評判の映画『サマー・オヴ・ソウル』がらみで、読んでみようと思いたったスチュワート・コスグローヴの『ハーレム69年』、すごく面白い。
本の中心は、映画のテーマである”黒いウッドストック”、ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル”なんだけど、最初の章は、NYのハーレムのレコードレーベル、Rojac のオーナー、ファット・ジャック・テイラーのお話なんだよね。
この Rojac のメインのアーティストは、50年代に売れた大型(身体的に)女性歌手、ビッグ・メイベルだったんだけど、彼女のCDのライナーで、マネージャでもあったジャックがハーレムのヘロイン取引の元締めのひとりだったというのは、知っていた。
あと、エッタ・ジェイムズが酒とドラッグに耽溺していた時期の、重要な”お友だち”だったってことも。
ただ、ふつうのギャングの親玉とは違う、不思議な人なんだよね。
ドラッグとファストフードの店で稼いだ大金を、ぜんぶ音楽と地元の社会事業への寄付につぎこんでいた。
毎年サンタになって、恵まれない子どもたちにプレゼントを配るのを楽しみにしていたというし。
落ち目の古株アーティストに親切で、メイベルを再度ブレイクさせようと、プロモにお金を注ぎこみ、なんとかヒット( ? and the Mysterians のカヴァーの「96 ティアーズ」)を出させたりもした。
『デトロイト67年』、『メンフィス68年』に続く三部作の最終巻のこの本、音楽本の賞を取っただけあって、調べが行き届いている。
たとえば、こんなマニアックなエピソードが。
69年の初めに、ジャックは、「母さんは雨に感謝した」という変わった出だしの、June and Donnieというアーティストの「I Thank You Baby」をたまたま耳にして、これはいけるかも、と思った。
さっそく、その曲のプロデューサーのカーティス・メイフィールドに電話して、全国配給をさせてくれないかと打診した。 答えはノー。
カーティスにとって、それは”済んでしまった”録音だったから。
彼がL・C・クック(サムの弟ね)のセッションを準備してたのに、L・C・がすっぽかして、スタジオに来なかった。
で、仕方ないので、セッションミュージシャンとしてその場にいたドニー・ハサウェイに、知り合いの歌手、ジューン・コンクエストを呼び出させて、即席で録音した(スタジオの使用料を無駄にしないために)のが、その曲だった。
そのうえ、ジャックがカーティスに電話したとき、ドニーはもうシカゴのカーティスの手もとを離れて、ハーレムにいた。
この手の小ネタが、満載。
引っ越しまえで、いろいろ忙しいのに、ついついページを繰ってしまうので、困るのことよ。
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