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アフターパーティーコミュのアジアの幻 6

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3日間のトレッキングからゲストハウスへ戻ると、宿泊者の顔がまたがらりと変わっていた。タイの宿は入れ替わりが激しい。私は一人でインターネットカフェに出かけ、これまでの旅を彼や家族に簡単にメールで伝えた。それから軽く食事をしてゲストハウスに戻ると、入口付近の共有スペースにタマキや一緒にトレッキングをした男子を含めた数名の子達が溜まっておしゃべりをしていたので、私も何気なくその輪に加わった。
「繭ちゃん、どこに行ってたの?」
「ん?ネットカフェに行って、ご飯食べて来た。」
「なんだあ、一緒に行きたかったあ。」
「ごめん、ごめん。あれ?ナオミは?」
「ナオミちゃんはもう行っちゃった。繭ちゃんにバイバイ出来なくて残念がってたよ。そう言えば手紙預かってるんだった。」
タマキが手渡してくれたメモに、「少しの間だけど、一緒に旅出来て楽しかった。色々ありがとう。北海道に来ることがあれば連絡してね。」と丸まった字で書いてあり、その下に彼女の本名と北海道の連絡先が記してあった。
「ねえねえ、聞いてくれる?今ね、タイ人にご飯ご馳走になっちゃった。」
私は彼女の手紙をバッグにしまい、その場の話題を変えた。ナオミの存在は、宿の入れ替わりの早さ同様、すでに過去へと押しやられる。
「うっそー。なんで?ナンパ?」
「ナンパになるのかなあ。ネットカフェの近くでパッタイ食べてたらさ、タイ人にタイ語で話し掛けられて、日本人なんですけどって言ったら『あなた、きれい』だって。」
「やるじゃん、おばさん。」
「ちょっと、おばさんは失礼でしょ。お姉さんって言ってよ。まだ一応二十代なんだから。」
「っつーか、俺も最初繭さんのこと現地人かと思ってたよ。」
「なんでよ。それただ色が黒いからってだけじゃない?」
「それもあるけど、なんか雰囲気がさ。」
「うん。俺も思ってた。繭さん日本人ぽくないよ。でも、現地人っていうよりなんか三蔵法師っぽい。」
「なにそれ?」
「人間より一つ上の存在っぽいってこと。」
「えー。全然分かんない。そんなこと言われたことないよ。」
「それより何でタイ人におごってもらったの?」
「あ、そうそう、その話。それでね、その人が自分はトレッキングのツアーガイドをしていて、日本のお客さんと日本語話せるようになりたいから、もし今暇なら日本語を教えてくれないかって。」
「また?タイでは日本語勉強するのが流行ってるのかな。」
「どうだろう?ただそうやってナンパする手が流行ってるのかもよ。ま、どっちにしても個人的に深入りする気はさらさらないし、本当に普通に日本語を教えてあげたの。聞かれた質問には結構真面目に答えてあげたし。こう見えて実は私、日本語講師の試験に受かってるんだ。」
「マジで?凄いじゃん。あれって結構難しいんでしょ?」
「そうだね。結構難しかったよ。試験は年に一度だし、一年間頑張って通信で勉強した。」
「しかも通信かよ。学校行ってないの?独学?凄いね。」
「まあまあ、でも一年以上は気力が続かなかったと思う。一発で受かって良かったと思うよ。それで、そのタイ人がお礼にってその時食べてたパッタイのお金を払ってくれたの。しかも後腐れなく。」
「やったじゃん。」
「うん。得した気分。でもね、その人に日本語を教えながら、私かなり漢字が書けなくなってることに気付いたの。みんな最近ちゃんと字書いてる?書いてなくない?本読んだりメールとかもするから普通に読めるは読めるんだけど、書こうと思ったらあれ?って感じで全然出てこないのよ。さっき、坊さんの“坊”の字を書こうと思ったんだけど、どうしても“防ぐ”になっちゃって、マジで思い出せなくて参っちゃった。」
「確かに。漢字は書けなくなってるかも。」
「でしょ?坊さんってちゃんと書ける?」
「坊さんくらいは書けますよ。一応俺達こないだまで大学生だったんですけど。お姉さん、それはちょっとヤバすぎ。」
みんながどっと笑う。和やかな雰囲気だ。
「ねえねえ、リョウはいつこっちに来たの?」
口大人しく輪に加わっていた新顔の男の子にタマキが話を振る。
「あ、俺?俺は二日前。」
「その前は?」
「ん?パンガン。」
タイではパーティーで有名な島だ。私はその一言に興味を示し、彼のことを観察し始めた。
「パンガン、どうだった?どれくらいいたの?」
なかなか自分から話を広げないリョウに、畳み掛けるようにタマキが質問攻めにする。
「んー二ヶ月いたんだけど、のんびりしていい所だったよ。」
「パーティー行った?」
私が横から質問の核心を突く。二ヶ月もいてパーティー好きじゃないとは言わせない。でも彼の答えは意外なものだった。
「・・・あんまり行ってない。」
「じゃあ何してたの?」
本当に分からなかったからそう聞いたのだが、彼のもったいぶった話し方に苛々してきていた私は、自分の発する口調が少し棘を帯びていることに気付いた。
「えっと。ぼーっとしてた。ほんとに。」
私の勢いに押されたのか、彼は更におどおどと遠慮がちになる。
「でも二ヶ月でしょ?」
「そうだけど。でも、何もしてなかった。・・・なんか日本が嫌になったんだよね。色々考えることがあってさ。だから本当に何もしてなかった。ただひたすらぼーっとしてたよ。」
陰のある奴だなというのが、率直な感想だ。ただその陰も、妖しい魅力のある陰というよりは、ただ単に陰鬱な陰で、あまり他人には心の中を明かしたがらないタイプの男だろうなと私は思った。それでも“パンガン”という言葉に反応した私を見て、彼も私に一つの共通点を見出し、それなりは親近感を感じたのかもしれない。この後、トレッキングで親しくなったタマキや学生らがチェンマイを離れると、残された私とリョウは急速に親しくなっていった。

コメント(1)

旅って、色んな人と繋がりますね。けれど、ナオミの存在が過去のものになるってところ。。。なんだか安心する。人間ってこういうもんだよなあって。

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