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インテンションコミュの第11話 「オフタイム」

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タクシーの後部座席に、高宮幾佐(たかみやいくさ)と立花威咲(たちばないさき)。

『どちらまで行かれますか?』

運転手に訪ねられて、威咲が幾佐をチラリと見て『こいつんち』と、言った。
幾佐は慌てて、自分の家に行ってくれるように詳しい道筋を運転手に告げる。

車が動き出した時

『ごめん…横にならせて』と、威咲がふらりと倒れて、幾佐の膝に頭をもたれかけて来た。

『威咲?気分悪いんか?』

『ちょっとな…久しぶりに走って、しんどなった…』

談話室からエレベータホールまで僅か数メートルしかないのに?

予想以上の威咲の体力の低下に、幾佐は驚いた。

『病院、戻るか?』

『アホ言え。誰が戻るか』

心配して狼狽える幾佐に構わず、威咲はクスクス笑っている。


威咲を連れて帰ったところ、幾佐の母親が大歓迎で迎え入れた。

『あらまあ!威咲くん!久しぶりやんかいさぁ!まぁ〜!相変わらずシュッとした男前やなぁ〜!さぁさぁ、お入り。寒かったやろ?あれ?そういえばキミ、なんや、ややこしい病気になってもうたんやなかった?大丈夫なん?もう、ええのん?』

『オカン、やかましわ!』

思わず言った幾佐の頭に、威咲がバシンとシバきを入れ

『いや、正直、病院イヤになって出てきたんですわ』

ものすごい笑顔で、本当だけれど、とんでもない事を威咲がケロリと言う。

『ええ?だ、だ、大丈夫なん?』

『平気ですよ。僕も医者やってましたし、だいたい分かってますし。それに、なんかあったら、幾佐が助けてくれますよ』

『ええ?』

オカンと似たリアクションをする幾佐に、ニヤニヤ笑いながら、威咲は『おじゃまします』と、まるで我が家に帰って来たかのように遠慮なく幾佐の家に入っていった。



ふたりは、幾佐の自室でパソコンを開き、威咲と幾佐が作ったデータを改めて読み直し、打ち合わせのような作業を始めた。

ハードディスクに録画した、幾佐がひとりでやってきた仕事に対して、威咲のダメ出しが容赦ない。

『電車で通学途中の野郎の普通の会話の方がもっとおもろいぞ』

『そ…そうかな…』

『商店街で喋ってるオバハンの会話でも聞いてこいよ』

『あぁ、あれは、ある意味、無敵やな…』

『喋りゃあ、ええってもんでもないけどな』

『…司会者のオバハンが嫌いやという理由で、生放送でろくに喋らんかったお前に言われたないぞ?』

『ホンマ、おまえ、クソおもんないなぁ』

やかましいわ!と叫びそうになった時、トントンとドアノックの音がして、オカンが入って来た。

『おやつ、持って来たで〜』

手に提げたお盆には、コロコロ、ツヤツヤした大学芋が盛られている。

『ちょうど、鳴門金時のええのんがあってね、こさえてみてんよ。威咲くん、さつま芋、好っきゃったやろ?』

『わぁ…ありがとうございます。ひさしぶりやなぁ…。いただきます!』

またもや幾佐は、威咲の表情が瞬時に変わるミラクルを目の当たりにした。

ついさっきまで底冷たい表情で、幾佐にボロカスに文句を言っていた威咲と、あどけない子供の様な笑顔で大学芋を頬張る威咲。

スライド写真で見比べてみても、とてもじゃないが同じ人間とは思えないのではなかろうか?

いったい、顔の筋肉のどこをどうやったら、こんな芸当ができるのか、幾佐は不思議でしょうががない。


その時、玄関のチャイムが鳴って『あら、お客さんやわ。もうちょっとお喋りしたかったのに〜』と、オカンが席を立とうとすると、

『幾佐、お前が、行って見てこい』と威咲が命令した。

幾佐は一瞬、なんだ?こいつ?と思ったが、オカンが『そやそや、あんた見て来てえや。新聞とか宗教とかの勧誘やったら、あんたの方がアッサリ断りやすいやろ』と、それこそ、ものすごい嬉しそうな顔をして言うので、幾佐は渋々席を立った。

玄関を開けた時、幾佐は開いた口が塞がらなかった。

『つ、つつじ…さん?』

『来ちゃったぁ〜』

そこにいたのは、立花つつじ。威咲の姉で、幾佐のモトカノである。

華やかな赤い振袖を纏い、長い黒髪にも赤い花のかんざしが飾られている。まるで、通天閣の歌姫のようだ。

『ど、どうした、の?』

『えへへへ〜、お見合いの席から逃げてきてん〜』

『はあ?』

『だって、いややってんもーん』

『つつじさん?もしかして、飲んでるのん?』

『はーい、すびばせーん!お見合いの会食で、『鬼殺し』5杯飲んで、勢
いついたところで逃げてきましたー』

完全に出来上がっている。

真昼間という訳ではなく、日も暮れて暗くなっているとはいえ、それにしてもこの姿で、この状態で、ここまで来たというのか?

威咲とつつじ。この弟にして、この姉あり、か。

『まぁ、入って。水でも飲んで、ちょっと落ち着けへん?』

幾佐がつつじを招き入れると、つつじは玄関に並んでいる威咲の靴を見つけて、

『なんで?なんで威咲がここにいるのん?』

真顔で詰め寄ってくる。弟の事となるとさすがに正気に戻ったらしい。

『威咲、どこにおんの?』

致し方なく、幾佐はつつじを自室に招き入れ、威咲に会せる。

『威咲ーーー!!』

部屋に入って、溺愛してやまない弟を見るなり、つつじは駆け寄って抱きしめて、

『あんた、なにしてんのん?熱ないか?今日の薬はちゃんと飲んだん?点滴は?輸血は?』

と、威咲の額に手をあてたり、両腕の輸血と点滴用の留置針を確認したりしている。

『姉ちゃん、痛いって…。色んな意味でイタイって…』

弟の『イタイ』の一言で、たちまち姉はおとなしくなってしまう。

『つつじちゃん?』

幾佐のオカンが呼びかけて、改めて、つつじは恐縮して居住まいを正し、『あ、おばさん、ごぶさたしてます。威咲がお世話になってます。すいません。ごめんなさい』と思いつく限りの辞令を述べた。

オカンは『こらまた、今日は、立花さんちに縁のある日ぃやねぇ。それにしても、つつじちゃん。あんた、えらい、豪快な七五三みたいやなぁ』と、カラカラと笑った。



やがて小一時間程過ぎて…

幾佐は『なんで、こないなんねん?』と思った。

オカンと立花姉弟ですっかり宴会状態になっている。

オカンとつつじが台所で肴やおやつの類をせっせと作りだし、女同士でさらに飲みながら、威咲と一緒に、お笑い番組を見ながら、それこそ、どうでも良い話で盛り上がっていた。


威咲はさすがに、それほどは飲んでなさそうだったが、それでも、ペラペラ喋って笑って、とても病人には見えなかった。

やがて夜が更けて、さすがに、つつじは終電前に帰宅したが、威咲は結局、幾佐の部屋に泊まる事になった。


夜明け前


威咲は、緩やかな浅い眠りの中で、部屋の空気が乾いて冷たく落ちてゆくのをうっすらと感じた。

ボンヤリ目が覚めて、一瞬、ここが何処なのか迷ってギクリとする。あぁ…病院を飛び出して、幾佐の家に泊まったんだ、と思い出した。

冷たい空気を吸い込んだ瞬間、コンコンと咳が出る。力のない空咳なのに、それは胸の底から幾度も競り上がって来て、体が揺さぶられ、吐く息が熱く、吸う息が冷たく、どちらも苦しくて、喉の奥や胸が痛い。

ようやく収まったかと思っても、ゼィゼィと胸が鳴っているのがわかって『あぁ…そろそろヤバいかも…』と思った。

感染症が気管支か肺に来たか?だとしたら案外早く来たなぁ…サードステージ辺りかなぁ…自分の体を、まるで他人事の様に傍観している。

『大丈夫か…?』

威咲の咳で目覚めた幾佐が背中を擦り、額に手をあててくる。

『…熱っぽいな?』

『たいした事ない…。いつも、こんな感じやで…』

ちゃうやろ…と、幾佐は思う。いつも微熱がある状態は、十分にたいした事だ。

威咲が起きて立ち上がろうとする。

『どないした?トイレか?』

『…喉、乾いてん』

『ほんなら、俺が水汲んで来るし。寝とけって』

『病人扱いすんなや』

『アホか?病人やんけ』

互いに寂しくクスリと笑ってしまう。

そうだ。

機嫌の良い時は、ニコニコ笑顔で、下らない事ばかりペラペラ喋る威咲だから、つい彼が難病の入院患者である事を忘れてしまいそうになるけれど。

幾佐が水を汲んできたコップを見つめて、威咲はポケットからピルケースを出して

『…これ…飲んで良いかな?』と問うてくる。

『………なんやそれ?』

『トランキライザー』

精神安定剤?アスピリンだけじゃなく、トランキライザーも乱用していたのか?

幾佐は目を閉じて考えて、ため息をついて、首を横に振った。

『それはもう、俺が決める事やない。それを飲んで良いかどうかは、自分で決めろ』

威咲は黙って水だけをゆっくり飲む。コップを持つ手が微かに震えている。


『…俺、こんな時、まだ暗いうちに目が覚めてもうた時、なんか、たまらんねん』

伏せていた瞳を、幾佐に向けて見上げて言う。

『寂しいっていうか、悲しいっていうか…。ちょっとだけ、ちょっとだけやねんけど、その、ちょっとだけ悲しいんが、どうにも我慢できんくなるねん』

幾佐は、こんな威咲を見た事がない。

自信家でプライドが高く、どうにも鼻持ちならなくて嫌われて損をする一方で、朗らかに気持ちよく笑って周囲を取り込んでしまう人気者であったり、両極端な奴だなと思ってはいたけれど、こんなにも弱弱しくしている威咲を、幾佐は初めて見た。

もはや、幾佐は問わずにはいられない。

『なぁ、威咲…?お前、何があった?』

いったい何があって、医者になるのを辞め、薬物に依存するようになった?


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