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2014年12月01日00:45

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『白と黒の恋人』

ロス誕、もう一作行きます。
『アイオロスの審判』の後日談です。
『アイオロスの審判』では黒サガがアイオロスを誘ってますが、あれはアイオロスの願望だからで、拙宅の黒サガとアイオロスは実際はこんな感じです、というのを書きたくなって書いた作品です。
あとデスマスクがサガとそういう関係ではないと言ってますが、個人的にはデスサガは大好きです。じゅるり。


『白と黒の恋人』


 ランプの明かりが揺れ、眠るサガの顔に陰影を作り出した。オレンジ色の光が銀の髪をきらめかせる。
 隣で眠る恋人の顔をアイオロスは幸せな気持ちで眺めていた。
 誕生日の夜、アイオロスは教皇の間の寝室にサガを引き入れ、思う存分愛し合った。だが、アイオロスはいささか張り切りすぎた。絶頂の最中、とうとうサガの気を失わせてしまったのである。
 無理をさせすぎたかな、でもこれもサガが可愛すぎるからいけないんだよね〜、とアイオロスは締まりのない思い出し笑いをした。
 その時、サガの髪の先の色が変わった。ざざざっと長い銀髪が漆黒に染まる。そして瞳が開かれた。本来なら空色の瞳は、赤い血の色に変わっていた。突如として現れた黒髪のサガはアイオロスを見ると、
「…どけっ!」
 容赦なく彼の腹に蹴りを入れた。
「え、え、え、なに!?」
 寝台の端に蹴りだされたアイオロスは一瞬パニックになった。
「え、黒髪のサガ!? どうしてお前が…」
「お前があいつの意識を失わせたからだろうが! …まあ、おかげで私が出てこられたわけだが。それより私に触れるな! 汚らわしい!」
 黒髪のサガは寝台の下に落ちた法衣を拾い、体に巻き付けた。そして寝台から下り、部屋を出ていこうとする。
「どこに行くんだ?」
「風呂だ! 体中がお前の体液だらけで気色悪いからな!」
 そして扉を開け、本当に部屋から出て行ってしまった。
 黒髪のサガが出て行った扉を眺め、アイオロスは思った。
「黒髪のサガ…色っぽかったな…」
 …重症である。

「お〜い、アイオロス、この書類なんだけどよ…」
 デスマスクは教皇の間の執務室に入り、そこで固まった。
 執務机では教皇アイオロスが机に向かって書類を片付けている。そしてその前に置かれた長椅子では、黒髪のサガが座り悠然と茶を飲んでいた。
「な、な、な…」
 デスマスクは震えた。
「な、なんで、なんであんたが出ているんだ…?」
 復活してこのかた、黒髪のサガが表舞台に立つことはなかったのである。それが出現しているというのは異常事態だ。しかもアイオロスと二人きり。およそ予期していなかった事態にデスマスクが固まるのも無理はない。だが黒髪のサガはもちろん、アイオロスも平然としたものだった。
「いや、昨日サガの気を失わせちゃってね。そしたら『彼』が出てきたんだ」
「その後、『あいつ』が目を覚まさず眠ったままなのでな。起こす必要もないし、こうして体を使わせてもらっている」
「…ってか、いいのかよ、アイオロス?」
「う〜ん、彼には出来れば俺の仕事を手伝ってもらいたいんだが…」
「なぜ私が貴様の補佐をせねばならん!」
「…この調子でちっとも助けてくれんのだ」
「そういう問題じゃなくて…危なくないのかよ?」
 かつては黒髪のサガに与したデスマスクだが、今はアイオロスとサガの反目を望んではいない。そんなことになったら何よりサガがまた心を痛めるではないか。
「いや、もう昨晩から殺気をばんばん飛ばされているんだけど…」
 じろりと黒髪のサガがアイオロスをにらんだ。
「できれば今すぐにでも殺してやりたいところだが…、今の私はアテナの盾の力によって小宇宙の大部分を失ってしまった。こいつを殺すだけの力がない。忌々しいが」
「…ということだから、大丈夫だ、デスマスク」
「いや、だからって…」
「まったく、実に忌々しい。『あいつ』の清らかな体を汚したというだけで万死に値するというのに…」
 そうつぶやいた黒髪のサガに、自分の体を「清らか」と形容するあたり、やっぱりこいつはナルシストだ…と思うデスマスクだった。潔癖症の気でもあるのか、自分に触れていいのは自分だけだと思っている節があるのが黒髪のサガだ。
「殺されるくらい嫌われているのは分かっていたが…、やっぱりきついなぁ。おれはサガをこんなに愛しているのに、触らせてくれないし、おはようのキスもさせてくれんのだ」
 はあ、とため息をつくアイオロス。それを見て、さすが教皇、サガの人格が変わっても一向に動じないとは肝が太い、と感嘆したデスマスクだった。
「夢の中のお前はあんなに色っぽく誘ってくれたのに…」
「何の夢だ! 貴様の相手をするくらいなら、そこの蟹を相手にした方がまだましだ!」
「「なにーっ!!」」
 売り言葉に買い言葉、言葉の綾であろうが、黒髪のサガが口走ったセリフにアイオロスとデスマスクが絶叫した。
「ちょっと待て、デスマスク! 貴様、サガと十三年間そういう仲だったのか!? 許さんぞ!」
 余裕をかなぐり捨て、血相を変えた教皇様の姿に、デスマスクが抱いた感嘆の念は消し飛んだ。
「そんなわけあるか! あるわけないだろう! おれは男には興味ない! 落ち着け、アイオロス!」
「だがお前は、据え膳食わぬは男の恥ってタイプだろうが!」
「…いや、そりゃサガは別腹っつーか、あいつに据え膳されたら断れねえけどよ…」
「やはりかーっ!」
「だから、違う!」
 およそサガに関してはどこまでも独占欲が強く、器の小さくなるアイオロスであった。
 アイオロスとデスマスクがやいやいと言い合う様を横目で見て茶をすすっていた黒髪のサガが、眉根を寄せた。
「…『あいつ』が起きた」
「え?」
「仕方ない。交代だ。シュラやアフロディーテにも会いたかったが…」
 体への支配力は、今は銀髪のサガのほうが黒髪のサガよりも優位に立っている。「彼」が目を覚ました以上は、体を譲らざるを得ない。
「あいつらには俺から話をしとくわ」
「そうだな、頼むぞ、デスマスク」
 カップを置き、黒髪のサガが立ち上がった。
「アイオロス、お前は昨日が誕生日だったな。よかろう、私から一つ祝いをやる」
 つかつかと黒髪のサガがアイオロスに近寄る。そして首に両腕を回し、彼を引き寄せると、唇にキスをした。
「…どういう風の吹き回しだい?」
 ふっと黒髪のサガが笑う。そしてアイオロスの首に手をかけ、力を込めた。
「いずれ必ずお前を殺してやる。忘れるな」
「今度は殺されないさ。『サガ』が悲しむからな」
 アイオロスはにっこりと笑った。
 サガが瞳を閉じた。髪の毛が漆黒から青銀に変わる。意識が交代する一瞬、力の抜けたサガの体をアイオロスが抱き留めた。
「アイ…オロス…?」
「おはよう、サガ」
 銀髪のサガは笑顔のまま自分を見つめるアイオロスを見つめ返し、…そして盛大な平手打ちを彼の頬にくらわした。
「この浮気者ーっ!」
「え、え、なに? サガ?」
「私というものがありながら、『あいつ』とキスをするとは何事だ! お前は私の体なら中身がどうでもいいのか! やっぱり私の体だけが目当てなのか!」
「い、いや、ちょっと落ち着いて、サガ…」
 アイオロスのサガに対する独占欲もたいがいだが、サガのアイオロスに対する独占欲も半端ではない。およそ寛容の精神からは程遠い。黒髪のサガがアイオロスにキスをしたのは、つまるところ好意からでは全然なく、もう一人の自分とアイオロスへの嫌がらせであったらしい。
 顔を般若のごときにして嫉妬を示すサガに対し、アイオロスは、
「んもう、サガは可愛いなぁ。そんなに妬いてくれるなんて」
 …余裕綽々であった。
 いや、可愛いとかのろけているレベルじゃないだろう、般若だぞ、と内心デスマスクがツッコミを入れる。
「アイオロス、『あいつ』には関わるな! キスは無論、触れても話しても抱きしめてもいけない!」
「それは無理だ、サガ」
「アイオロス!」
「無理。だって彼も『サガ』だからな。だからサガ、お前ももう一人の自分を、自分のうちにある別の面を否定してはだめだ」
 アイオロスがサガを教え諭す。
「おれはサガを愛しているよ。綺麗な面も醜い面も、善も悪も、どんなサガでも愛している。だから心配しないで、サガ。愛想をつかしたりはしないから」
 そうしてアイオロスはサガを抱きしめた。やがて抱きしめられたサガが言う。
「…わかった。では私はなるだけ『あいつ』が表に出ないようにする」
「遠慮しなくていいのに」
「嫌だ。お前が『あいつ』を見るのは…」
 それでもいつか「私たち」は融合するだろう。その時、真にアイオロスに愛されるにふさわしい「サガ」になる…。
 心のうちでそう思い、サガはアイオロスを抱きしめ返した。
 恋の病が膏肓に入っている聖域最強のバカップルを前に、辟易しながらデスマスクは持参した書類をひらつかせた。
「…あ〜、お二人さん、落ち着いたらこの書類に目を通してくれね?」
 その時、初めてデスマスクがいることに気付いたとでもいうように、サガは頬を赤くして慌ててアイオロスから離れた。

 …やっぱり聖域は平和である。

<FIN>

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