創業者であるグッチ一族をブランドから追放して破滅させることになったマウリツィオ・グッチ殺害事件。本作は、ある意味でグッチを最も愛した夫婦の愛の結末を描く。
リドリー・スコットが監督する本作は、監督の盟友たるダリウス・ウォルスキーの撮影と、実際にグッチから提供をうけた小道具で格調高い雰囲気が香る。*1
作中の衣裳デザインをつとめたジャンティ・イェーツ *2 のファッションは最初から最後までオシャレバリバリ。これだけでも見る人がみればたのしい作品だ。
ただ冷静に解体したなら全体のストーリーラインはソープオペラ風味。*3
パトリツィアとマウリツィオのはげしく純粋な愛情はやがて、創業者グッチ一族の経営権争いと衝突の中で変化していく。
パトリツィアとマウリツィオも愛した人ではなく「グッチ」を愛し、「グッチ」を守り、一族が持つ名声と巨万の権利を求め「グッチ」の奴隷となっていく。
本作は主にパトリツィアの視点と心情で展開する。ただ彼女をふくめ、主要な人物に肩入れしない視点が冷静だ。
実在との違いはもちろん考慮するべきだが、パトリツィアとマウリツィオを好きになれる人はそうはいないだろう。2人はどんどん共感できない人物になっていく。*4
反対にいえば情熱的で野心的なパトリツィアを演じたレディー・ガガと、純粋な青年から権力へと溺れるマウリツィオを演じたアダム・ドライバーの演技はとても見事。
この2人が映画をひっぱる。
※1 また当時のグッチの現状と停滞もわかる。マウリツィオの父親はブランドデザインのかたくなに保守して変化を拒否していた(この状況を変化させるのがアメリカ・テキサス出身のトム・フォード)。また当時の世界一のグッチの顧客は日本人だった。そのため「アリガトウゴザイマス」といった片言も飛び出すが、これらはおそらく一部でバカにされているのだろう。
※2 彼女も『グラディエーター』から監督の盟友の1人。
※3 でもすたれません。
※4 結局のところ一般階級で育つパトリツィアと上流階級で育つマウリツィオは根本の部分でウマがあわなかったのだろう。もちろんパトリツィアは殺人を計画する悪女だが、マウリツィオも彼女を捨て、自分とウマのあう昔の知り合いの人妻と不倫する(ダブル不倫ですよ。奥様)、会社の金を私的に使うとロクなことをしない。
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