「２１世紀のモノ作り」

　日本が「２０世紀の遺産＝世界第二の経済大国成功体験」を忘れられずに、いつまでも「不況」にあえぎ、気が付いたら泥沼にはまって「少子高齢化」「所得格差拡大」で先行きが見えない時代をさまよっています。でも、もうそろそろ本気で「日本の２１世紀」を新たに立ち上げる時期が来ているように思います。

　２０世紀のビジネスモデルは「アメリカ人の金持ちが持っているものを、より高性能、高品質で、廉価なものを作ること」でした。洗濯機も冷蔵庫も、テレビもエアコンも、自動車も家も、目標とする「商品」はアメリカにあり、それを『大量生産大量販売』する流通業、ファーストフードさえも「アメリカのマネ」をする。あるいはそうした人気製品や人気業態を見てマネするというだけで、爆発的な売り上げと莫大な利益を手にすることが出来ました。ところがこの「大量生産大量販売」にはいくつかの問題点が隠れていました。その一つは「製品品質が安定すると、激甚な価格競争に陥ること」で、会社は「製造工程の合理化」でコストダウンを徹底しました。その挙句、究極のコストダウン＝人件費削減＝工場の海外移転へとかじを切りました。こうして、日本の製造業は日本からいなくなり、大勢の勤労者がリストラされて非正規社員になり、賃金は下がりました。企業は海外子会社からの配当で利益を上げ、国内生産しないので内部留保が溜まるだけでした。こうして日本の「失われた３０年」が作られたのです。

　企業は「生産と販売が車の両輪」だと言われますが、本当は「開発」「生産」「販売」だと言う会社もあります。大事なことはこの「開発＝２０世紀はアメリカ製品のリバースエンジニアリングだったものが２１世紀になってアメリカに『先行指標』になるようなものが無くなったので、２１世紀は自らお客の欲しがるものを創造しなくてはならなくなった＝設計技術（売れるものを売れるときに売れる順番に売れるだけ作る技術）」と、「生産技術（効率よく機械や人を配置して、カイゼンやＱＣなどでローコストを実現する）、それに「販売技術（これまでは売り手市場だったものを、２１世紀は買い手市場前提に暮らしを変える感動の演出を販売する）」が揃って、「お客を攻めるモノ作り」が求められるようになりました。これまでは「設計部門」「製造部門」「販売部門」「管理部門」が分かれていましたが、これからは「設計部門が、製品の中に利益構造を組み込んで設計する時代」になりました。２０世紀によくやられていた「原価積み上げ方式の売価」とか、「初めに売価ありきで原価を詰める」と言う考え方が通用しない時代の到来をiphoneが教えてくれました。

　アップルを見れば２１世紀型のモノ作りが見えてきます。つまり、「製造部門」や「販売部門」を外部に委託して、「設計部門＝売れる商品のコンセプトを作ることに特化した会社」であるわけです。

・２０世紀型モノ作り＝大量生産大量販売＝量産効果による損益分岐点引き下げ＝製造技術
・２１世紀型モノ作り＝顧客が欲しがる商品コンセプトの商品価値設計＝設計技術

このため、２１世紀型の組織が「高度化」を要求されます。従来の縦割りの「開発」「製造」「販売」「管理」の上に社長や事業部長がいるのではなく、これらの組織に横ぐしを指すように、例えば自動車で言えば「車種」毎に設計責任者が「社長や事業部長」に役割を果たすことになります。これを進めたら、「アップル」と「鴻海精密工業」のような関係が出来上がると言う訳です。

　こうなると、ＭＢＡやコンサルタントの活躍の場が狭められていきます。「価値を設計し、利益を設計し、価値を上げる、原価を下げる価値創造設計力はその商品独自のものであって、共通性が乏しいので外から成功例を学んで持ち込むリバースエンジニアリングのようなアプローチが出来ないからです。消費者が買うのは製品やサービスの価値を買っているのですから、アップルのように「永遠により高度な、より便利な価値」を新しく創造し続けなければ、企業は存続発展できない時代が２１世紀であると言う訳です。

　それによって、従来設計部門で羽振りを利かせた「要素技術」や「固有技術」は主役の座を降りて、「部品メーカー」になり、主役アップルの浮沈に一蓮托生ですがる存在になります。日本の大手電機メーカーが「独創的な価値創造」をに取り組まず、２０世紀型のモノ作りに終始していたら、気が付いたら半導体や電池などで稼いでいたというのは、「仮説と検証」による「独創的な新商品設計」のリスクを取らず、従来型の安全確実な商品の生産にこだわった結果ではないかと思います。