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2014年11月30日01:28

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『アイオロスの審判』

 2014年ロス誕作。「ロス誕2014」http://emp.noor.jp/los1130/参加作。
 元ネタはギリシャ神話の「パリスの審判」である。トロイアの王子パリスの元に、ヘラ、アテナ、アフロディテが現れて、三人の中で誰が一番美しいか選んでくれ、っていうあれ。
 ロスサガでコメディを書きたいと思っているわけではなく、むしろロスサガで書くなら切なくてシリアスで重厚な話を…と思っているのだが、思いつくネタはなぜか毎回コメディになる不思議。これもロス兄が悪い(←責任転嫁)。


『アイオロスの審判』


 11月30日。教皇アイオロスの誕生日である。せっかくの誕生日だというのに、アイオロスはその日も朝から多忙だった。というのも、「教皇の誕生日を聖域を上げて祝おうではないか」となってしまったため、アテナから祝福を受ける儀式に参列したり、公会堂で集まった人々に演説をしたり、祝典として催された競技会に列席したりしたためである。それに通常の業務が重なり、アイオロスが一息つけたのはようやく夕方になってからだった。そして晩餐会までの時間、彼は執務室の長椅子に横たわって仮眠していた。
「アイオロス、起きてくれ」
 なじみのある声がしてアイオロスの体が揺さぶられた。首席補佐官であるサガの声だ。
「う〜ん、なんだ、サガ、もう時間…か…」
 目を覚まして体を起こしたアイオロスは、そのまま固まった。
 目の前には、サガが三人いたのである。
 ぱちくりと目を見開いたアイオロスに、三人のサガは自己紹介した。
「私は善の心のサガだ」
 と、銀髪に清楚な美貌をしたサガが言った。
「私は悪の心のサガだ」
 と、黒髪に妖艶な笑みを浮かべたサガが言った。
「そして私が統合された心のサガだ」
 と、銀髪に端麗な面持ちのサガが言った。
 三人のサガが口々にアイオロスに話しかけた。
「アイオロス、今日はお前の誕生日だろう?」
「だから私たちからお前に祝いをやろうと思ってな」
「贈り物は、私たち自身だ、アイオロス」
 その申し出に、え?とアイオロスは不意を突かれた。
「今日は私たちを好きにしていいぞ、アイオロス」
「お前の望み通りにしてやろう」
「ただし、一人だけだ。三人の中で誰を一番愛してるか、選んでくれ」
「いや、選んでくれと言われても…」
 事態の急展開に、何でサガが三人に分裂しているんだ?と考える余裕はアイオロスにはなかった。「サガを好きにしていい」という申し出は魅力的過ぎて、その他のことが一瞬で頭の外に飛んでしまったである。
 アイオロスは困った。
 善の心のサガを見れば、その透き通りそうで清らかな微笑みに心を奪われる。儚げな容姿に男としての庇護欲がそそられ、同時にこの佳人を寝台の上で思う存分喘がせて啼かせればどれほど征服欲が満たされるだろう、と嗜虐心を刺激された。
 その隣に立つ悪の心のサガに視線をやれば、こちらは真っ白な肌に緋の唇、そこに対照的な黒髪がはらはらとかかる様が実に色っぽい。自分の欲求に忠実なこの麗人なら、寝室でどれほど奔放で淫蕩な様を見せてくれるだろう、と男心をそそられた。
 そして統合された心のサガに目を向けると、これはまた華やかながらも凛として誇り高く、謹厳な空気を纏っている。およそ乱れるとか人の下につくといったところが想像もつかないこの美人を、快楽でひざまずかせて自分を求めさせてみたい、という欲求がふつふつと湧いてくる。
 三者三様の趣きと魅力に、アイオロスは迷った。善の心を持つサガが良いかと思えば、悪の心を持つサガに目移りし、いやいや、統合された心のサガも悪くない、と、とうてい三人のうち一人を選ぶなどできない。
 三人のうちの誰か一人に手を出しては引っ込める、という感じでアイオロスが迷いに迷っている様を見て、悪の心のサガが申し出を付け加えた。
「よかろう、アイオロス。もし私を選んでくれたら、私はお前を補佐して地上の真の支配者にしてやろう」
 それを聞き、統合されたサガも申し出た。
「では私を選んでくれたら、私はお前を助けて常勝無敗の戦績を誇る将軍にしてやろう」
 二人がアイオロスに提示した条件を聞き、善の心を持つサガは焦ったようだった。
「で、では、私は…え、と…」
 善の心のサガは何を提示するべきか困っていたようだったが、やがて頬を赤く染めてこう言った。
「では私は…私をお前が選んでくれるなら、私は一生お前に奉仕する!どんな要求にだって応える!それがどんなにいやらしい要望でも…」
「サガァァァァーッ!!」
 そう申し出た善の心のサガのあまりに可憐さに、アイオロスは反射的に彼を抱きしめていた。
「あ、貴様!善のサガを選ぶのか!?」
「私たちはどうでもいいと言うのだな、アイオロス!?」
 悪の心のサガと統合されたサガがアイオロスを責める。
 はた、と、アイオロスは我に返った。そして三人の顔を改めて見直した。
「い、いや、だめだ!やはりおれにはお前たちのうち一人を選ぶことなどできん!お前たち全員を平等に愛してやる。さあ、四人でともに愛し合おう!」
 三人のサガは押し黙り、やや間をおいてこう叫んだ。
「「「アホかーっ!!!」」」
 そして三つのギャラクシアン・エクスプロージョンが炸裂した。

「う、うわあああああーっ!」
 悲鳴とともにアイオロスは飛び起き、そして長椅子から転落した。
「ど、どうしたのだ、アイオロス」
 アイオロスを仮眠から起こそうとしてやってきたサガが驚いた。
「あ、あれ?サガが…一人?」
 床に転げ落ちたアイオロスは傍らに立つサガを見上げた。
「サガ…一人だよな?」
「聖域に『サガ』は私一人だが…どうかしたのか、アイオロス?」
「じゃあ、さっきのは…夢?」
 仮眠から跳び起きるなり意味不明のことを呟いているアイオロスの様子に戸惑うサガを、アイオロスはまじまじと見上げた。
「アイオロス、なにが…?」
「サガァァァァーッ!!」
 がばっと立ち上がったアイオロスはサガを抱きしめた。
「サガーッ!お前が白でも黒でも灰色でも何色でも何人でも、おれはお前を愛しているからな!だからこれからもずっとおれの側にいてくれー!」
「あ、ああ、アイオロス」
 そうしておいおいと泣きながら自分を抱きしめるアイオロスの姿に、サガはひたすら首をかしげるのだった。

 聖域は今日も平和です。


<FIN>

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