経験で言えば,大学で美術を専攻した人々は専門家と言えるだけの力量・見識を充分に持っています。僕は美術愛好者として数多くの美術作品を鑑賞していて,時にはそれら作品を制作した作者さんたちとお話をしたこともあります。そうして作品を鑑賞させて頂きお話を拝聴させて頂いた中には,学生さんを含む若手美術家も少なくありません。そんな経験から「学生の時点ですらそうなのだから,そういう段階を経て美術教師になった人々は専門家としての力量と知識とを充分に有している」と僕は自信を持って断言出来ます。

 無論,僕がこのように申し上げても「お前の経験などどこまで信用出来るものか」とお感じの方もいらっしゃることでしょう。そこまでではなくても「お前の経験のみでは根拠として不十分だ。また仮にお前の言うとおりに美術教師が学生時代には専門家と言えるだけの力量と知識とを持っていたとしても,その後制作や研鑽に励めなければ力を落としてしまうのではないか」というご批判も予想されるところです。たしかにそれらのご批判は一理あると言えると僕も思います。僕の知っている美術大学の学生さんは全体のごくごく一部だし,教師があまりの忙しさに強化研究に時間を割けないという問題は既にあちこちで指摘されています。したがって専門家と言えるだけの力量を持たない,或いは失ってしまった美術教師が存在する可能性は非常に高いと言えると僕も思います。
 しかし逆に「美術教師は全くの素人である」と言えるかといえば,それもまた明らかに事実に反するでしょう。仮に「美術教師を専門家とは言えない」という指摘については認めるにせよ,彼らが素人よりもはるかに専門家に近いだけの力量と知識とを持った人々であることも事実です。或る程度の研鑽を積めば容易に専門家になり得る存在であると言えるのは間違いありません。そうした取組によって公立学校の美術教師に「役所お抱えの美術専門家」として活躍して頂けるようになれば,最初に述べたようにそのメリットは計り知れません。そのためには美術教師の採用を増やして直接教鞭を執るほかに文化行政や制作活動等・或いは研鑽に関われる時間的余裕を確保出来るようにする必要があります。但し,それを実現するには当然ながら決して小さくない予算措置が不可欠です。

 そうした予算措置について人々の理解を得るのに何より有益なのは,公立学校の美術教師たちが大変な力量を有する専門家であり,或いは専門家になり得るだけの存在であることを示すことでしょう。今回,三浦市の市立中学で教鞭を執る美術の先生方による展覧会が開かれるというニュースを知り,この機会に人々が美術教師の力量の凄さを認識することになったならばどれほど素晴らしいかと感じています。今回の取組に続き,全国の先生方にも同様にご自身の作品を発表して頂ければと願っています。それによって人々が「美術教師は,役所お抱えの美術専門家だ」「教鞭を執る以外の各種行政でもその力量を発揮して頂こう」「そのためにも美術教師の採用を増やし,先生方に時間的な余裕を持って頂くことが不可欠」と考えるようになってくれれば,これは本当に素晴らしいことだと僕は思っています。



市民交流センターで作品展 市立中学美術教員3人「本気見せます」
https://www.townnews.co.jp/0502/2022/08/05/636817.html
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