ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説・評論:孤城忍太郎の世界コミュの二十四、『うさぎ』考 『言苑』より

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
この作品を讀む時に、この音樂を聞きながら鑑賞して下さい。
 これは自作(オリジナル)の

『Motion1(ピチカアト・Pizzicato) 曲 高秋 美樹彦』

 といふ曲で、YAMAHAの「QY100」で作りました。

映像は四國の徳島懸にある、

『大歩危・小歩危』

へ出かけた時のものです。

 雰圍氣を味はつて戴ければ幸ひですが、ない方が良いといふ讀者は聞かなくても構ひませんので、ご自由にどうぞ。






     二十四、『うさぎ』考 『言苑』より


  『うさぎ』に就いて調べたら面白い事が解つた。
 普通、現在だと『うさぎ』は「兎」と表記するが、これには、

 「兎・兔・莵・菟」

 といふ四つの漢字があり、嚴密にはあと二つ加へた六つがある。
 その内の一つは俗字の「兎」といふ文字が使用されてゐる舊字體として「兔」といふのがあるが、これは電腦(コンピユウタア)には登録されてゐないのでここに記する事の出來ない上部が「ク」ではなく「刀」になつてゐる正字があつて、「兔」はその正字の同字といふ扱ひになつてゐる。
 これらは『儿「人繞(にんねう)・人足(ひとあし)」』の部首である。


 またもう一つの「莵・菟」といふ文字も「菟」が俗字で、「莵」が正字の同字となつてゐて、正字は俗字の「菟」といふ文字と殆ど同じで、その違ひは「儿」の部分の左の「丿」が同字の「莵」のやうに上から下まで斜め向いてゐるといふだけだと思はれるが、確認しづらい事この上なく、こちらは「草冠(くさかんむり)」で字書では「艸」部で引く事になる。
 この「兎・兔」といふ字は見ても解るやうに象形文字で、讀みは漢音が「ト」で呉音が「ツ(tu)」であるが、これが日本語で『うさぎ』といふ讀み方に當てられた譯である。


 辭書(じしよ)によれば、先に述べたやうに『うさぎ』の「う」は漢字の「兎・兔・莵・菟」に當るものだらうが、殘る「さぎ」の方が何に由來するものか判然としてゐないといふ。
 ある説に「さぎ」は梵語(ぼんご)の『うさぎ』を意味する「舎舎迦(ささか)」から轉(てん)じたとか、「一羽(いちは)・三羽(さんば)・六羽(ろつぱ)」といふ數へ方から「さぎ」を鳥の「鷺」からだといふ俗説まである。
 或いは朝鮮語の烏斯含(うがさむ)から『うさぎ』になつたといふ説もある。

 今では大抵『うさぎ』を「匹」で數へるが、この「羽(は)」といふ數へ方が何故さうなのかといふと、長い耳が鳥の羽に見える所爲(せゐ)だといふのがあるが、面白いのは獣の肉を口にする事が出來ない僧侶が、二本足で立つ『うさぎ』を鳥類だとこじ付けて食べる爲だつたといふ、丁度、般若湯(はんにやたう)と言つて酒を口にしたのと同じ理窟を捏(こ)ねたといふ説がある事である。


 因みに「匹」といふ數詞は、織物二反で「一匹」と數へるやうに二つのものが對(つい)になつた物を表すさうで、その根據は「匹敵」といふ言葉が二つのものが互角である事を表すものである事を考へれば理解し易いだらう。
 では、何故動物を「匹」と數へるのかといふと、嘗(かつ)て人間が身近にゐた家畜の馬を綱に繋いで「引く」動物といふ意味から馬なども「匹」と數へたと、『源氏物語・今昔物語』にも用例が見られるといふ。
 更に筆を走らせれば、馬を「頭(とう)」で數へるやうになつたのは、西洋で牛を「head」詰り頭數(あたまかず)で數へた所から大型の家畜の數へ方となり、それが二十世紀になつて飜譯されて「頭」といふ數詞が定着したのは明治の末期からであるといふ。


 『うさぎ』は月を望んで孕むといふ傳説から月の異名とも言はれてゐるが、そんな事からか日本では月で餅を搗くとも言はれてゐて、それは『うさぎ』は月に住むといふ佛教説話からの影響と言はれてゐ、それを「玉兔(ぎよくと)」と言つて太陽の異稱の「金烏(きんう)」と合せて「金烏玉兔」或いはそれを縮めて「烏兔(うと)」といふさうである。
 また月の中に蟾(ひきがへる)と兔(うさぎ)がゐるという傳説から「蟾兔(せんと)」といふ月の異稱もあるし、「玄兔(げんと)」といふ表現もある。


 この外にも『うさぎ』には、諺(ことわざ)成句の類も多く、

 占(し)め子の兔「物事が思いどおりに運んだといふ意味・(しめこのうさうさ)ともいふ」

 兔死すれば狐これを悲しむ「同類の不幸を縁者が悲しむ事・狐死兔泣(こしときふ)」

 兔波を走る「月影が水面に映つてゐる樣・仏教の悟りが淺い人の例へ」

 兔追ひが狐に化かされたやう「呆然自失の樣」

 兔に祭文「馬の耳に念佛に同じ」

 兔の毛で突いたほど「ほんの少しの事。また兔の毛(うのけ)ともいふ」

 兔の子生まれつ放し「後始末を全くしない無責任な事の例へ・兔のひり放し」

 兔の逆立ち「耳が地に擦れて痛いといふ所から、當て擦りに聞えるといふ洒落・兔のどんぶり返り」

 兔の字「免職を言ふ隱語。「兔」と「免」の字形が似てゐるので」

 兔の角論「根拠のない無益な議論・嘘話」

 兔の登り坂「力を発揮する事を指す」

 兔の晝寢(ひるね)「油断して思わぬ失敗を招く事。「兔と龜」の寓話から」

 兔の糞「長續きしない事。兔の股引」

 兔の耳「人の知らない事を良く聞きだしてくる事」

 兔の罠に狐がかかる「思ひがけない幸運をつかんだ事」

 兔兵法「つまらない謀略を巡らして失敗する事」

 兔も七日なぶれば噛み付く「どんなにおとなしい者でも忍耐には限度があるといふ事」

 兔を得て蹄(わな)を忘る「物事を成就すれば、その手段は不要になると云ふ事・魚を得て筌(うへ)を忘るに同じ」

 兔を見て犬を呼ぶ「失敗はすぐに改めれば遲くはない・兔を見て鷹を放つに同じ」

 犬兔の爭ひ「漁夫の利」

 狡兔死して走狗煮らる「利用價値がなくなると捨てられてしまう事」

 脱兔の勢ひ「迅速な樣子」

 二兔を追う者は一兔をも得ず「同時に二つの違つた事をすれば、どちらも成功しない事」

 年劫の兔「一筋縄ではいかない人の事を指す」

 始めは処女の如く終りは脱兔の如し「初めは弱々しく見せかけ後に力強さを發揮する事」

 などがある。


 「故事成語・四字熟語」としても、

 烏兔怱怱(うとそうそう)「月日の過ぎるのが早い事・烏飛兔走(うひとそう)とも」

 龜毛兔角(きもうとかく)「非實在の物事を例へたもの・龜毛、兔角とも

 狡兔三窟(こうとさんくつ)「危機にあつても身を守るのがうまい事」

 獅子搏兔(ししはくと)「ライオンは兔を捕まへるにも全力を出す」

 兔起鶻落(ときこつらく)「鶻は隼の意で書家の筆運びが獲物の兔を目がけて舞降りる隼の如き勢いである事」

 と隨分あるのに驚いてしまふ。


 これらの中に、

 株を守りて兔を待つ「習慣に拘つて進歩がなく融通の利かない事(守株・韓非子)」

 といふのがあり、これは一九二四年(大正十三年)に、滿州唱歌の一つに北原白秋(1885-1942)作詞、山田耕筰(1886-1965)作曲の唱歌(童謡)として發表された、

 「待ちぼうけ」

 がその事を歌つてゐるのをご存知の方も多いと思はれる。


 これ以外でも、十二支では『うさぎ』は第四番目の「卯(う)」の字を當て、時刻では午前五時から七時の間で、方角だと東を指してゐる譯だが、
 
 『於菟(をと)』

 といふと「菟」といふ文字があるものの、虎または猫の異稱であり、同じ漢字を使つてゐる、

 『木菟・木兔(つく)』

 といへば古名で、

 『木菟鳥・木兔鳥(つくとり)』

 といふ別名もあるが、

 『木菟・角鴟』

 と書いて「みみづく」讀み、

 『顧菟(ひきがへる?)』

 を指す動物もゐたりする。


 『うさぎ』は九〇一年から九二三年に篇纂された「本草和名」によれば、

 『兔(をさぎ)』

 と書かれてゐて、萬葉集(まんえふしふ)にも作者不詳で、

   等夜乃野尓 乎佐藝祢良波里 乎佐乎左毛 祢奈敝古由惠尓 波伴尓許呂波要

 といふ和歌があり、

   等夜の野に兔狙はりをさをさも寝なへ兒ゆゑに母に嘖はえ」

 と讀み、「等夜(とや)の野で兔(うさぎ)を狙つてゐるやうな感じで、なかなか寝ようとしない子だから、お母さんに叱られるのだ」

 といふ意味で、「等夜の野」は、下總の國の印幡郡の鳥矢郷といふ所だとある。


 この『うさぎ(乎佐藝)』の「う(乎)」が「を(乎)」であつたといふ事は、この「う」がア行の「う」ではなく、ワ行の「う」であつた事を物語つてゐる。
 一體(いつたい)、漢語ではなく大和言葉でのア行から始まる言葉は、

 「嗚呼・噫(あゝ)」「えゝ」「おゝ」

 などの感動詞の類が殆どで、

 「馬(うま)」

 は「むま(muma)」で「m」の音が缺落(けつらく)したものだし、

 「枝(えだ)」は古くは「よで」とも言つたといふからヤ行である、と筆者は考へてゐる。
 この「ゐる」といふ言葉が歴史的假名遣だと「をる」と活用するのでワ行だと諒解され、「う」といふ古形のある事でも納得されるだらう。
 これによつて、尾の先が切れてゐる姿から「尾先切(をさきり)」から『をさぎ』になつたといふ説もある。


 しかし、筆者はこれがワ行の「を」だとすれば、本體よりも小さい『尾(を)』だとか、山よりも小さい『丘(をか)』だとか、名詞について「小さい・細かい」といふ意味を表したり、語調を整へたりする、

 「小川(をがは)」や「を櫛」

 などがあり、『うさぎ』の「う」は單に小さいといふ意味ではなたつたかと考へてみる。
 さうして、『うさぎ』の「さ(佐)」は名詞・動詞・形容詞について語調を整へるための、

 「早乙女(さをとめ)・小百合(さゆり)・小夜(さよ)」

 などと使ふ接頭語ではなからうかと愚考する。
 さうなるとここまではいいのだが、『うさぎ』の「ぎ(藝)」がなんだらうかと、礑(はた)と困つて仕舞ふ。
 先に述べたやうに萬葉假名では上代特殊假名遣の甲類である「藝」といふ漢字を當ててゐるが、これは文字通り漢字の音を借りただけのものだから、そこからは推理の絲を手繰れさうもない。
 この假名遣の甲類乙類は混同されて使用された例がないので、發音の時に異なつたものであらうと推察されてゐる。


 とはいふものの、折角大上段に振被(ふりかぶ)つては見たが、語源を遡上するには筆者如きの任には重すぎて空中分解してしまつた。
 そこで、

 『兔光』

 といふ月に關する美しい言葉がある、と話題を摩替(すりか)へる手段に打つて出る。
 その上、何事もなかつたやうに發句では『うさぎ』は冬の季語となる、としたり顏で知つたか振りをする。
 ことほど左樣に、これに懲りる事なく日本語への興味は盡きる事もない儘に増々深みに嵌つてしまふのである。


     二〇一三年七月五日午後二時十五分 店にて記す


     關聯記事

麒 麟
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=48977198&comm_id=4699373



     初めからどうぞ

『言苑』  1、教育
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=48483796&comm_id=4699373

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説・評論:孤城忍太郎の世界 更新情報

小説・評論:孤城忍太郎の世界のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング