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朗読用の物語のひろばコミュの「小びとの国のケーママ」

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メンバーのk- mamaさん
http://mixi.jp/show_friend.pl?id=454593
のネットラジオ「ちょっと寄り道♪ SEASIDE CAFE」
にあわせて、物語を書いていこうと思いますが、
うまくいきますでしょうか?

コメント(11)

(まえがき)
 ケーママの旅のはじまりです。
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「小びとの国のケーママ」1.冬じたく

 みなさんは、『小びとの国』をご存じですか?
 私は、ひょんな事から、『小びとの国』に行ってきたんですよ。

 ***

 去年の11月のことです。
 スーパーマーケットに行く途中で、私を呼んでいる声が聞こえたんです。
「ケーママ、ケーママ。……どこに行ったの?……どこに行ったの?」
(確かに、私は、ケーママだけど、だれかなあ?)と思って、振り返りました。
 そうしたら、そこに、小びとがいて、見上げていたんです。
 もうびっくりですよ。
 顔は10歳くらい男の子ですが、身長は、30センチくらいなんです。
 そして、その小びとが、いきなりジャンプして、私の右手を取ると、「行くよ!」と言って、地面の中に入っていったんです。
 私も、引っ張られて、地面の中に、入っていきました。
 私は、一瞬、気を失いました。

 ***

 そして、気が付いた時には、そこは、『小びとの国』だったんですよ。
 ……
 ベッドに横たわっている私の目の前には、立派な白い顎髭(あごひげ)をはやした小びとが立っていました。
「おおー、気づきましたか?」
「……え?……あ、はい。……あのー、ここは、どこですか?……あなたは、誰?」
「……そうさなあ。……まあ、私のことは、アー長老と、呼んでくだされ。……そうそう、ここは、『小びとの国』なんじゃよ。……まあ、妖精も、座敷わらしも住んでいるがのー」
「え?……『小びとの国』ですか?……アー長老」
「ここは、『小びとの国』なんじゃ。……あなたには、済まないことじゃったのー、……あのケー君は、最近、母親をなくしてなあ。……可哀想になあ。……みんなは、ケー君の母親をケーママと呼んでいたんじゃ。……それで、ケー君も、自分の母親をケーママと呼んでいてなあ。……」
 私は、またもやびっくり。
 ケーという名前の小びとが実在していたなんて。
「私は、ケー君に勘違いされて、誘拐されたんですか?」
 アー長老が、微笑(ほほえ)んでいます。
「まさか、誘拐なんて。……今、地上に、送り届けよう」
 私は、ホッとしました。
 しかし、同時に、ケー君のことが気になりました。
「あのー、……ケー君は、今、どうしていますか?」
「『冬じたく』をしているんじゃよ」
「え?……『冬じたく』ですか?」
「ああ、そうなんじゃよ。……今回のことで、ケー君は、落ち込んでいてなあー、……ひとり、『聖なる山』に登ったんじゃ。……」
 アー長老は、窓の外にある山を見上げました。
 私も、つられて、その山を見上げたんです。
 (あっ!……美しい!)と思いました。
『聖なる山』は、緩(ゆる)やかな稜線(りょうせん)を持っていて、鮮(あざ)やかで穏(おだ)やかな赤に染(そ)まっていたんです。
「あのー、……『聖なる山』でおこなう『冬じたく』って、どんなことをするんですか?」
「あなたも、行ってみるかい?」
 私は、思わず、「はい」と言って、頷(うなず)いていました。
 私は、地上に帰ることを、すっかり忘れていました。

2005/11/30・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(まえがき)
 この物語では、謎解きはなく、『小びとの国』をケーママが旅する物語です。
 気になる所は、それぞれの方が、あれこれ考えて楽しんでください。
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「小びとの国のケーママ」2.凍る湖

 みなさんは、妖精を見たことがありますか?
 私は、『小びとの国』で、湖の妖精に会ったんですよ。
 今日は、その時のお話です。

 ***

 私は、アー長老と家を出て、ケー君が『冬じたく』をおこなっている『聖なる山』に向かって歩き出しました。
 あ、そうなんです。
 歩いたんです。
 私は、おそるおそるアー長老に尋(たず)ねました。
「あのー、空飛ぶ竜のファルコンは、いないんですか?」
 アー長老は、笑っているんですよ。
「あはは、……残念ながら、いないんじゃなあ」
 私は、諦(あきら)めませんでした。
「では、大きな白い狼のモロは、いないんですか?」
 アー長老は、またもや、「いないんじゃよ」と答えたんです。
 私は、しつこく、アー長老に、あれこれ聞いてみましたが、全部いませんでした。
 トトロも猫バスも、いません。
 魔法使いのほうきも空飛ぶ絨毯(じゅうたん)も、ありません。
 もちろん、竹コプターもきんとうんも、ありません。
 結局、アー長老のうしろを、私は、なくなく歩いたんですよ。

 ***

 しばらく歩いていると、行(ゆ)く手に、『冬』が現れました。
 それも、『真冬(まふゆ)』なんです。
 私は、驚いて、アー長老に尋ねたんです。
「アー長老!……あそこに見えるのは、『真冬』ですよね?」
「うん、そうなんじゃよ。……なぜだか、わからないんだが、……『聖なる湖』だけが、『真冬』になったんじゃよ」
 私は、びっくりしました。
 直径2キロほどの湖の上だけが、もうれつにふぶいていて、湖面は、凍り付いているんですから。
 しかしですよ。
 湖の周りは、まだ『秋』なんです。
 なんだか、変でしょう。
 私は、目をこらして、湖の方を見ていると、そこから、フード付き白い防寒具を着こんだ小びとが、こちらに向かって、近づいてくるんです。
 その小びとは、私たちの目の前に来ると、立ち止まりました。
 アー長老は、その小びとに、親しみを込めて、呼びかけました。
「リーさんかな?」
 その小びとは、フードをうしろに押し下げ、白い防寒具を脱いだんです。
 私は、本当に驚きました。
 なんと、とても可愛らしい妖精が現れたんです。
 私は、息をのみました。
 その妖精が、アー長老に、「はい。リーです」とすずやかに答えて、私の方を向いたんです。
「ケーママさんでしょう。……お会いできて、光栄です」
 ふいに、涙が出てきました。
「あ、あのー……わ、私……ケ、ケーママです」
 私は、すっかり舞い上がってしまいました。
 そんな私を、リーさんは、優しく微笑(ほほえ)んで、見ていたんですよ。

 ***

 リーさんは、アー長老に訴えました。
「『聖なる湖』に閉じこめている『真冬』の封印(ふういん)、……もうすぐ破(やぶ)られます。……私の『力』では、あと10日(とおか)くらいです。……アー長老、急いでください」
 アー長老は、ただ「わかった」とだけ、重々(おもおも)しい声で、答えました。
 そして、私に、「ケーママさん、すまないがのー、今の話で、大事な用件ができたんじゃ。……ケー君の所には、りーさんに連れて行ってもらうといい」と言って、今来た道を戻って行きました。
 私は、あっけにとられて、アー長老を見送りました。
 ……
 リーさんが、ひょいと飛び上がって、私の左肩に、座(すわ)ったんですよ。
 リーさんは、明るく私に話しかけてくれました。
「ケーママさん!しばらく、肩を貸してくださいね」
 私は、両手で、リーさんの両足を軽く掴(つか)んで、「はい」と、頷(うなず)きました。

 ***

 私は、妖精のリーさんを左肩に乗せて、『聖なる山』に向かって歩き始めたんです。
 すると、あちらこちらから小びと現(あらわ)れ、私たちのうしろを、ついて歩くんですよ。
 最終的には、小びとは、7人になっていました。
 それに、嬉(うれ)しそうにスキップしているんです。
 私は、左肩に座っているリーさんに、こっそり尋ねました。
「あのー、……リーさんって、白雪姫だったことがあるんですか?」
 リーさんは、私の質問には答えず、楽しそうに微笑(ほほえ)んでいたんです。

2005/12/7〜12・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(まえがき)
 2005年12月29日で、物語を書き始めて、ちょうど20年が経ちます。
 1985年12月29日、私の頭の中は、1つの物語で、一杯でした。
 この日、映画館で『サンタクロース』を見た時に、その物語が溢れだし、ごく自然に書き始めていました。
 ですから、私にとって、『サンタクロース』は、恩人なんですよ。
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「小びとの国のケーママ」3.クリスマスプレゼント

 みなさんは、サンタクロースを見たことがありますか?
 私は、『小びとの国』に来ていたサンタクロースに会ったんですよ。
 今日は、その時のお話です。

 ***

 私は、妖精のリーさんを左肩に乗せて、『聖なる山』に向かって、歩いていました。
 うしろを振り向くと、7人の小びとが、嬉(うれ)しそうにスキップしながら、ついてきています。
 なんだか、私まで、嬉しくなっていました。
 ……
 しばらくして、リーさんが、私に、話しかけてきたんです。
「ケーママさん。ちょっと、寄り道しませんか?」
「え?……何かあるんですか?」
「サンタクロースさんが、『小びとの国』に、やってきているんですよ」
「えぇー?……サンタクロースさんって、あのサンタクロースですか?」
 リーさんは、「はい」と頷(うなず)きました。

 ***

 私たちは、行(ゆ)く手に現(あらわ)れた、とても大きなテントの中に、入っていきました。
 びっくりです。
 テントの天井(てんじょう)付近には、ピンポン球(だま)くらいの大きさの玉が、たくさん空中に浮かんでいるんです。
 その上、様々な色できらきらと輝いているんです。
 クリスマスツリーの飾りみたいで、とても綺麗なんですよ。
 しばらく見とれていましたが、やっと、私は、目を下の方に、移しました。
 そうしたら、テントの中央に、大きな人がいるんです。
 私より、大きな男性です。
 誰だろうと思っていたら、リーさんが、教えてくれたんです。
「サンタクロースさんですよ」
「え?……赤白の服を着ていないですよ。……あ、そうか。……普段着ですね。……赤白の服って、仕事着ですよね」
 私は、ひとり納得したんです。
 ……
 サンタクロースの周りには、100人以上の小びと達が、座(すわ)って瞑想をしているんです。
 私は、リーさんに尋ねました。
「何をしているんですか?」
「もちろん、世界中の子供たちに、プレゼントをしているんですよ」
「えー?……もしかして、今は、クリスマスイブですか?」
「まさか。……クリスマスイブは、まだ、先ですよ。……あ、そうだ。……直接、サンタクロースさんに、尋ねるといいですよ」
 リーさんは、すずやかな声で、サンタクロースに、声をかけたんです。
「サンタクロースさん。……リーです」
 なんと、サンタクロースは、私たちの所に、やってきてくれたんです。
「やー、リーさん、……元気かい?」
「はい。……こちらが、ケーママさんですよ」
 サンタクロースは、「ほっほほー」と言って、私を優しく抱きしめてくれたんです。
 そして、離れると、
「覚えているよ。……大きくなったねー、ケーママ。……」
 と、言うんですよ。
 その瞬間、私は、胸がキュンとなったんです。
「え?……どういうことなんですか?……クリスマスイブには、来てくれていたんですか?」
「そうさなー……ケーママ。……あれを見てごらん」
 サンタクロースが、天井の方を指(ゆび)さしました。
 そこには、さっき驚いた、様々な色で輝いている玉があります。
「ケーママ、あれはねえ、……『願い玉(ねがいだま)』って言うんだよ。……世界中の子供たちの『願い玉』なんだ。……あれがほしい。これがほしい。……そんな子供たちの願いが、ひとつずつ『願い玉』となって、空中に浮かんでいるんだよ」

 ***

 さらに、サンタクロースは、詳しい話をしてくれました。
「初めの頃は、私ひとりで、トナカイのそりに乗って、子供たちにプレゼントをしていたんがねえ。……次第(しだい)に、私の噂が広まると、ひとりでは、回りきれなくなったんだ。……そんな時に、一組の夫婦が、祈ってくれたんだよ。
『サンタクロースさん、どうか、お願いです。……私たちにも、お手伝いをさせください』ってね。
 これには、嬉しかったなあ。
 だからね、その年から、私は、子供の親や見守っている方々の援助を受けて、プレゼントしていたんだよ。
 ……
 ところがねぇー。
 年と共に、私の存在を信じられない大人(おとな)が増えていったんだ。
 ……
 そこでね。
 私は、方針を変えることにしたんだ。
 ……
 子供の親や見守っている方々の夢の中に、直接、『プレゼントを貰って喜ぶ子供のイメージ』を、プレゼントしているんだ。
 そうなんだ。
 今は、大人に、『私からプレゼントを貰って喜ぶ子供のイメージ』を、プレゼントしているんだよ。
 ……
 しかしねぇー。
 『願い玉』が、増えていくと、私ひとりでは、難(むずか)しくなってきてねえ。
 そこで、『小びとの国』に協力を求めたんだ。
 ……
 だからね。
 今は、私の指導の元、小びと達が、私の仕事を手伝ってくれているんだよ。
 本当に、ありがたいねえ」
 私は、思わず、サンタクロースを見つめました。
「そうだったんですか!……サンタクロースさんは、私の親にも、プレゼントしてくれていたんですね!」
 私は、涙を浮かべて、サンタクロースの胸に、飛び込みました。
 サンタクロースは、また、私を優しく抱きしめてくれたんです。

 ***

 気が付くと、サンタクロースは、テントの中央に戻っていました。
 そして、私たちに、ついてきていた7人の小びと達も、サンタクロースの周りに座って、瞑想をしているんです。
 ……
 私の左肩に座っている妖精のリーさんが、私に話してくれたんです。
「サンタクロースさんは、『今度は、ケーママに、プレゼントしよう』って、言っていましたよ」
 私は、リーさんに、応えました。
「あ、……そうですよね。……今度は、私が、サンタクロースさんのお手伝いをする番ですよね」
 私の心は、とても暖(あたた)かくなっていました。
 リーさんも、微笑(ほほえ)んでいたんですよ。

2005/12/12〜14・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(あとがき)
 もう少し、詳しく説明します。
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 クリスマスプレゼント
---------------------------------
 2005年12月29日で、物語を書き始めて、ちょうど20年が経ちます。

 1985年12月29日、私の頭の中は、1つの物語で、一杯でした。
 その当時、東京澁谷の道玄坂に、会社がありまして、
 コンピュータのシステムエンジニア(通称SE)の仕事を
していました。
 この日は、職場に私ひとり残って、仕事をしていました。

 実は、その時、ひょんな事から、
 プラトンとソクラテスの事が気になっていました。
 そして、最大の疑問は、
「プラトンは、なぜ自分とソクラテスの対話編を書かなかったのだろうか?」
というものでした。
 また、
「初めてふたりが会った時、どんな対話をしたのだろうか?」
というのも気になっていました。

 その日も、仕事が一段落して、ふと気づくと、ふたりの出会いが、頭の中で、展開されていました。
 しかし、私は、作文が苦手で、何かを書くということは、考えられませんでした。
 この夜、会社を出て、道玄坂を降りて、渋谷駅に向かいました。

 途中、映画館で、『サンタクロース』の甲板を見かけました。
 その日の最終の上映が始まる所でした。
 そこで、あまり期待せずに、ひとりで、見ることにしました。
 ところが、最初の10分間に、とても感動したんです。
 気が付いたら、泣いていました。
 その後の展開は、子供向けの映画になっていましたが、
 最後まで、見ることにしました。

 そして、映画館を出る時には、
(優しいおじいちゃんて、本当に、いいな!)
と、心から思っていました。

 私は、会社に戻っていました。
 そして、A4サイズのメモ用紙に、鉛筆で、物語を書いていました。
 ごく自然に、書いていたんです。
 3時間ほどで、書き上げました。
 それが、
「プラトニック・ストーリー」1.プラトンの回心
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=1367782
なんです。
 この日から、物語を書く生活が始まりました。

 ですから、この日、私は、『サンタクロース』から、「物語を書く」というクリスマスプレゼントを受け取ったんですよ。
---------------------------------
(まえがき)
 海辺のコーヒー店での話です。
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「小びとの国のケーママ」4.海辺のコーヒー店

 私は、『小びとの国』の『海辺(うみべ)のコーヒー店(てん)』に行ったんですよ。
 今日は、その時の話です。

 ***

 私の左肩に座(すわ)っている妖精のリーさんが、私に、話しかけてきました。
「ねー、ケーママ。……ちょっと寄り道してみない?」
 この『ちょっと寄り道』という言葉に、私は、とても弱いんです。
「え?……はい。……どこに行くんですか?」
「その道を右に曲がると、海辺(うみべ)に出るんだ。……面白い物があるのよ」
「え?……何かなあ?」
「ふふ。……面白いよー」
 私は、興味津々(しんしん)に、リーさんの提案にのりました。

 ***

 なんと、海辺に向かう道を歩いて行くと、だんだんと熱くなっていったんです。
「リーさん、暑くなってきましたよ」
「そうなんですよ。……海辺は、『夏』ですから。……それも、『常夏(とこなつ)』なんですよ」
「えーっ!……そこは、『夏』なんですか?」
「はい!」
 私とリーさんは、上着(うわぎ)を脱(ぬ)ぎました。

 ***

 しばらく、歩いていくと、私たちは、海辺に着きました。
「わ〜〜!きれい!……」
「でしょ?」
「うん、とてもきれい」
 海は、ライトブルーで、空のスカイブルーと解け合っているみたいです。
 波も、緩やかで、気持ちがいいんです。
 それに、遠くには、虹が出ています。
「あれ?……あそこに虹が、あるよ」
「うふふ……不思議でしょ?……いつも、あの場所に、虹が出ているのよ。……あそこは、いつも霧雨(きりさめ)が降っているの。……だから、いつも虹が出ているのよ」
「へーっ!……そうなんだ」
 左に目を向けると、なんと、1階建ての円形の建物が見えてきたんです。
「ケーママ、あれって、『海辺のコーヒー店(てん)』なんだよ」
「え?……コーヒー店?」
「そう。……『海辺のコーヒー店』っていうお店(みせ)の名前なんですよ。……面白いでしょ?」
 私は、密(ひそ)かに、(どうせなら、『シーサイドカフェ』っていう名前にすればいいのに)と思いましたが、リーさんには、黙っていました。

 ***

 私たちは、『海辺のコーヒー店』に入っていきました。
 なんと、そこは、直径5メートルほどのドーナツ型の建物なんです。
 そして、中央には池があり、どの場所からも、見ることができるんですよ。
 小びとの店主が、リーさんに声をかけます。
「やー、……リーさん。……夏服、用意できているよ」
 リーさんは、とても素敵な笑顔で、答えました。
「ありがとう、テーさん。……この方が、ケーママさんです」
 私は、慌てて、答えました。
「あ、あのー、……ケーママと言います。……テーさん、よろしくお願いします」
 私は、ペコリと頭を下げました。
 それを見て、テーさんは、面白そうに、笑っています。
「いや、ごめん、……大きいねえ。……でも大丈夫。……ケーママさんの夏服も用意しましたよ」

 ***

 私とリーさんは、夏服に着替えた後、池に向かって、並んで座って、コーヒーを飲んでいました。
 50人ほどの小びとも、池を取り囲んで、コーヒーを飲んでいました。

 テーさんは、重々しく宣言します。
「今から、出産を始めます」
 私は、「え?……えーっ!」と叫びました。
「リーさん、何が始まるんですか?」
 リーさんが、厳(おごそ)かに答えます。
「だから、出産です」

 私は、その時の感動を、今でも忘れることができません。

 池の中央に、直径50センチほどの円形の船が、現れます。
 その円形の船には、一組の小びと夫婦が、乗っています。
 そして、池に半分ほど、徐々に沈んでいきます。
 リーさんが、応えます。
「今日は、あの方の出産なんです」

 円形の船の周りに、30センチほどイルカが、10頭現れます。
「リーさん、イルカですよね?」
「はい」
 その10頭のイルカが、円形の船の周りを、飛び回っています。
 それも、シンクロしているんです。
 あちこちから、拍手が起きます。
 私も、我を忘れて、拍手しました。
 素晴らしいシンクロ演技でした。

 しばらくすると、今度は、30センチほどのイルカが、1頭現れました。
 そして、池に半分ほど沈んだ円形の船に中に、入っていきました。
 リーさんが、私に、そっと囁(ささや)きました。
「ケーママさん。……助産婦イルカのユーさんです」
「助産婦イルカ?……えーっ!……イルカが、助産婦さん?」
「そうなんです。……『小びとの国』では、イルカが、助産婦さんなんですよ。
 そしてね、……夫は、必ず我が子の出産に立ち会い、我が子を取り上げるんですよ。……むしろ、夫は、我が子を取り上げる事ができるからこそ、その子の親になれるんです。……逆に、我が子を取り上げる事ができない夫は、その子の親になれないんです」
 私は、深く頷(うなず)きました。
 リーさんは、話を続けます。
「でも、安心してください。……助産婦イルカのユーさんがついています。……本当に見事なんですよ。
 あ、言い忘れましたが、この池は、海と海底洞窟で繋がっているので、海水なんです。
 だから、水中出産、……あ、海中出産になるんですよ」

 夜になり、満月が出ています。
 池も、ライトアップされています。

 赤ちゃんのなき声が聞こえてきました。
 その瞬間、あちらこちから歓声があがりました。
 私は、大声で、叫びました。
「おめでとう!」
 リーさんも、大声で、叫んでいました。
「赤ちゃん、誕生!おめでとう!……お母さん、おめでとう!……お父さん、おめでとう!」
 
 円形の船に中から、5センチほどの赤ちゃん小びとを抱えて、小びとのお父さんが、涙を浮かべて、現れました。
 そして、叫んだんです。
「みなさん、ありがとう!……無事に、女の子が、生まれました!」

 ***

 その夜は、夜明けまで、誕生祝福のお祭りです。
 コーヒー店にもかかわらず、魚介類が入った大きな鍋が用意されて、みんなでつっつきながら、池で展開されるイルカのシンクロ演技を見たり、お酒に酔った小びと達のダンスを見たりと、……とても楽しんじゃいました。
 リーさんも、ぽーっと顔をピンクに染(そ)めて、とても色気があったんですよ。

 ***

 あ、そうそう。
 私は、こんな体験から、このネットラジオを、『ちょっと寄り道♪ Seaside Cafe』と名付けたんですよ。

2006/1/6〜7・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(まえがき)
『竜宮城』での話です。
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「小びとの国のケーママ」5.マリンスノー

 私は、『小びとの国』から、『竜宮城(りゅうぐうじょう)』に行ったんですよ。
 今日は、その時の話です。

 ***

 朝、私と妖精のリーさんは、『海辺のコーヒー店』のそばの海を眺めていました。
 もちろん、リーさんは、私の左肩に座(すわ)っています。
 海は、朝日に輝いていて、遠くには、虹が見えています。
 ……
 しばらくすると、海の中から、大きな亀が、現(あらわ)れてきました。
 私は、思わず、りーさんに、尋ねました。
「あっ!あそこ!……ウミガメですよね?」
 大きいのです。
 全長2メートルくらいあります。
 リーさんが、教えてくれました。
「はい。……ウミガメです。……『浦島太郎』さんが、助けた亀なんですよ」
「え?……『浦島太郎』さんって?……『竜宮城』に行った『浦島太郎』ですか?」
「うふふ。……そうですよ。……『亀は万年』って、言うでしょう?」
 この言葉に、私は、唖然(あぜん)としました。
「私たちを迎えに来てくれたんですね。……では、行きましょうか?」
「あのー、……どこにですか?」
「うふふ。……もちろん、『竜宮城』に、ですよ」
 私は、またもやびっくりしました。

 ***

 しかし、私は、『竜宮城』に、惹(ひ)かれたんです。
 そこで、私は、妖精のリーさんを私の左肩に乗せたまま、ウミガメに、またがりました。
 ウミガメは、私たちを乗せたまま、海の中に入っていきました。
 なんと不思議な事に、私たちは、空気ボールに包(つつ)まれて、呼吸ができるのです。
 ……
 どんどん水深が、深くなっていきます。
 ……
 遠くに、灯(あか)りが、見えます。
 私は、リーさんに、尋ねました。
「『竜宮城』ですか?」
「はい。……でも、かなり暗いですね」
「え?……暗いんですか?」
「えー。……昔は、もっと明るかったんですよ」

 ***

 ウミガメは、『竜宮城』に、入っていきました。
『竜宮城』の中は、やはり空気があります。
 ……
 私は、ウミガメから、降りました。
 そこに、天女(てんにょ)が、現れたんです。
 私と同じくらいの身長です。
 私は、思い切って、尋ねました。
「あのー、ひょっとして、乙姫(おとひめ)様ですか?」
 その天女が、答えてくれました。
「はい。……乙姫です。……初めまして、……ケーママさん」
「え?……私を知っているんですか?」
「はい。……『小びとの国』の有名人ですから」
 私は、思わず、リーさんを見つめました。
 でも、リーさんは、いつものように、楽しそうに微笑(ほほえ)んでいるだけです。

 ***

『竜宮城』は、とても静かです。
 窓の外には、雪が降っています。
「えーっ!……雪?」
 乙姫様が、答えます。
「いいえ、……マリンスノーです。……雪に似ていますが、雪ではありません」
 乙姫様が、話を続けます。
「『竜宮城』は、竜神(りゅうじん)様の住(す)まいです。
 それゆえ、『竜宮城』なんです。
 ……
 ところが、海洋汚染が進んで、……ついには、この深海までもが、汚染されてしまって、……去年、竜神(りゅうじん)様は、亡くなりました。
 そうなんです。
『竜宮城』は、主(あるじ)を失い、徐々に、機能が止まってきています。
 そのため、たくさんいた踊り子たちも、ほかの『城(しろ)』に移(うつ)らせました。
 今、この『竜宮城』にいるのは、私だけです。
 そして、今日(きょう)、『竜宮城』は、すべての機能が停止します」
 私は、びっくりしました。
「え?……では?……」
 リーさんが、乙姫様に、心を込めて訴えます。
「私たちと一緒に、地上にいきましょう」
 乙姫様が、微(かす)かに微笑(ほほえ)んでいます。
「リーさん、ありがとうございます。……でも、私は、ここに残ります」
 私も、乙姫様に、訴えました。
「駄目です。……そんなの駄目です!」
「はい、……ケーママさん。
 ……
 でも、
 私は、ここで生まれ、ここで育ち、竜神様の妻になりました。……竜神様が亡くなった今、もう思い残すことはないのです」

 ***

 私は、妖精のリーさんを私の左肩に乗せたまま、ウミガメに、またがりました。
 乙姫様が、微(かす)かに微笑(ほほえ)みながら、手を振っています。
「さようなら、……リーさん、ケーママさん」
 リーさんが、うしろを振り向き、手を振っています。
「さようなら、乙姫様」
 そして、私も、うしろを振り向き、手を大きく振って、大声で叫びました。
「さようなら〜!……乙姫様〜!」
 ……
 しばらくすると、『竜宮城』の灯りが消えていきました。
 それにともなって、マリンスノーも消えていきました。

 ***

 そうだ。
 私の部屋には、乙姫様からプレゼントされた『玉手箱(たまてばこ)』が、あるんですよ。
 しかし、乙姫様には、とても申し訳ないのですが、未(いま)だに開けていません。

2006/1/16・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(まえがき)
 『座敷わらし』と交流した時の話です。
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「小びとの国のケーママ」6.幸運を運ぶ少年

 みなさんは、『座敷わらし』を見たことがありますか?
 私は、『小びとの国』で、『座敷わらし』に会ったんですよ。
 今日は、その時の話です。

 ***

 私の左肩に座(すわ)っている妖精のリーさんが、私に、話しかけてきました。
「ねー、ケーママ。……ちょっと寄り道してみない?」
 私は、リーさんの言葉を待っていたんです。
「はい!……もちろん、どこへでも、行きますよ」
 リーさんは、微笑(ほほ)んでいます。

 ***

 私は、妖精のリーさんを私の左肩に乗せたまま、左に曲がると、そこに、大きな家が現れました。小びとの家ではなく、人が住むような家なんです。
 私は、リーさんに尋ねました。
「誰の家なんですか?」
 リーさんが、答えました。
「普段は、誰も住んでいませんが、……今は、ひとりの少年が、住んでいます。……『座敷わらし』になるための準備をしているんです」
「えっ?……『座敷わらし』ですか?」
「はい、そうです。……ですから、この家は、『座敷わらし』の館(やかた)と言われているんです」
 ……
 玄関の前で、リーさんが、大きな声で叫びます。
「シュー君、いる?」
 家の中から、声が聞こえます。
「は〜い」
 玄関のガラス戸が横に開(あ)いて、少年が、顔を出します。
 小びとではなく、人間の少年です。
 身長は、100センチほどはありそうです。
 シュー君は、リーさんに、話しかけます。
「あ、良かった。……今日にも、リーさんに、相談に行こうと思っていたんです」
 リーさんが、答えます。
「え?……何かありましたか?」
「はい。……ちょっと、心配なことがあって。……
 あ、こんにちは、僕、シューです」
 シュー君は、私に、礼儀正しく、お辞儀をしています。
 私は、少し慌てて、
「初めまして、ケーママです。……よろしくね」
 シュー君は、私を見て、少し、はにかんでいました。

 ***

 私とリーさんは、8畳の座敷で、2つの座布団に並んで正座して、シュー君の話を聞くことになりました。
 シュー君も、私たちの目の前に、正座しています。
 ……
 シュー君は、話し始めました。
「僕は、……生まれた時から、病弱で、入退院を繰り返していましたが、……1年前に、死んだんです。……僕が、10歳の時でした」
 私は、胸がつまりました。
「僕は、……お父さんやお母さんに、……とても心配をかけました。……そうじゃないんです。……とても愛されていたんです。……でも、僕は、お父さんやお母さんに、恩返しできないまま、……死んだんです。……」
 リーさんが、シュー君に、尋ねました。
「では、『座敷わらし』になる決心をしたんですか?」
「はい。
 ……昨日(きのう)、お母さんが、身ごもったんです。……僕の弟か妹です。……」
「そうでしたか」
「でも、お母さんは、まだ、そのことに、気付いていません。……それで、明日(あした)、スキーに行くと言っているんです」
「お母さんを、止(と)めたいんですね」
「はい。……お母さんが、妊娠している今なら、僕に、気付きますよね」
「そうです。……今なら、お母さんは、シュー君に気付きますよ」
 私は、ふたりの話に割り込みました。
「あのー、妊娠していると、気付くんですか?」
 リーさんが、答えてくれました。
「はい。……妊娠している女性は、感性が、とても敏感になっているんですよ。……ですから、シュー君に気付きますよ」
「そうなんですか!」
 リーさんは、シュー君に向かって、話を続けました。
「シュー君は、『座敷わらし』になって、お父さんとお母さんのそばにいたいんですね」
「はい。……お父さんとお母さんに、恩返しをしたいんです」
「分かりました」

 ***

 この夜、シュー君は、お父さんとお母さんが住む家に、旅立っていきました。
 シュー君は、『座敷わらし』になって、ずーっと、その家の幸せを願っていくんでしょうね。

2006/1/21,22・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(まえがき)
 節分の風習には、「鬼は内」と言う所もあるようですね。
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「小びとの国のケーママ」7.鬼は内

 私は、『小びとの国』の『鏡(かがみ)の村』で、とても大切なことを学んだんですよ。
 今日は、その時の話です。

 ***

 『座敷わらし』の館(やかた)で、妖精のリーさんが、私に、話しかけてきました。
「ねー、ケーママ。……この先に、『鏡の村』があるんですよ」
 私は、すぐに、応えました。
「行きましょうよ」
 リーさんが、微笑(ほほえ)んでいます。
「うふふ、……でも、すごーく、変わった村なんですよ」
「あのー、お言葉ですが、……『小びとの国』では、変わった所しか、見たことがありませんが。……」
「それもそうですが、……別名『鬼の村』とも言われているんですよ」
「え?……ひょっとして、『鏡の村』には、鬼がいるんですか?」
「まさか!……うーん、うまく説明できません。……とりあえず、行ってみますか?」
「はい!」

 ***

 私は、妖精のリーさんを私の左肩に乗せたまま、『鏡の村』に向かいました。
 ……
 しばらく歩くと、私たちは、『鏡の村』の入り口につきました。
 ……
 リーさんが、私に、話しかけてきました。
「……ここから先は、私の指示に従ってください」
 私は、少し緊張して、「はい」と答えました。
 ……
 私たちの目の前に、小びとの女性がふたり現れました。
 リーさんが、紹介してくれました。
「ケーママ。……ラーさんとムーさんの姉妹です」
「こんにちは、ケーママです」
 ラーさんが、応えました。
「私は、リーさんの『鏡』のラーです」
 私は、なんだかよく分からず、きょとんとしていました。
 ムーさんが、応えました。
「私は、ケーママさんの『鏡』のムーです」
 私は、リーさんに尋ねました。
「『鏡』って?」
 リーさんが、私の質問には答えず、
「まずは、『聖なる家』に行きましょう」
と言いました。
 私は、「はい」と答えました。

 ***

 私たち4人は、『聖なる家』に中にいます。
 教会に似ていて、かなり大きな家です。
 ……
 リーさんは、私の左肩から降りていて、私と並んで立っています。
 リーさんの前には、ラーさんがいて、私の目の前には、ムーさんがいます。
 ……
 リーさんの目の前に立つラーさんが、目を閉じました。
 ……
 やがて、ラーさんの頭から、1本の角(つの)が伸びてきました。
 それと同時に、顔つきが、リーさんに似てきまんです。
 私は、びっくりしましたが、じっと見ていました。
 角が、5ミリほどの大きさになった所で、ラーさんが、目を開けました。
 リーさんが、私に、ラーさんを改めて紹介しました。
「ケーママ。こちらは、鬼っ子(おにっこ)のリーです」
「えっ?」
 ラーさんが、私に向かって、語り始めました。
「あはは、……だから、リーさんの『鬼』の部分が、私に移ったんだよ。……だから、ここは、『鏡の村』なんだよ」
 なんだか、とても荒っぽい鬼っ子のリーさんです。
 私は、リーさんに、尋ねました。
「本当に、リーさんの『鬼』の部分が、ラーさんに、移っているんですか?」
 ラーさんが、応えます。
「ようやく、分かったようだね」
 リーさんが、応えます。
「ケーママ。……私たちは、『出かける』前に、『身だしなみ』を整(ととの)えますね。……それと、同じなんですよ。……『小びとの国』では、『鏡の村』で、『心の身だしなみ』を整えているんですよ」
 私は、びっくりしました。
 さらに、リーさんが、続けます。
「今度は、ケーママの番です」
「えーっ!……怖いですよー!」
 リーさんが、微笑んでいます。
「では、ムーさん、お願いします」
 ムーさんが、目を閉じました。
 ……
 やがて、ムーさんは、どんどん大きくなり、私の身長になったんです。
 そして、ムーさんの頭から、1本の角(つの)が伸びてきました。
 なんと、どんどん大きくなっていきます。
 それにともなって、私は、どんどん恥ずかしくなっていきました。
 それと同時に、顔つきが、私に似てきました。
 角が、10センチほどの大きさになった所で、ムーさんが、目を開けました。
 私は、喉(のど)を振り絞(しぼ)って、声をだしました。
「あのー、ケーママです」
 ムーさんが、声を出して笑っています。
「あー、分かっているさ。……私は、あんただからね。……おっと、私は、鬼っ子のケーママだよ。
 ……
 リーさん、……私を、『ケーママさん』って、『さん』づけで、呼んでほしいんだけど。……それに、時々、右肩に座(すわ)ってくれないかなあ。……いつもいつも、左肩では、痛いんですよ〜」
 リーさんが、苦笑しています。
 私は、目を閉じて、うつむいていました。

 ***

 あまりに恥ずかしくて、この時の話は、これ以上、みなさんに、お聞かせできません。
 でも、この時の体験で、とても大切なことを学んだんですよ。
 ……
 今まで、私は、『心の身だしなみ』を整えずに、人に会っていたんですね。
 『鬼』は、私の心の中に、いるんですね。
 いやはや。

2006/1/27,28・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(まえがき)
 そろそろバレンタイン・デーですね。
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「小びとの国のケーママ」8.夢の中の結婚式

 私は、『小びとの国』の教会で、結婚式に参列したんですよ。
 今日は、その時の話です。

 ***

 『聖なる家』で、私は、あまりの恥ずかしさに、落ち込んでいました。
 そんな私に、妖精のリーさんが、話しかけてきました。
「ねー、ケーママさん。……この先に、教会があるんですよ」
 私は、『さん』づけで呼ばれて、思わずリーさんを見つめました。
 リーさんは、いつものように、微笑(ほほえ)んでいます。
 私は、ホッとして、リーさんに尋ねました。
「あのー、教会って、キリスト教の教会ですか?」
「そうです。……今、そこに、バレンタイン司祭(しさい)が、降りてきています」
「バレンタイン司祭って、あっ!……バレンタイン・デーのバレンタイン様ですか?」 
「はい、そのお方(かた)です」

 ***

 私は、、妖精のリーさんを私の右肩に乗せたまま、教会に向かいました。
 そうなんですよ。
 今は、リーさんは、私の『右肩』に座っているんです。
 ……
 教会は、大きな建物でした。
 このあたりは、いつも初夏なんですよ。
 そして、鮮(あざ)やかな緑の木々(きぎ)と様々な色の花々(はなばな)に、爽(さわ)やかな風が、吹(ふ)いていました。
 ……
 私たちは、教会の中に入っていきました。
 30人ほどの小びとが、参列席に座っています。
 ひとりの司祭が、祭壇の前に立っています。
 リーさんが、私に、耳打ちしました。
「バレンタイン司祭です」
 私は、頷(うなず)きました。
 ……
 一組の男女が、バレンタイン司祭の前にいます。
 花嫁(はなよめ)は、涙を流しています。
 花婿(はなむこ)は、花嫁の涙をハンカチでそっと吸い取っています。
 ……
 私には、リーさんに、呟(つぶや)きました。
「あ、……これって、ジューンブライドですよね」
 ……
 さらに、リーさんが、私に、小声で教えてくれました。
「あのふたりは、今、夢の中にいます」
 私は、応えました。
「夢ですか?……では、眠っているのですね」
「はい。
 ……
 ふたりは、とても愛し合っています。
 でも、戦争が、ふたりを引き裂(さ)きました。
 結婚できなくなったんです。
 ふたりは、1年間ほど、嘆(なげ)き悲しみました。
 その時、バレンタイン司祭を思い出したんです。
 ふたりは、バレンタイン司祭に、祈りました。
 そして、ふたりは、それぞれが、『バレンタイン様、どうか私たちを結婚させてください』というカードを書いて、それを枕の下に入れて、眠ったんです。
 ……
 ふたりの祈りは、バレンタイン司祭に届きました。
 ……
 バレンタイン司祭は、夢の中で、結婚式を挙げることにしたんです」
 私は、リーさんに尋ねました。
「『夢の中の結婚式』では、正式の結婚にはならない…のではありませんか?」
「はい、もちろん、正式な結婚ではありません。
 でも、ケーママさんは、ご存じありませんか?
 ……
 『夢の中の結婚式』ができたふたりは、現実にも結婚ができるという『言い伝え』が、あるんですよ」
「えーっ?……そんな『言い伝え』があるんですか?」
「はい。……でも、日本では、違った風習になっていますが。……」
 私は、『女性が、男性に、チョコレートをプレゼントする』という日本の風習を思い出していました。
 リーさんは、続けました。
「バレンタイン司祭は、時の皇帝に逆(さか)らって、こっそり、恋人たちを結婚させていました。
 それが、皇帝の逆鱗(げきりん)に触れ、投獄されて、2月14日に処刑されたんです。
 ……
 しかし、バレンタイン司祭は、諦(あきら)めませんでした!
 ……
 この日から、『小びとの国』で、『夢の中の結婚式』をおこなうようになったんです。
 ……
 だから、バレンタイン司祭は、……心から愛し合っているのに、引き裂(さ)かれて、……結婚できずにいる恋人たちの『味方』なんです」
 私は、涙を浮かべて、呟(つぶや)きました。
「バレンタイン司祭って、……なんて素晴らしい方(かた)なんでしょう!」
 リーさんは、微笑(ほほえ)みながら、「はい」と応えました。

 ***

 結婚式は、ずーっと、とても暖かな幸せに包まれていました。
 そして、結婚式が終わると、結婚したふたりは、消えていきました。
 私は、(このふたりが、困難を乗り越えて、現実にも結婚できますように!)と、心から祈りました。
 ……
 『夢の中の結婚式』が、すべて終わり、バレンタイン司祭が、消える番です。
 ……
 消える直前、バレンタイン司祭が、私に向かって、微笑(ほほえ)んでくれたんですよ。
 その瞬間、私の心は、とても暖かな幸せに包まれました。

2006/1/29〜31・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(あとがき)
 あ、この物語は、すべてフィクションですよ。
 だから、『夢の中の結婚式』ができたふたりは、現実にも結婚ができるという『言い伝え』も、フィクションです。
 念のために!
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(まえがき)
 『ひな祭り』の風習の中に、『ひな流し』というのがあるんですねぇ。
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「小びとの国のケーママ」9.流れゆく

 私は、『小びとの国』の『ひな祭り』に参加したんですよ。
 今日は、その時の話です。

 ***

 妖精のリーさんが、私に、話しかけてきました。
「ケーママさん、……『ひな祭り』が、あるんですよ」
 私は、応えました。
「行きます!……ぜひ、連れて行ってください」
 リーさんは、くすっと笑っています。
「でも、いいんですか?……そこは、『鏡の村』なんですよ」
 一瞬(いっしゅん)、私は、動揺(どうよう)しました。
 リーさんが、話を続けます。
「実は、そこに、ケー君が、来ているんですよ」
「え?…えーっ!……ケー君って、私を、『小びとの国』に連れてきたケー君ですか?」
「そうです、そのケー君です。……今年は、ケー君が、『お内裏様(おだいりさま)』になるんですよ」
「そうなんですか!……とても会いたいですね!」
「そして、……私は、『お雛様(おひなさま)』になるんです」
「リーさんが、『お雛様』?……見てみたいです!」
 私は、楽しくなっていました。

 ***

 私は、妖精のリーさんを私の左肩に乗せたまま、『鏡の村』に戻りました。
 あ、最近、リーさんは、私の『左肩』や『右肩』に、自由に座っていて、今は、私の『左肩』に座っています。
 ……
 私たちは、『鏡の村』の中央にある広場に着きました。
 広場を取り囲むように、桃の木が植えられていて、文字通り桃色の花を咲かしています。
 広場の端(はし)にある舞台の上に、2メートルほどの雛壇(ひなだん)が、設置されています。
 数えてみると、5段あります。
 そこに、小びと達が、平安調らしい着物を着て、座っています。
 最上段に、ケー君が、『お内裏様』になって、座っているんですよ。
 それが、とても凛々(りり)しいんです。
 ……
 その横には、リーさんが、『お雛様』になって、座っているんです。
 なんて淑(しと)やかなんでしょう。
 ……
 三人官女(かんじょ)の中に、ラーさんとムーさんの姉妹を見つけました。
 広場には、200人ほどの小びと達が、座っていて、雛壇を暖かく見守ってます。
 アー長老がいます。
 なんと、雛壇の真下に、アー長老が立っていたんです!
 アー長老は、私を見つけると、にこにこしてくれたんですよ。

 ***

 アー長老の挨拶から、『小びとの国』の『ひな祭り』が、始まりました。
 雛壇に座っている小びと達が、雅(みやび)やかな演奏を始めたんです。
 なんて心に響く演奏なんでしょう。
 ……
 演奏が終わると、『お内裏様』になっているケー君と、『お雛様』になっているリーさんが、舞台から、降りてきました。
 ……
 ケー君が、私のそばまで駆け寄って来て、謝(あやま)ってきたんです。
「ごめんなさい、ケーママさん。……ずーっと、謝りたくて。……でも、いろいろと用事ができて。……本当に、ごめんなさい」
 私は、ケー君に応えました。
「うううん、もういいのよ。……私はね、『小びとの国』をあちこち歩き回って、楽しんでいるんですから」
 ケー君が、驚いています。
 リーさんが、微笑(ほほえ)みながら、割り込んできました。
「ケーママさんは、『小びとの国』が好きみたいですよ」
 これを聴いて、ケー君は、ホッとしていました。

 ***

『鏡の村』の中央にある広場の真横に、幅4メートルほどの小川が、流れています。
 そこに、直径1メートルほどのお椀(わん)型の小舟と全長3メートルほどの小舟が、浮かんでいます。
 リーさんが、お椀型の小舟を見ながら、私に、話をしてくれました。
「『鏡の村』に、『小びとの国』で生まれた『厄(やく)』が、どんどん溜(た)まっていきます」
 私は、リーさんの話に、割り込みました。
「あのう……『厄』って、『厄落とし(やくおとし)』の『厄』のことですか?」
「そうです。
 ……
 だから、1年に1回、『鏡の村』に溜まった『厄』を癒(いや)すために、……いわゆる『厄落とし』のために、……『ひな祭り』をしているんです。
 そして、『ひな祭り』の最後に、『お内裏様』と『お雛様』が、すべての『厄』を背負(せお)って、川を流れるんです。
 ……
 ケーママさん、私たちと一緒に、川を流れませんか?」
 なにやら含(ふく)みがある話に、私は、興味を持ちました。
 リーさんの話だから、きっと貴重な体験ができるのでしょう。
 私は、リーさんに、答えました。
「はい。……ご一緒します」
 リーさんが、微笑(ほほえ)んでいます。
 ケー君は、はにかんでいます。

 ***

 アー長老の合図で、小川に、15センチほどの丸い桃が、流されました。
 私は、リーさんに、小声で尋ねました。
「えーっ?……なんだか、『桃太郎』みたいですね」
 リーさんが、微笑んでいます。
「うふふ…そうなんです。……同じなんですよ。……桃には、『厄落とし』の『力』があるんです。……だから、『ひな祭り』は、『桃の節句』におこなう『厄落とし』の儀式ですし、……『桃太郎』は、『厄落とし』の物語なんですよ。
 ほら、……『鏡の村』は、別名『鬼の村』と言われているでしょう。
 『鬼』って、『厄』のことでなんですよ」
 私は、リーさんの説明に感心して、頷(うなず)きました。
 ……
 『お内裏様』になっているケー君と『お雛様』になっているリーさんは、直径1メートルほどのお椀型の小舟に乗り込みました。
 私は、それを見て、
(ケー君が、ひとりで乗っているなら、『一寸法師)』だわ)
と思いましたが、口には出しませんでした。
 そして、私は、全長3メートルほどの小舟に乗り込みました。
 ……
 お椀と小舟が、流れ始めます。
 小びと達が、口々に、「お願いします!」と叫んでいました。

 ***

 ゆっくり流れゆく桃を先頭に、お椀と小舟が、一列になって、流れてゆきます。

2006/2/11,14,17・志村貴之
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この物語の無断転載は禁止ですので、
よろしくお願いします。
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(まえがき)
 『厄落とし(やくおとし)』の儀式とは、本来どんなものなんでしょうか。
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「小びとの国のケーママ」10.再生

 私は、『小びとの国』で、『再生(さいせい)』つまり『生まれ直し』を体験しました。
 今日は、その時の話です。

 ***

 ゆっくり流れゆく桃を先頭に、お椀と小舟が、一列になって、流れています。
 ……
 直径1メートルほどのお椀(わん)型の小舟には、『お内裏様』になっているケー君と『お雛様』になっている妖精のリーさんが乗っています。
 全長3メートルほどの小舟には、私が乗っています。
 ……
 しばらくすると、川の支流が、洞窟の中に流れていきます。
 それにともなって、桃が流れていきます。
 私は、リーさんに叫びました。
「リーさん!……このまま、洞窟の中に入っていくんですか?」
 リーさんが、振り向き、答えます。
「はい。……桃に付いていきます」
 ……
 お椀と小舟が、洞窟の中に、流れていきます。
 とても暗い。
 私は、不安になってきました。
 ……
 リーさんが、私に声をかけてきました。
「ケーママさん。……目を閉じてください」
「えっ?」
「私を信じて!」
 私は、目を閉じました。
「あぁっー!……見えます!」
 リーさんが、応えます。
「そうなんですよ。……この洞窟の中では、コウモリと同じになるんです。……音で、物を見ているんです。……色はありませんが、物の形がわかるんですよ」
 その通りでした。
 桃も、ケー君もリーさんも、くっきり見えるんです。
 ……
「『音』で、物を見るなんて!」
 私は、とても感動していました。

 ***

 やがて、桃が、小さな池に着きました。
 池のそばに、半円球のドームがあります。
 直径10メートルくらいです。
 中央に、直径3メートル、高さ10センチほどの円形の台座があります。
 私は、この場所に、暖かいもの感じていました。
 それに、なんだか懐かしいんです。
 ……
 リーさんが、私に、話してくれました。
「ここは、『聖なる胎(はら)』と呼ばれています。
 この場所で、『厄落とし(やくおとし)』をおこなうんです」

 ***

 まず、お雛様姿のリーさんが、中央の台座の上で、仰向(あおむ)けになります。
 ……
 次第に、リーさんが、嗚咽(おえつ)をだしながら、涙を流し始めます。
 ……
 ピーク時には、大声で泣いています。
 横に向きを変えて、両手で、両足を抱(かか)えています。
 ……
 次第に泣き終えます。
 リーさんは、30センチほどの身長しかありませんから、まるで、生まれたての赤ちゃんのようです。
 ……
 リーさんが、上半身(じょうはんしん)起きあがると、私とケー君に、話を始めました。
「いろいろな方の想いが、私の中で、ふくれあがってきました。
 ……
 その想いで、大声で泣いていたんです。
 ……
 ここ『聖なる胎(はら)』は、そんな私を、優しく包んでくれました。
 悲しい想いも、苦しい想いも、罪の意識も、すべて優しく包んでくれたんです。
 ……
 ああ、なんという優しさなんでしょう!
 ……
 ここで、私は、もう一度胎児に戻ったんです」

 ***

 リーさんの要望で、次は、私の番でした。
 私は、中央の台座の上で、仰向(あおむ)けになりました。
 ……
 『聖なる胎(はら)』が、私を優しく包んでくれました。
 もうそれだけで、私は、泣き始めました。
 ……
 気が付くと、大声で泣いていました。
 その時、私の心の奥に閉じこめていた想いをはき出していたんです。
 そして、私も胎児に戻りました。
 ……
 その時です。
 私の身体(からだ)に、『ケー君のお母さん』の意識が降りてきたんです。
『ケー君のお母さん』が、私の意識に話しかけてきました。
(ケーママさんに、お願いがあります。
 しばらく、私に、身体(からだ)を貸してください)
 私は、何の抵抗もなく、(はい)と答えていました。
 ……
 私の身体を借りた『ケー君のお母さん』が、上半身(じょうはんしん)起きあがると、ケー君に語りかけました。
「ケー君!……ママですよ。……元気にしていましたか?」
 ケー君が、台座に上がってきて、私の胸に飛び込んできました。
「ママ、……寂(さみ)しかったよー」
 ケー君は、大声で泣いていました。
 私の身体を借りている『ケー君のお母さん』は、ケー君を優しく抱きしめています。
 ……
 ようやく、ケー君は泣きやみ、私から離れていきました。
 ケー君の顔も、生まれたての赤ちゃんのように、とってもすっきりしていました。
 ……
 『ケー君のお母さん』が、私の意識に話しかけてきました。
(ケーママさん!……本当にありがとうございました)と言って、私の身体から、離れていきました。

 ***

 私も妖精のリーさんも小びとのケー君も、『聖なる胎(はら)』の優しさに包まれて、胎児意識に戻ったんです。

2006/3/3,5・志村貴之
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(まえがき)
 一応の最終回です。
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「小びとの国のケーママ」11.帰還

 『生まれ直し』をした後、私は、『小びとの国』を離れて、元の世界に戻りました。
 今日は、その時の話です。

 ***

『聖なる胎(はら)』は、完全な暗闇の中にありました。
 でも、その中で、私は、目を閉じて、『音』で、物を見ていました。
 ……
 私も妖精のリーさんも小びとのケー君も、『聖なる胎(はら)』の優しさに包まれて、胎児意識に戻ったんです。
 ……
 今、着物を脱いで、リーさんは、おしゃれなドレスに、ケー君は、普段着に、着替えています。
 リーさんが、微笑(ほほえ)みながら、話し出しました。
「ケーママさん、ケー君、……そろそろ生まれましょう」
 私とケー君は、明るく「はい」と答えました。
 ……
 池に戻ると、桃が、洞窟の中の小川に戻り、また流れ始めました。
 リーさんが、教えてくれました。
「『聖なる胎(はら)』から下(くだ)っていく小川は、『聖なる産道(さんどう)』と呼ばれています。
 そして、『聖なる湖』に繋(つな)がっているんです」
 私は、びっくりしました。
「え?……リーさんって、『聖なる湖』の妖精ですよね?」
 リーさんは、微笑(ほほえ)みながら、「はい」と答えました。

 ***

 完全な暗闇の『聖なる産道』の中を、ゆっくり流れゆく桃を先頭に、お椀と小舟が、一列になって、流れています。
 ……
 直径1メートルほどのお椀(わん)型の小舟には、ケー君とリーさんが乗っています。
 全長3メートルほどの小舟には、私が乗っています。
 ……
 しばらくすると、リーさんが、私に声をかけてきました。
「ケーママさん、ゆっくり目を開けてください」
 私は、目を開けました。
 前方が、微(かす)かに明るくなっています。
「リーさん、出口ですか?」
「はい、『聖なる湖』の岸辺(きしべ)に、出口があるんです」

 ***

 私たちは、『聖なる産道』の出口を出ました。
 瞬間、私は、『聖なる湖』の明るさに、とても感動しました。
 なんと『聖なる湖』は、『春』だったんです!
 ……
 桃が、『聖なる湖』を横切って、対岸(たいがん)につきます。
 そこには、お城がありました。
 ……
 私たちは、その城の中に入っていきました。
 そこから、6人の小びとがあらわれ、湖から桃を引き上げます。
 同時に、ひとりの小びとが、リーさんに、うやうやしくお辞儀をしているんです。
「リー様、お帰りなさい!」
 リーさんが、応えます。
「じい、……元気でしたか?」
「はい。……でも、寂(さみ)しゅうございました」
「ごめんなさいね」
 私は、思わず割り込みました。
「えーっ?……リーさんって、お姫様だったんですか?」
 リーさんは、私の質問には答えず、楽しそうに微笑(ほほえ)んでいたんです。

 ***

 大広間(おおひろま)の円形テーブルに、リーさんとケー君が、座っています。
 城に住んでいる小びと達20人も、全員座っています。
 テーブルの上には、ひとくち大の桃が置かれています。
 私たちを導いた桃が、切り分けられたんです。
 私は、大きめのテーブルと椅子が用意されて、そこに座っています。
 ……
 ケー君が、少し大きめの桃を持って、私のそばにやってきました。
「ケーママさん。……この桃は、『離乳食』になるんです。……食べてください」
「そうか、『離乳食』なんだ」
 私は、嬉しくなりました。
 ……
 リーさんが、「いただきます」と言うと、
 みんなで、「いただきます」と言って、桃を食べたんです。
 とても美味(おい)しかったんですよ。

 ***

 桃を食べ終わると、リーさんが、私の所にやってきました。
「ケーママさんに、大事なお話があります」
 私は、「はい」と答えました。
「『王子様』が、ケーママさんに口づけをしたんです」
「え?……『王子様』って?」
「ここは、『小びとの国』なんですよ。……人間の世界では、…ケーママさんは、眠っているんです。……『白雪姫』のように」
「あ、あーっ!……私は、『幽体離脱(ゆうたいりだつ)』していたんですか?」
「そうなんです。……ケーママさんは、病室で、『植物人間』のように、眠っているんです」
「あ、……ひょっとして、『白雪姫』も、ここに来ていましたか?」
「はい、……来ていましたよ」
「えーっ!……そうなんだ」
「実は、……帰る時が、来たんです」
「何かあったんですか?」
「帰れば、すぐに分かりますよ。
 ……
 さっき、じいが、『王子様』が手にとって読むように、『白雪姫』の絵本を、病院の待合い室に置いてきました。
 ……
 そうしたら、『王子様』が、ケーママさんに口づけをしたんです。
 ……
 ケーママさん!
 ここで体験したことを、人間のみなさんに、伝えてください」
 私は、涙を浮かべて、頷(うなず)きました。

 ***

 私は、リーさんやケー君や小びとのみんなに取り囲まれました。
 私は、涙を流しながら、みんなに叫びました。
「リーさん、ケー君、……みなさん……ありがとう。……さようなら〜」
 リーさんもケー君も小びとのみんなも、「さようなら〜」や「ごきげんよう〜」と叫んでいました。
 ……
 私は、気を失いました。

 ***

 気が付くと、私は、病室の天井に浮かんでいました。
 真下には、私の身体(からだ)が、ベッドの中で、横たわっています。
 横に立っている夫が、私を、とても心配そうに覗(のぞ)き込んでいます。
 その瞬間、私の魂は、身体に戻っていました。

            (おわり)

2006/3/6〜10・志村貴之
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