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2018年01月12日03:06

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『嘘はエイプリルフールに』

 エイプリルフール向けのネタですが、4月まで待つほどの作品でもないので、思いついたのが吉日と掲載します。
 聖戦後復活設定。ロスサガ・ラダカノ前提でカノ→サガというカオスな話。
 カノンがある日、サガに「おれ、結婚することにした」と言い出した。果たしてサガの反応は…。
 海界の中心都市ポセイドニアについては、『ポセイドニア・コモーディア』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689あたりを参照。


『嘘はエイプリルフールに』

 もう一人の双子座の黄金聖闘士であるカノンは、海将軍筆頭・海龍を兼任しており、普段は海界の中心都市ポセイドニアに居住して、その地の統治に当たっている。
 かといって地上と没交渉というわけではなく、教皇アイオロスの首席補佐官を務める双子の兄のサガのもとには、折につけては顔を出し、茶飲み話をしては帰っていくという交流を続けていた。
 そんなわけで、その日も、カノンは休日を私宅で過ごしていたサガを訪ねていた。
「サガ、おれさぁ…」
 兄が入れた紅茶を口に含みながら、弟がおもむろに口を開いた。
「結婚することにした。多分、今年中に式を挙げると思う」
「…は?」
 唐突な弟の宣言に、サガは目を見開いて呆然となった。
 結婚というのは、当然、一人では出来ないわけで、するからには相手がいるわけで…、と、サガは頭の中で弟の「結婚相手」を推察した。
「まさか…あの冥界の眉毛とか?」
 サガが眉をひそめる。目下、カノンと恋人として付き合っている冥界三巨頭の一人、天猛星ワイバーンのラダマンティスが、結婚相手の第一候補としてサガの頭に浮かんだ人物だった。
「男同士で結婚できるわけないだろ。違う。相手はポセイドニアの名門貴族の御令嬢だ」
「……」
 無言で立ち尽くす兄に、カノンは説明を続けた。
「いや〜、ポセイドニアの元首たるものがいつまでも独身では格好がつかんと言われてな。そろそろ身を固めてはどうかと周りがせっついてうるさくて…。それで元老院議長の親戚に当たる娘を紹介されて、おれもまあいいかなと思ったんで、彼女と結婚しようと…」
「……」
「もちろん、結婚式には参列してくれるよな、兄さん?」
「……」
 その突如、サガは洪水のような涙をあふれさせた。
「サ、サガ…?そんなにショック…」
 一瞬、カノンの頬が笑みの形に緩みかける。だがサガの反応は、カノンの予想とは異なるものだった。
「カノーン!!!!」
 無限に流れる滝のような落涙で頬を濡らしながら、サガは双子の弟に抱きついて、力強く抱きしめた。
「カノン、お前は本当に悪の心を入れ替えて、真人間になってくれたのだな!!!!兄は心の底から嬉しいぞ!!!!」
「え…?」
「ああっ!あの忌々しい冥界の眉毛と縁を切って、お前が女性と家庭を持ってくれるとは!!!こんなに嬉しいことはない!もちろん、祝福するとも!幸せになってくれ、我が弟よ!」
「え、え…?」
「それで式はいつごろだ!?無論、私も参列するとも!今から予定を組まねば…。それに衣装も用意しないと…。黄金聖衣というわけにはいかないな。よし、私もそのために法衣を一着、新調するぞ!」
「……」
「最初の子供は男の子がいいかな?女の子もいいな。ああ、でもどちらでもお前の子なら可愛いだろうな。カノン、名前はぜひ私につけさせてくれ。早くこの腕にお前の子を抱きたいものだ」
「……」
「いや、それは先走りが過ぎたな。その前に、まずお前の家族として私も相手の女性に挨拶をしなければなるまい。その女性に会いに行くならいつがいいだろう、カノン?」
 弟の結婚報告に一人で浮かれて狂喜乱舞している兄に、カノンはやがてこう叫んだ。
「サガのばっかやろうぉぉぉーっ!」
 そうして泣きべそをかきながら、カノンは兄の家を走って出て行ったのだった。

「違うだろ!そこは『カノン、私を置いて結婚しないで』とか『寂しい…。結婚なんてやめて』だろ!?なんでおれの結婚話に喜んで踊り狂ってんだよ!おかしいだろ!」
 「おかしいのはお前の頭の方だ」とラダマンティスは心の中で冷静に突っ込んだ。
 兄の家を泣きながら飛び出したカノンは、そのまま冥界のラダマンティスのもとに駆け込み、彼秘蔵のスコッチウイスキーをがばがばとストレートで飲んでヤケ酒をあおっているのであった。
「あ〜…くそー。サガの奴がちょっと焼きもちを焼く姿を見たくて嘘をついただけなのにぃ…。やっぱりこういうのはエイプリルフールを狙わないとダメなのかよぉ〜…。サガの馬鹿ぁ、石頭ぁ、鈍感男、すかぽんたん、おたんこなすぅ〜…」
 いい加減に酔いが回ってきたのか、カノンは兄への悪口を言いながら机に突っ伏した。
「…いや、エイプリルフールでも、サガの反応は変わらないと思うぞ」
 こちらはまだ昼間ということで酒類ではなくコーヒーをちびちびと飲みながら、ラダマンティスが真面目に答える。
「まあ、サガの喜びようも確かに尋常ではないかもしれんが…。だが、弟が結婚すると聞いたら、祝福するのが兄というものだろう?それが普通だ。ましてサガは、お前に『真っ当な人間』になってもらって、健全な家庭を持ち、健全な人生を送って欲しいと願っているようだから…」
 がばっとカノンが頭を上げてラダマンティスをにらむ。
「なんでだよ!サガが結婚するって聞いたら、おれなら卒倒するぞ!?祝福なんぞ出来るか!」
「それもどうかと思うが…」
「だってサガが結婚するなら、相手はあのアイオロスだぞ!あいつらが結婚!?そんなことになったら、おれは結婚式に乗り込んで式をぶち壊してやるわ!」
「そこは普通に女性と結婚するという可能性も…」
「サガが女と結婚なんかするわけないだろ!第一、聖闘士は結婚できないんだぞ。あいつが聖闘士をやめるわけがない。そもそも、サガにはおれがいるんだから、他の奴なんか必要ない!」
「……」
 分かってはいたが、カノンの双子の兄への並々ならぬ執着心に、ラダマンティスはため息をつくしかなかった。
 だいたい、なぜこいつはおれのところに来てこんなことを愚痴っているのだ、という疑問がラダマンティスの頭に浮かぶ。
 そもそも、ラダマンティスはカノンの恋人で、サガはカノンの兄のはずだ。だがこれではまるで…。
「なんだか、サガがお前の恋人で、おれはお前の恋愛の悩みを聞く男友達のようだな…」
 ぼそっとラダマンティスが呟くと、カノンはうろんな目で彼を見た。
「はぁ〜?サガが恋人なわけないだろ。あいつは兄!家族!恋人になれるわけないじゃん。馬鹿か、お前は?」
「…お前の『家族』と『恋人』の定義はどうなっているのだ?」
 憮然となったラダマンティスを前に、カノンは懲りもせず「サガがどうやったら自分に焼きもちを焼いて執着してくれるか」を延々と考え続けていた。
「カノン…。サガのことを考えるのもいいが、おれのことはどうなのだ?おれがお前の恋人だというなら、おれに焼きもちを焼かせたいとか、執着させたいとか、少しは思ってくれないのか?」
「…え?」
 不意を突かれたような顔にカノンはなった。
「だって、お前には今さら必要ないだろ?おれのことしか目に入ってないってまるわかりじゃないか」
「…それは否定はしない」
 憮然とした顔のまま、ラダマンティスはコーヒーを一口含んだ。惚れた弱みという奴で、これだからラダマンティスはカノンにかなわないのである。恋はより多く惚れた者の負けなのだ。
「ま、お前のそういうところが、おれはたまらなく好きなんだけどさ」
 そしてカノンはにやりと挑発するように笑んだ。
「愛してるぜ、ラダマンティス」
「…まったく、お前はとんでもない悪魔だ」
 カノンの強さと美しさ、そして気性の激しさと行動の鮮やかさはラダマンティスをどこまでも惹きつけ、同時に彼を手酷く翻弄もしてくれる。たぐいまれな得難い魅力を持ったその恋人をラダマンティスは苦笑交じりに引き寄せ、彼と酒の香りがする口づけを交わしたのだった。

<FIN>

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