一切手抜き無しの「持ち曲」を聴く悦び。
津 三重県文化会館 大ホール
センチュリー三重特別演奏会
飯森範親指揮 日本センチュリー交響楽団
(コンサートマスター 松浦奈々)
ピアノ独奏 上原彩子
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 K.492
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」作品35
ただ、最初のフィガロの序曲だけは今一つ。あまり練習されていないな、という感じがするがさがさしたアンサンブルで、あまりいただけない出来。
しかし、二曲目の上原さんのピアノが入ってからは完全にプロフェッショナルモード。特にこのコンチェルトの3楽章、上原さんの超高速ピアニズムと食らいつく高機能センチュリー、その両者が激突する音楽の火花のすさまじさ。これは、まさに伝説のホロヴィッツvsセル/クリーヴランドに匹敵するもの。ぐすたふくん、久しぶりに震えが来ました。
上原さんのチャイコンは、チャイコフスキーコンクールで優勝してから間もないころ、どこかで実演を聴いていて、その時も、そのダイナミクスの振れ幅の大きさと、3楽章の完璧な快速さに驚嘆した記憶がある。ピアノ協奏曲を聴く悦びの中に、突き抜けた名技性に震える、というのがどうしてもあって、上原さんはこの曲に関しては完全に自分のスタイル。寸分もぶれることのない、ザッツ「上原彩子のチャイコン」ですな。
対して飯森・センチュリーの「シェラ」もまた、「完熟」の魅力満載。広上・京響のシェラも豪華絢爛という意味では他に代えがたい魅力を湛えているのだが、飯森・センチュリーの今日の演奏は、まさにぐずぐずにくずれる一歩手前で均衡と気品を保つ、そのなんとも言えない色っぽさが魅力。2018年に同じペア、同じ松浦さんのソロで聴いたときは「予想に違わず、管セクション一人一人の名技性に裏打ちされた、かっちりとしたプロポーション。例えれば、美味しいが身が硬い柿、みたいな感触と味わい。ホントをいえば、グズグズに熟れた柿の方がぐすたふくんは好みなのでありますな」と書いているから、今日はさらにそこから熟した、ということなのかしら?
わざわざ三重まで来て良かった、という思いをさせていただいたことに、素直に感謝です。コロナ病み上がりの飯森さん、ほんとにお疲れ様でした。お大事に。
ログインしてコメントを確認・投稿する