■２９日(土)■ ≪シンポジウム 「この国の空」 20：35〜21：45 ≫ ＊後半
観客からの発言が途絶えることはありません。
「原作も読んだのですが、映画はそれとほとんど変わらない印象でした。 『共喰い』 の時にはかなり付け加えられていて映画ならではの描き方でしたが。 今回は荒井さんならではの演出が感じられなくて」 という意見が出た時には、まず荒井さん以外のゲストが反応。
森重Ｐが、「原作通りで何が悪いかって話ですよ。 それに、あまり演出してないなんて事は全くなくて。 監督は出来上がっていく映画の全ての進行に対して演出しているものなんです」
川上キャメラマンは、「ロケハンの時から、スタッフに色んなアイデアを話していました。 帰りの新幹線でもあれこれ相談されたし、撮影中は、宿舎の私の部屋に来て、絵コンテを元に、カット割りの打ち合わせをしたりしていました」 と現場以外でもかなり熱心だったと証言。
洲��さんからは、「荒井脚本の映画の編集が初めてだったので、原作とシナリオを詳しく比較してみたんですね。 同じような印象でも、構成がかなり違ってました。 また取捨選択にびっくりさせられました。” あそこを切り、ここは残すんだ！？” と、目の付け所が思いもよらぬものでした。 それから、原作では地の文章だったのに、シナリオでは台詞になっていたりして、すごく巧みで驚かされました。 そういう風にシナリオ化されているのだと、皆さんにお知らせしておきます」
下田さんは、「荒井の父親がバイオリンを弾いており、音楽の依頼をされた時にそのエピソードを入れると聞かされ、さすがだと思った」
まるで司会者が、ゲストの皆さんにそれぞれの立場から荒井監督について語ってほしいと頼んだかのような展開になったのでした。
議論になったのは、ラストで里子が朗読する茨木のり子の 「わたしが一番きれいだったとき」 という詩について。
観客から発言の形で出てきた意見は、
「あの詩で、それまでに映画で描いてきた里子の感情を全て語ってしまっている。 観客の理解力を信用していないのではないか。 映画の格が下がってしまったように思えてならない」
「日露戦争の映画で、” 君死にたもうことなかれ ” が使われるようなもの」
など否定的。 後で、賛成派の意見も一つならず出ましたが。
荒井さんは、「さすがにそれは言い過ぎでしょう（笑）。 確かに、あの詩についての反響はたくさんあったが、朗読を入れて良かったという意見がかなり多くて。 また、今回はパジェット（予算） が大きかったので、分りやすさは意識しました。 詩の朗読は、エンドロールによく流れる主題歌の代わりという意味もあります」
主題歌代わりという説明には、なるほどと頷けました。
また、パジェットが大きいといっても、そこらにごろごろしている超低予算の映画に比べれば、という程度なのは言うまでもありません。
「二階堂ふみも、この詩で映画に対する理解が深まったと言ってたし」 と荒井さん。
一つ前のレポに記しましたが、里子の台詞の言い回しは、二階堂ふみが、成瀬や小津の映画を観て、自分で学習してきたのだそう。
さすがだと思いました。
でも、まだまだという声も聞きます。
岡山では１１月に公開されるので、２度目に足を運び、その辺りのことを確認しようと思います。
ラストには、印象的な字幕も出てきて。
下田 「あの字幕に触発され、音楽を作り始めました。 今回はとても面白く言い争いしながら、やりました」
原作のどこに惹かれたのか、との質問に対しては、
荒井 「戦争が終わるのを良かったと思わない女の子がいた。 嬉しくない戦後が来る ―― そういう里子の気持ちに重ねて、戦後を検証できないかな、と思った」
本作は、最近ではかなり珍しい、フィルムでの撮影でした。
川上 「映画祭のパンフレットには３５ミリで撮ったように書かれてますが、基本的には１６ミリでした。 ＣＧを使う所だけは、揺れるとその作業がしにくいので、３５ミリにしました」
そろそろ終わりの時刻。
名物論客・滋賀のＯさんからの発言がないので、最前列に座る氏に、荒井さんが、「どうしたの。 発言しなくていいの？」 と水を向けます（笑）。
それなら、と挙手して、マイク運搬係りの実行委員から受け取り、
Ｏさん 「京都で撮影している荒井さんからエキストラでの出演依頼の電話をもらい、とても嬉しく思い、仲間と４人で寄せてもらいました。 荒井さんがすごくリラックスしていて、びっくりでした。 １８年ぶりの監督だというのに。 １８年も経つと、素人同然でっしゃろ（笑）。 もっと緊張しているのかと思えば。 撮影は、無事終わり、完成を楽しみに待って、映画を観たらば、４人の内、１人だけいた女性のみがはっきりと映っていて。 男３人は、薄ぼんやり（笑）。 でも、楽しい思い出でした。 ありがとうございました」
私は、結局手を上げることはなく発言せずじまいでした。
言いたいことが上手くまとまらなかったというのもあるのですが、脚本も監督も荒井さんとなると、生半可な事は言えなくて。
これが脚本だけで、監督は別の人がやったのなら、もう少し気楽に、思ったままを口に出来たと思うのですが。
まあ、本作がこうして上映されただけでも満足。
東京等では８月８日から公開されており、ここ大分でも上映中だと聞いていて、色んな兼ね合いから本映画祭でかけることが出来ない恐れだってあったのですから。
色んな所で、評判になっているそうです。
動員も好調なら良いのですが。
荒井監督の３作目が、今度は２〜３年後に観られますように！
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