昔に思い付いた小ネタを思い出したので掲載。
12歳のサガが聖域に来てすぐのころ、サガとアイオロスとアイオリアの一幕。
双子のオリジナル少年時代設定については『雪解け』を参照。
『サガの料理修業』
サガは慎重に卵を割った。殻が左右に離れ、黄身ととろりとした白身がボウルに落ちる。
「どうだ、サガ?」
サガの隣に立つアイオロスがボウルをのぞきこんだ。
「…だめだった」
サガはがっくりと肩を落とした。ボウルの中には割られた卵が三つ入っていたが、それらはすべて黄身が潰れていた。三つとも、サガが割った卵である。
「すまない、アイオロス」
「まあ、いいさ。どうせかき混ぜてオムレツにするし」
アイオロスがボウルを手に取り、泡だて器で卵をかきまぜた。
2か月前、11歳のアイオロスは聖域の外れの森の中でサガと出会った。初めてサガを見た時、アイオロスはなんて美しい少女だろうとひとめぼれした。初恋だった。そしてその場でサガにプロポーズし…直後に男だと言われて失恋した。
12歳になったばかりだというサガは、聖域に来てすぐに双子座の聖衣に主と認められた。彼はすでに小宇宙に目覚め、その使い方も、戦い方も、いくつかの武器の操り方さえ、知っていた。
だがサガが聖域に来る前、どこでどのように育ったのか、誰も知らなかった。サガも語ろうとはしなかった。もともと聖闘士の候補生となる者は家庭環境に何らかの事情を抱えている者も多く、前歴を語ることははばかられる雰囲気もある。だからアイオロスもあえて突っ込んだ話はしなかった。
しかし聖闘士としては並々ならぬ素質と実力を示し、いずれはアイオロスと並びこの聖域を背負って立つ黄金聖闘士になるとすでに目されているサガには、一つ欠点があった。
家事、特に料理が、壊滅的にダメなのである。
聖域の共同食堂を利用できるとはいえ、まったく炊事が出来ないというのでは生活に支障が出る。そこでサガは昼間にアイオロスの家を訪ねては料理修業をしているのだが、成果はというと、いまだに卵を黄身を壊さずに割ることさえできないという有り様だった。
「大丈夫だよ、サガ。練習すればきっと上手になるよ」
アイオロスの弟、小さなアイオリアがサガの服を引っ張って慰めてくれた。
「…ありがとう、アイオリア」
「だから料理が上手になったら、アイオロス兄さんのお嫁さんになってくれる?」
アイオロスの手からボウルが床に落下した。
<FIN>
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