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2016年05月28日20:02

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【ブックレビュー】娘たちと話す 左翼ってなに?

娘たちと話す 左翼ってなに?
アンリ・ウェベール著
石川布美訳
現代企画室


現在の日本で、右翼・左翼というと、どんなイメージでしょうか?

右翼:保守・改憲・親米反中・天皇制維持
左翼:革新・護憲・親中反米・天皇制反対

ざっくりこんな感じでしょうか。ただし、右翼も反米(というより国粋)な面も大きいですし、左翼でも中国ベッタリとは限りませんね。
そもそも、保守と改憲が両立するというのも、憲法成立の事情があるにせよ、言葉としておかしな話ですよね。
また、経済面(政治と市場の関係)では、現在の日本の政党に当てはめると、右翼が新自由主義的で、左翼が強力な規制を敷くようなイメージもありますけれど、これもあべこべです。右翼と左翼の、どちらが正しいとか誤っているとかではなく、どう定義したら良いのか悩みますね(ここではネトウヨとかパヨクとかには触れません。言いたい事はありますけれどw)。


本書は、フランスの比較的穏健な社会主義者である著者が、ふたりの娘との対話を通して、右翼と左翼の歴史や違いについて説明するというスタイルです。ご存じの通り、フランスは左翼発祥の地で、先進国では日本と並んで左翼的な面が強い国です。ですが、フランスでも右翼と左翼については、はっきりと区別するのが難しくなっているようです。


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(前略)左翼は《運動の党派》、変化の党派であり、右翼は《秩序の党派》、保守の党派、あるいは、すくなくとも、最少の変化の党派……物事をすこしだけ、表面的に変えることは止むをえないが、現状のままに維持するほうが良いと考える人びとだということになる。
(中略)
いま、世界は非常に速く動いていて、どの社会もますます急スピードで変化しつつある。秩序の党派は保守主義の党派ではいられなくなって、すべての党派が《運動の党派》でなければならないんだ。左右の衝突といっても、伝統の守り手である秩序の党派と、進歩のチャンピオンである運動の党派とは、今ではそれほど対立してはいない。(後略)
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本書のフランスでの出版がちょうど2000年ですから、今ではもっと混乱しているでしょうね。
ただ、区別がつきにくいからといっても、右翼と左翼ではそれぞれベースとなる人間観が大きく異なり、本書ではそこを繰り返し強調しています。人間理性に対する、ルソーの楽観主義が左翼の背景にあり、一方、ホッブスの悲観主義が右翼の背景にあるというのは、なるほどなと納得しました。

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左翼の人たちは、人間の《理性》と《意志》というものを信じているんだ。世界は理性によって知ることができ、意志によって変えることができると確信している。かれらは人間を無知と迷信から解放したいと考えている。かれらによると、無知と迷信は多くの不幸の原因だ。
(中略)
右翼はこういうものについて、はるかに懐疑的なんだ。かれらはとかく人間の理性の弱さを強調したがる。かれらに言わせると、人間の理性なんて人間の思い上がりでしかない。右翼の大部分にとって、人間は不条理な存在だ。人間の意思は、知性よりも情念のしもべであることのほうがはるかに多い。(中略)伝統とは、右翼によれば、必要不可欠な秩序であり、人知を超えた、神が欲する秩序なんだ。(後略)
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この引用で、右翼と左翼の違いが何となく理解できるかと思います。
ただ、最新の科学について詳しい人は、《理性》や《意志》は非存在証明されているので、左翼の信じている対象が絵空事だ、と感じるかもしれませんね。私はそうは思いませんけど。
また、フランスでは無宗教政策が徹底しているのも、宗教的価値観を軽んじる左翼が優勢な理由でしょうか。日本は反対にお互いの宗教に寛容である点が反伝統的で左翼に有利なのだと思います。今後は変化しそうですが。


著者がもうひとつ強調しているのは、左翼が獲得してきた価値や権利です。

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左翼は共和制の価値のすべてにとても執着している。自由、平等、連帯、人権、民主主義、それに百年前に宗教からの独立を追加し、二十年前にエコロジーを追加した。(後略)
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現在の先進国が共有している価値観(そしておそらく、ロシアと中国を排除している価値観)は左翼から生まれたという主張です。左翼というと非アメリカ的なイメージがありますので、興味深い逆説です。

ただ、非アメリカ的ということで、「あれ?ちょっと待てよ?」という疑問が浮かびます。倫理的な価値観としての自由は、他者危害の原則等の条件が付くとしても、平等や連帯や人権や民主主義と共存できます。ですが、経済活動における極端な自由が、平等や人権や連帯を壊し、現在のアメリカでは民主主義までも壊そうとしています。本当に、どうなってしまうのでしょうかね、大統領選挙は。

この、経済活動における極端な自由である新自由主義が、左翼的価値観と対立している、しかも左翼側が一方的に負けそうになっている、日本も巻き込まれている、という認識を忘れてはならないと思います。


では、自分はどうでしょうか?
自分自身は共同体主義者のつもりですので、右翼的な側面も左翼的な側面も持っています。ただ、熟議民主主義を重視しており、経済面では比較的フラットで政治による分配の強化や公共面における行政サービスの重要性を認めていますので、左翼に近いと思います。しかし、現在の日本においては個人の自由が拡大され過ぎているので、制限が必要だとも考えています。


このように、ひと口で「私は右翼です」「私は左翼です」と名乗るのは難しいですね。昔の左翼は勉強好きのインテリで、原書でマルクスやヘーゲルを読んでいたのですが、最近の左翼は勉強嫌いみたいですし。右翼も清廉潔白なイメージがありましたが\(^o^)/


自分自身にレッテルを貼る意味はありませんけれど、政治的・経済的な立ち位置を決める上で参考にしたい一冊です。

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