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高田ねおの創作物置き場コミュの混沌のアルファ 第一段階『D−計画』3

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 三日後。すべての準備が整い、鍵(キィ)を造り出すための作業が始まった。

 ここで言われる鍵(キィ)とは、文字通り、扉を開く為のものを指している。
 もうひとつの世界の因子を持つαとこちら側の世界のβ因子を組み合わせて、二つの世界の混合種を造る。そして、その混合種を起点にα世界をβ世界に引き寄せるのだ。互いに引きつけ合う磁石の様に。

 それが成功すれば、こちら側の世界にいながら、もうひとつの世界を現出させるという、本来あり得ない現象を目の当たりにすることが出来るのだ。
 その混合種が鍵(キィ)。Dー計画の要なのである。

 「……それじゃあ、始めるぞ」

 石和武士の言葉に皆が一様に頷く。目の前には瞬間物質転送装置(テレポート・ゲート)。Aカプセルには実験体である猿。川原と川上が柔らかい細胞と呼ばれる細胞を組み込み、ナノマシンでα細胞の浸食を遅延させるためのプログラムが組み込まれている。
 となりにはひとかたまりの細胞。αから摘出した細胞である。ガン細胞よりもはるかに浸食率が高いその細胞を食い止めることが出来るのか。

 (いや……出来る。必ず安定させてみせるさ)

 −−−−そうして、実験は始まった。

 
 「ふう……疲れた」

 石和は椅子に全体重を預けながら、けだる気に呟いた。いつのまにやら、全身は汗でぐっしょりだった。自分でも気付かないうちに相当緊張していたらしい。佐々木勇二郎が満面の笑顔を浮かべて、石和の肩をぽん、と叩いた。

 「現在の所、拒絶反応も出ていないし、ナノマシンもきっちり稼働して、α細胞の浸食をゆっくりなものにできた。なによりも、一番心配していたα細胞との融合が上手くいったのが一番嬉しいよ。実験体もこれ以上ないくらい安定してる。 成功だよ、やったね! 石和くん」
 「まあ、一安心ってトコだが、まだまだ予断は許さない状況だ。α細胞と実験体の細胞が完全に融合するまでは、どんなイレギュラーがあるかも分からない。ここで喜んで、最後の最後で失敗ってのもよくあるパターンだからな。気は抜かない」
 「それでも、短期間でここまでの成果を上げたのは、すごいことだと思うよ。そして、この実験体が安定すれば、計画は大きく前進する。次のステップに進むことになる」
 「次、か……」

 考えないようにしていたことでもある。鍵(キィ)の精製も不可能とまで言われていたのだが、その次にある課題のハードルはもっと高い。

 それはエネルギーの問題である。混合種を鍵(キィ)と例えているが、異界の門の扉を開くには、その鍵(キィ)を回して、開けるだけのエネルギーが必要だということだ。
 α側の世界をこちら側の世界に接触するほど接近させて、絶対次元壁に入り口を造る。
 理論としては完全に確立しているし、それを実行に移せれば、この計画は成功するのだろう。だが−−−−
  
 「……正直、厳しいな」
 「……そうだね」

まだ、始まってもすらいない、研究に。石和と佐々木は諦めの言葉を漏らしていた。

 「こらこら、二人とも。ようやく鍵(キィ)が完成して、次の段階に進めそうな、めでたいときに、なに不景気な言葉を口にしてるのよ。男のくせに情けない」

  腰に手を当てて、ぷんぷんという擬音が合いそうな仕草で川原が、しかりつけてくる。
  漫画などではその仕草をするヤツはよく見かけるが、実際やっているのをみるのは初めてだ、などとどうでもいいことを胸中で呟く。

 「別に俺だって、難解だから、挫けるような台詞を吐いたワケじゃない。ただ、どうすればいいのか、見当もつかない」

 合成して完成した鍵(キィ)の使い道は二つある。一つは鍵(キィ)を起点にして、α世界を限りなくこちら側の世界に接近させること。二つめは絶対次元壁の境界線を破り、α世界へ通じる道を造ること。

 二つめの能力はこのままなんの異常もなく、鍵(キィ)として完成すれば、何の弊害もなく入り口を造ることが可能だろう。αとβ、双方の因子を持つ特殊な存在であるなら、すでに完成した装置を付加してやるだけで、入り口は開くはずだ。

 問題は一つめだった。
 α世界をこちら側に引き寄せるには、それこそ莫大なエネルギーが必要不可欠となる。α世界はβ世界に隣接した位置にあるが、それでも世界そのものをこちら側に引き寄せるのだ。通常では考えられないほどのエネルギーを使うことになるだろう。
 そんなエネルギーをどこから持ってくればいいのだろうか?

 原子力発電所でも買い占めるか、あるいは自然が生み出す雷のエネルギーを利用するのか?
 しかも、その莫大なエネルギーを鍵(キィ)の中へと注ぎ込み、そのエネルギーに絶えうる身体にしなければならない。そして、そんな生物の肉体はこの世に存在しない。どれほど強靱な肉体を持ってきたとしても、物理的に絶えられるはずがない。

 それが例え実験体αの肉体であったとしてもだ。

 「確かに。電流で言えば、ギガワット級の高圧電流が必要となる。そんな高エネルギーを生命体の中で活動させる手段は現代の科学技術では存在しない」

 と、川上が言う。

 「確かにそうだね、そもそも高圧電流を生命体の中で活動させようという前提自体が間違ってるかもしれない。生命体のなかで上手くエネルギーをコントロール出来、なおかつ高密度なエネルギー……」

 佐々木の言葉に石和は大きくため息を吐いた。

 「佐々木、そんな都合のいいエネルギーがあるわけがないだろ。そんなモノが精製できれば、俺たちは全員ノーベル賞が受賞出来る」
 「高圧電流は根性でなんとかならないかしらね?」
 「無理。というより、川原博士、真面目に考えてほしい」
 「……く」

 そんな身にならない討論を四人で投じていると、
 「ふ……ふはははははははっっ!」

 突如、戸木原淳が高らかに笑い声をあげた。

 (な、なんだこいつ……今までずっと黙ってたかと思えば、いきなり。ついに自分の無能さに嘆いて、頭が壊れたのか?)

 石和はそんな言葉が喉元まで出かかった。

 「ど、どうしたんですか、戸木原博士、急に笑い出したりして」

 川原が皆と同様、困惑の表情を浮かべて尋ねた。

 「ふっ……くく……いやいや、皆の漫才があまりにも愉快でな、つい、吹き出してしまった。いや、みんなにはお笑いの才覚があるようだ」
 「な……に?」
 石和武士が眉を潜める。よく他人を見下すような言動はとるが、今のはあからさますぎる。
 「いや、失礼。漫才ではないのだな。真面目にことを運んでいるが、端から見ていると非常に滑稽な、チャップリンのような喜劇かな。くく……」
 「おまえ……」

 頭に血が上ってゆくのが分かる。いい加減、我慢の限界だ。ここの責任者だなんて、関係ない。一度、ぶちのめして、徹底的に思い知らせてやるか  

 と、佐々木が肩を掴み、無言で首を左右に振った。『気持ちは分かるが、おちつけ』と、目で語っていた。不愉快そうな顔をしているので、石和と心境は同じなのだろう。当然といえば当然だった。あんな馬鹿にした言葉を口にされれば、どんな温厚な人間だって堪忍袋の緒を切らすだろう。

 「いや、失礼。皆を侮辱したわけではないのだ。ただ、みんなエネルギー変換という呪縛に捕らわれ、必死に手段を模索しているのが、少々おかしくてな。いまの皆は額にかけた眼鏡のことを忘れ、眼鏡を探す笑い話によく似ている。そう、呪縛さえ解きはなってしまえば、簡単に答えは浮かび上がってくるというのに」
 「え……ど、どういうことですか?」

 佐々木は目を丸くした。

 「だから、高エネルギーを生体エネルギーに変換するという前提自体が間違っているのだよ。変換などいらぬだろう。生体エネルギーそのものを高めればいいのではないか?」
 『あ−−−−』

 それでようやく、戸木原が言っている意味に気付いた。

 「気付いたかね? そうだ、川原くんの言っていた水の水晶(アクア・クリスタル)  アレは高密度に凝縮された生体エネルギーの固まりだ。アレ一つを爆発させてやるだけで、相当数のエネルギーを得ることができる。膨大な高圧電流に絶えうる肉体を造るのは不可能でも、生体エネルギーを大量に取り込む貯蔵庫を造るのは決して不可能な事ではないと思うがどうだろう? みんな」

 「た、たしかに! 遺伝子強化、柔らかい細胞、ナノマシンを使えば、生体エネルギーだけを取り込む生き物を造るのはそう難しくないはずだ」
 「鍵(キィ)とは別にもうひとつ素体を造る必要はありそうだけど……なるほどねえ、迂闊というかなんというか。盲点だったわね」
 「我々は変換という固定概念に囚われすぎていたのかもしれない。科学者は自由な発想こそが重要なのに」
 「…………」

 三人は戸木原の高圧的な言動を忘れて、その案を絶賛した。決して口にはしないが、石和武士も同じ思いだった。悔しいが、戸木原の言うとおりだ。とんだ盲点に気付いていなかった。そして、その盲点に唯一気付いた戸木原淳の評価を改めなければならないかな、と思い始めていた。

 「はっはっはっ、仕方がないことだ。君らはまだまだ若い。未熟なのは当然だ。せいぜい精進するがいいぞ、みんな」
 
 ……人格面に関してはまったく修正する必要はなさそうだが。
 
 「さて、そこで提案があるんだが、このエネルギーを備蓄する素体の研究、できれば、私のほうに一任してくれないか?」
 「え……戸木原博士が一人で、研究を行う、ということですか?」
 
 佐々木の言葉に戸木原は手を振って笑った。
 
 「まさか。いくら私でもそんな大がかりな研究を一人で行うことはできんよ。実は以前いた私の研究グループが生体エネルギーの流動、蓄積の研究を行っていて、川原くんの水の水晶(アクア・クリスタル)の話をしたら、非常に興味を持ってね、是非、こちらのほうで、研究を行わせてほしいと行ってきている。無論、そのスタッフはこのD計画の研究グループのモノだし、何の心配もいらない。どうだろう? みんなはしばらくは鍵(キィ)の安定作業で手が離せないだろうし、その合間に事を勧めるのは決して悪いことではないと思うのだが」
 
 「いいんじゃないかしら」
 「うん、特に反対する理由もないよ。第一、この案を提案してきたのは戸木原博士自身だからね。僕らも鍵(キィ)を一刻も早く、完成させますので、戸木原博士も頑張ってください。完成次第、そちらと合流しますので」
 「ありがとう。感謝する。きっと皆の期待に沿えるモノを造ることを約束しよう」
 
 そう言って。戸木原は笑みを浮かべた。
 
 「…………」
 
 なにか---嫌な予感がする。戸木原の笑みにはなにか、あるのではないか。
 脈絡も根拠も全くないが、石和はそんなことを感じていた。



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