「おい、金を出せ」
「はい? あなた、どなたですか? なんで、あなたにお金をあげなきゃいけないんですか?」
「だれって、おまえ、この手に持ってるナイフが目に入らないのか。
金を出せ。 出さなきゃ、こいつをどてっ腹にお見舞いするぞと、いってるんだよ。」
「そのナイフで刺すんですか。 それは、いやです。」
「じゃあ、金を出せ。 おれは、いま、金が要るんだ。 ないと、困るんだよ。」
「いや、あなたは困っても、私は困りませんから。」
「薄情なやつだなあ。 金、持ってるんだろう。 四の五のいわずに出せよ。 人道的援助だと思えば、たかが有り金ぜんぶなんて、安いもんだろ。」
「人道とか、いわれてもねえ。 お金を出すのは、いやです。」
「じゃあ、刺すぞ。」
「それも、いやです。」
「ああ、もう、こいつ! 金を出すのもいや、刺されるのもいや。 それで、世の中、通ると思ってるのか。 金を出したくないというなら、せめて、代案出せよ。」
「はい?」
「こう見えても、おれは、民主的な強盗なんだ。 おれは、金に困ってる。 おまえが金を出したくないというんなら、それを解決する代案を、何か出せよ。
代案もなしに、ただただ、金を出したくないっていうのは、単なる自己中、わがままだろ。 そんなことで、この現状を切り抜けられると、思ってるのか!」
「はあ、代案ですか。
こういうのは、どうでしょう。 あなたがそのナイフを持って、警察ヘ行き、いま強盗未遂をしましたと、自首するというのは。」
「なんだとぉ・・・」
「なんだったら、私が、付き添ってあげてもいいですよ。 留置所に入れば、とりあえず、お金の必要もなくなりますし。」
「おまえ、ひょっとして、おれを舐めてるのか!」
「いえいえ。 あなた、私の顔を知りません? テレビの、『格闘技最強ファイター』 って番組で、準チャンプまで行ったんですけど。
それとも、あなたが、あのときのチャンプと同じくらい強いかどうか、試してみます?」
「ああ! ・・・うー、えーと。 あのなあ、代案、なくていいわ。 原案も、なしということで。
そんじゃまあ、おれ、これで、失礼させてもらうわ。」
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