写真は順に
*西加奈子著「サラバ!」(小学館文庫)上・中・下巻
待ちに待った西加奈子の「サラバ!」文庫化。
単行本を持ち歩くのが嫌で約2年の待機だった。
主人公・歩(あゆむ)の幼少時から37才までの人生の物語。
イランに生まれ、エジプトで少年時代を過ごし、小学校高学年で帰国。
優しいが寡黙、のちに出家する父、社交的で自分が美しいという自覚ある母、いつも特別な人になりたい自己顕示欲の塊である姉、そんな家族たちに海外でも日本でも翻弄されまくって育った歩。
個性の強すぎる女家族たちを反面教師として、彼は子供時分から人に好かれるための処世術を身につける。
だがそれは、本音をストレートに言えない性格を作り上げることにもなった。
人に愛されるために、自分から何かを発信することなしに常に受け身、事なかれ主義で生きてきた歩は幸せそうに見えたが、そこにはきっちり功罪が生まれ、ある理由から引きこもることになる。
それとは逆に、人に疎んじられようが常に我を押し通して恥を晒しながら全身全霊でメッセージを発信して生きてきた姉は、年月を経て心から信じられるものを見つける。
少し変わった家族関係の中で培われてしまった魂が、その殻から出て次の段階へ進むために、30半ばにして初めて能動的になった歩。
かつて住んでいた街で育まれた憧れに近い友情と、言葉のいらない共感をもう一度見つけるために旅に出る。
登場人物は、主人公の歩以外のほとんどが、自分の気持ちに嘘をつかない言動をする人だった。
傷ついたりドキドキしても、自分から求めれば、それがどんなものでもいつか自分にとって糧になる、求める人に対して、人は裏切らないのだよ、答えはゆっくりでいいんだよと教えてくれている気がした。
作者の西加奈子は愛に溢れた強い人だ、きっと。
物語の終盤で私は少し泣いた。
いつもは読み終わってすぐ「あとがき」や「解説」を読むのに、読む気になれなくてしばらく目をつむった。
數十分経ってから又吉直樹さんの「あとがき」を読んだら、読了後はすぐに自分の文章を読む前に時間を空けてくれ的なことが書いてあった。
そうですよね、うん、やっぱり…と思わず呟いた。
又吉直樹さんの「あとがき」もとても素敵だったので、この本を読む方は、読後一拍置いて是非「あとがき」も読んでほしい。
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