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2007年04月15日23:55

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漆黒とノイズの世界へ。

http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=2066

今日は何十回目かの観返しになる、「イレイザーヘッド」を堪能した。
そもそも、私とデヴィッド・リンチ監督の出会いは、「エレファントマン」だった。
公開当時、自治会の子供会の中の「障害者を励ます会」の大人たちが、聴覚障害のハンデを負ってる私も入れて、社会見学の一環として映画鑑賞に連れて行ったのである。
観た後の、会長の知った風な言い方は決して忘れない。
「エレファントマンのように強く美しく生きましょうね」。
そして。
「イレイザーヘッド」もお涙ちょうだいの感動ドラマと思い込んだ会長たちは、また同じメンバーを連れて劇場に赴いた。
観ていて・・・
どのシーンだったか忘れたが、会長が周囲の迷惑もかえりみずに、大声で「何これ!」と叫んで、子供たちを連れてさっさと外へ出て行ってしまった。
唯一、私だけが劇場に残った。
会長はよっぽど動転したらしく、メンバーの中で最も健常者に「見える」私をきれいさっぱり忘れてくれたのである。
そのおかげで、幸福なことに、私はリアルタイムで「イレイザーヘッド」を体験することが出来た。
ずっと座りっぱなしで、三回続けて観た後、ふらふらと夜の街をヘンリーになりきって帰る途中・・・
耳の奥ではノイズが響きっぱなしで・・・
目の奥ではコブ女がにこにこしながら歌いっぱなしで・・・
脳髄のどこかが「開きっぱなし」になってしまったことをよく覚えている。

・・・・・・

それ以来、私は「障害者を励ます会」のイベントに誘われなくなった。その理由が大きくなってから知ったのだが、「人間になろうと努力している障害者たちに比べて、わざわざ人間以外のものになろうとしている」ので、みんなの心身の健康のために私を除外したというのだ。
その通り、私は、小さい頃からすでに、大人たちの虚栄心のために無理していい子になることを拒絶していた。
大きくなるにつれ・・・
同世代の小児マヒやサリドマイドによる身体異常の障害者たちは、私の怪奇嗜好の裏に潜むものを理解してくれ・・・
そこには一体何が見えるのかを知りたがって、大人たちの目を盗んでは、私に会いに来てくれた。
そこで、ビデオデッキを購入したばかりの私の部屋で、あらためて「イレイザーヘッド」をみんなで鑑賞した。
「エレファントマン」もあらためて観たのだが、大人たちが感動するのはそう思い込むのと、そうとしか受け取れないからだと理解出来て、リンチが現在まで一貫して追い求めているのは、人間の内奥に横たわる漆黒とノイズの世界なのだと理解した。
実際、「エレファントマン」さえも、ヒューマンドラマの形を借りた、リンチの世界そのものだった。
リンチが一体何を見ているのか、私は「イレイザーヘッド」で知り、水先案内人となって、障害者たちに「漆黒が弾けて真っ白に光り輝く瞬間」を見せてあげた。
脳髄が消しゴムのカスとともに虚空を舞い飛ぶ時、大人たちに植えつけられた余計なものがきれいさっぱり消滅し、私たちは、無垢というものがどういうものかをはっきり悟った。

・・・・・・

きれいなものを見るためには、きたないものの中に自ら身を委ね、泥濘と混沌の中を這いずり回り、自らのきたないものを脱ぎ捨てられるように努力しなければならぬ。

しかし、リンチはその過程なしで、きれいなものを見てしまった。そういう意味で、リンチは誰よりも障害者であり、フリークである。幼くして、「イレイザーヘッド」に導かれた私もまた、フリークの一人として、漆黒とノイズの世界に生きながら、真っ白に光り輝く瞬間を見続けている。
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