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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの三章 第四話 青森防衛戦

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青森基地 青森港


 青森基地守備隊は基地前面に展開し、戦闘準備を完了していた。……とは言っても、秋田戦に比べて遥かに少ない戦力ならば、当然だが……。友軍の撤退は未だ難航し、本州と北海道を結ぶ列連橋の車列は遅々として進まなかった。青函トンネルの使用も考えられたが、老朽化が進んでとても撤退に使えるものではない。ここに残る軍は、殿軍として最後の最後まで撤退を許されず、友軍の撤退が完了するまで一歩も引くことは許されなかった。

 これまでの戦いで、東北同盟側が一時間以上戦線を維持できたことはなかった。だが、守備隊は少なくとも三時間以上の時間を稼がなければならない。守備隊の誰もが、自分は生き残れないことを察していた。

 陸地で将兵が全軍玉砕の覚悟を決めていた頃、青森港に停泊していた<ブルーシンフォニア>のハンガーでは一人の整備員と二人パイロットが話をしていた。

「……これが俺たちの乗る機体か……」

 目の前に悠然と立つ二体の巨人を目の当たりにして、相馬と正太はその巨人の肢体を眺めた。一機は、相馬の乗る<イグナイト>と同じトリコロールに塗り分けられていたが、この機体は青が基調とされている。背中には、森林迷彩の<ヴェスターナッハ>が換装していたフライトユニットに似ているが、こちらの方が小型化され固定されている。機動性を特化された機体のようだ。もう一機は白に統一され、背部にフレームと同じ長さのライフルが装備されている。両腰には拳銃とダガーが装備され、近距離戦にも対応しているようだ。二機を見上げながら、目を輝かせ力説する整備士、エンリア・フォートメリーは二人の方へ顔を向けた。

「以上が概要説明です。一応個別AIに聞くのもよいと思いますが、このマニュアルを見ていただくのが一番かと……」

「この機体の名は?」

 相馬が唐突に聞いた。エンリアはわけも分からないという顔をしていたが、やがてあっと思い出したような顔つきに変わった。

「そうでしたね! すっかり忘れていました。こちらの青い子は<ガレス>。そしてこの白い子は<モンドレッド>と呼ばれています。でも……リジェネレイトでは最初に登場する人物が付けていいという決まりになっています。お二人のお好きに呼んであげてください」

 エンリアは満面の笑みで言った。その姿に正太は酔いしれていたが、相馬に足を踏ん付けられて真剣な表情を作った。

「<ブラッディ・イーグル>……」

「……え?」

 エンリアは思わず聞き返した。自分が思っても見なかった名前だったからだ。

「血に染まった鷲(ブラッディ・イーグル)……それがこいつの名前だ」
そういった後、二人に有無も言わさず機体に乗り込んでいった。エンリアは唖然としていたが、自分が相馬にマニュアルを渡すことを忘れていたことに気づき、正太に顔を向けた。

「……ああ、あいつにマニュアルは要らないよ。感覚で物を言うタイプなのさ……さて、あの変態は放っておいて俺たちは仲睦まじく個人学習でも」

「誰が変態だって?」

 二人が慌てて見上げると、<ブラッディ・イーグル>のコックピットが開いたまま相馬がこっちを見ていた。心なしか目線に殺意を感じる。正太はぎこちない笑みを見せていそいそとコックピットに入っていった。ハッチが閉まるのを確認した後、相馬もコックピットのハッチを閉じた。ある程度聞いた説明の中から反芻してシステムを起動する。光の灯った画面にはリジェネレイトの象徴である<再生旗>が表示された。

「認証確認。パイロット「ソウマ・クサカベ」の生体パターンを登録」

 AI――シェルナー――の電子音が相馬を主にするための手続きを進めている。相馬がその工程を黙って見つめていると通信が入った。回線を開くと、画面に早枝顔が映った。

「どう? 何とか動かせそう? 操縦は簡単なはずだけど……」

「問題は無い。設定が初期段階のままだが、何とかなるだろう」

 相馬は仏頂面のまま早絵の問いに答えた。初見の印象どおり、心配性な性格らしい。相馬がますます毛嫌いするタイプだった。

「やはり今回は出撃しないほうがいいのでは……」

「大丈夫だよお嬢さん」

 突然回線に割り込んできたのは、マニュアル片手に計器を操作している正太だった。

「俺達は職業軍人でパイロットをやってきたんだ。大体の操作はコックピットを見れば想像がつくのさ」

 正太はさも当たり前のように言ってのけた。早枝は、困惑をあらわにした表情で二人を見比べていた。

「分かるもんなの? そうは思えないけれど……」

 相馬は早枝にむける眼光を強めた。

「基本は戦闘機と通じるものがある。ただ、人型兵器故の人間らしいアクションがある分複雑なだけだ」

 早枝は憮然となった。人が親切心で聞いたのに、「ありがとう」一言もないのかと不満顔になる早枝だった。


「前衛部隊より報告。敵フレーム部隊は目算で百以上。市街地より九百メートル前方に展開中……とのことです」

 新造潜水艦<深下>に移された青森防衛隊指揮所では、事細かな情報が送られている。この艦は元々連絡手段が限られる潜水艦同士の、海中戦での連携を高める目的で設計されている。唯一確実とされるレーザー通信も受信箇所が極端に少ないため、三隻以上の情報交換はできない。だが、この艦はレーザーの受信・発進装置がそれぞれ十個ずつ搭載されている。この艦を中軸とすれば、かなりの規模の潜水艦隊が編成できると期待されていた。だが、この国は元々潜水艦を建造してはおらず、全国すべての潜水艦を集めても六隻程度しか存在しない。外国に売りつけることしかできなかった。国家事情によって成功とも失敗とも言える艦だった。

 その中で硬く目を閉じて報告を聞いている圭馬。先ほどまでとはまるで別人のように真剣な表情をしている。<日本の懐刀>の異名は健在だった。

「前衛部隊に伝えろ。敵が市街地に侵入するまで待てと」

「はっ!」

「撤退状況はどうなっている?」

「順調です。全軍の五十八パーセントが北海道に撤退しました」

 圭馬の問いに的確に答える部下たち。彼の元に集った者たちは、文字通り精鋭だった。

「あと四割か……厳しいが持ちこたえねばならないか」

 難しそうに言う圭馬だが、その表情は状況そのものを楽しんでいることは明らかだった。

「閣下。敵の第一陣が市外エリアに侵入します!」

 その言葉を待っていたかのように圭馬は立ち上がった。

「よし。全軍攻撃開始! 我々の意地を連中に見せ付けてやれ!」

 その言葉を合図に、両軍は戦闘を開始した。二千六十八年一月四日、青森防衛戦の幕が上がった。

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