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2016年08月13日17:26

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乱読は負け犬のもと?

 
 ここ何カ月かの、くたばれストレス的な、芸能関係本乱読の心覚え。

● 関根黙庵 『講談落語今昔譚』 (平凡社・東洋文庫 1999).
 Wり買いをきっかけに、資料用の積読書を通読。 落語の通史のおおまかなところは知ってるけど、講談のほうはそんなでもないので、勉強になった (山本進氏の校訂がすごい)。
 講談って「忠」だの「孝」だのといって、体制的なもんだと思っていたけど、その祖とされる馬場文耕ってじつは、高座での (お家騒動絡みの) 口が災いして、死罪獄門にされてたんだよね。
 それをいえば、江戸落語の口開け的存在の鹿野武左衛門も、舌禍で伊豆の大島へ流罪になっている。 芸人は、末路哀れは覚悟の前って米朝さんがよくいってたけど (それを踏襲したのが弟分の小沢昭一の“河原乞食”論?)、獄門だの遠島だのってことになると、これはもう、哀れどころの話じゃない。
 余談だけど、この有名な本の簡易版みたいな 『本朝話人伝』 の著者、野村無名庵って、この黙庵の弟子筋で、じつは代作をずいぶんさせられたらしい。 で、いくら書いても自分の名前が出ないので、開き直って「無名庵」を名乗ったんだって。 ・・・ミジメ。
 いっぽう、「黙庵」の号は河竹黙阿弥と親交があったからつけたんだそうで、江戸期の芸事好きの旦那衆を父に持つ師のほうは、あくまで格好いい。

● 笑福亭松之助 『草や木のように生きられたら』 (ヨシモトブックス 2016).
 以前、染丸さんが松之助師匠についての本を出したけど、ついにご本人の手になる自伝+芸談が出た。 初期の吉本新喜劇の台本を書いたり、TV時代の新作落語の先駆けだったりした松っちゃん師匠が自分でペンをとったのだから、面白くないわけがない。
 戦時下の「むちゃもん」ぶりは痛快だし、母とともに、かろうじて神戸空襲を生きのびたいきさつは、胸にぐんと重い。 五代目松鶴や先代米團治やミヤコ蝶々に受けた薫陶の話や、秋田實伝説の裏話など、いちいち成程なるほどという感じ。
 芸にも、人生にも真っ直ぐで、でも一方で、この人の十八番の 『堀川』 のケンカ極道と酒極道を兼ねたような性根があって、そのためいつも順風満帆というわけにはいかなかったんだよね。 でも、終わりよければすべてよし。
 私も、こんなふうに、生きられればなあ。

● 笹山敬輔 『昭和芸人 七人の最期』 (文春文庫 2016).
 榎本健一、古川ロッパ、横山エンタツ、石田一松、清水金一、柳家金語楼、トニー谷の晩年に焦点を当てる。 付録は、伊東四朗へのインタビュー。
 これだけの人気者がことごとく、「末路哀れ」なんだよね。 著者は、絶頂期に爆笑の渦を生んだ“笑いのカリスマ”が、衰えて笑わすことができなくなったときの悲哀は、他のジャンルの芸能人の場合よりずっと深刻だという。 渋くなったり、脇へ回ったり、仕切り役になったりといった、役者やショー芸人なら可能な退路がない。
 ああそうか。 だから萩本欣一や、ビートたけしや、松本人志は、映画監督や文化人への転身を指向したのか、なるほど。
 
● 清水ミチコ 『主婦と演芸』 (幻冬社文庫 2016).
 本人の挿絵入りエッセイ集。 巻頭の第1項目が、「平井堅さんのコンサートでウグイス嬢を担当!」 あ、そう、としか言いようがない。
 これほど、「末路哀れ」とかと無関係そうな人って、まったくもって、まれなんではないだろうか。

● 桂米團治監修 『米朝置土産 一芸一談』 (淡交社 2016).
 1989〜90年放送のラジオの対談番組が、米朝さんの生前、『一芸一談』として単行本化された。 それに未収録の回、つまりはお蔵出しを集めて、もう一冊というしだい。
 いえいえ、ラインナップは前に劣りませぬ。 なにしろ、いとし・こいし師匠、菊原初子 (地歌)、朝比奈隆 (指揮者)、吉村雄輝 (上方舞家元、ピーターの父)、小松左京、島倉千代子 (♪しまったしまった)、小沢昭一、橘右近 (寄席文字)、高田好胤 (薬師寺管長)、阪口純久 (南地のお茶屋の当主)、立川談志 (米朝さんに甘え気味では)、茂山千之丞 (狂言) なんだから。
 これだけの人相手に、深みのあるインタビュー and/or 対談ができた米朝さんの教養はすごい。 いまの文系の大学教授で、それだけの水準の教養がある人がいたら、連れてきて見せてよ。
 放送時に尺の都合等でカットされた部分も入っているから、リアルタイムで聴いた人にもメリットあり。 しかし、こうしてみると、物故した人がほとんど。 時は容赦なく奪う。
 しかし、放送の各回の前説を担当していた桂枝雀さんが、こんなに早く物故者の中に入ってしまうなんて、そのころはだれも思っていなかっただろうな。

● 萩田清 『上方落語 流行歌の時代』 (和泉書院 2015).
 江戸から明治期にかけての、上方落語の歴史の空白部分を、はやり唄や刷り絵、咄家番付等々の脇の資料を使って埋めようとする試み。
 上の関根黙庵の定番本も上方のものについての言及は少なかったけど、それ以降も、資料の少なさや調べる人の少なさに阻まれて、上方での落語の歴史は、わからないところが多いままだった。 そういう意味で、これはとっても重要な仕事。
 米朝さんがお元気なころにこの本が出ていれば、さぞかし興味津々で読んでいろいろ論じはったやろうね。

● 瀧口雅仁 『古典・新作 落語事典』 (丸善出版 2016).
 近年、寄席や落語会で演じられることの多い、「汎用性の高い」江戸・東京落語を、古典・新作を問わず極力収集。 題の順に並べて、あらすじを紹介し、解説を付した。
 って気楽に書いたけど、この400数十頁の本を1人で作るって、ものすごいことですよ。
 場所・舞台索引や季節索引を含め、索引部分も充実してるし。
 上方落語についてはもちろん記載がないけど、「三十石」や「代書屋」、「植木屋娘」、「たばこの火」といった上方噺の東京への受容ぐあいが分かるし、また、充実したコラムのうちには、志の輔や志らくの実験とならんで、「東京で演じられる六代目文枝の新作落語」や「東京へやってきた上方の新作落語」といった項目もある。
 帯に、柳亭市馬さんが“私たち落語家も重宝する”と推薦のことばを寄せているけど、まっことそうゆう便利本だと思う。

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