「ねぇおじーちゃん、初恋ってあった?」
この4月に2年生になった孫娘のクーちゃんが唐突な質問を口にした。お風呂の中でのことだ。
「へぇ、クーちゃんもうそんな言葉を知ってるんだ。意味はわかってる?」
ぼくはクーちゃんの認識レベルを探ろうと逆に質問を返す。
「うん、しってるよ。はじめてだれかをすきになることでしょ」
「それじゃ、クーちゃんの初恋はお母さんかな?」
「ううん、ちがうよ。そういうすきじゃなくて、えーとねぇ・・・・」
クーちゃんは言葉を途切れさせた。うまく説明できないようだったけど、「好き」の種類の違いは何となくつかんでいるようだった。どうして突然そんなことを言いだしたのか想像もつかない。子どもってそういうものだ。けど、もしかしたらクーちゃんにも好きな子ができたのかもしれない。もうそんな歳になったんだなと思う。
「お母さんが好きっていうのと違うのはわかってるみたいだね」
「そうだよ。ラブラブのことだもん。ねぇ、おじーちゃんの初恋は?」
クーちゃんはどうやら初恋話が理解できる必要最低限のレベルには達しているようだ。ぼくはちょっと話をすかすような回答を返した。
「幼稚園のときにね、百合子ちゃんていう子から結婚しようって言われてドキドキしたことがあったなぁ」
「え? ようちえんのとき? それでけっこんしたの? でもおばあちゃんゆりこじゃないよね」
「そうだね。百合子ちゃんはただ気紛れでそんなこと言っただけだと思うな。ぼくは百合子ちゃんのことが好きでもなんでもなかったし、それからあとの百合子ちゃんのことは全然憶えてないから、そんなの初恋とは言えないね」
「じゃ、ホントの初恋おしえて」
「ホントの初恋かぁ。じゃ、お風呂あがったら話したげるよ。身体洗っちゃおう」
「やくそくだよ。きょうはクーちゃん、じぶんであらう」
「わかった。背中はお手伝いしましょう」
(挿絵 匿名画伯)
【作中に登場する人物、施設等にモデルはありますが、実在のものとは一切関係がありません】
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