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朗読用の物語のひろばコミュの新・西遊記「飛翔号の冒険3ー哲学者」

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(まえがき)
今から約2500年前、
地球から1万光年ほど離れているある惑星から、
聖人の智は、ブッダになったお釈迦様に会い、修行するために、
「飛翔号(ひしょうごう)」で、地球のインドを目指します。
---
飛翔号(ひしょうごう) : 小型の超光速宇宙船
---
智(とも): 男性、40歳、聖人
勇(ゆう): 男性、37歳、船長
恵(めぐ): 女性、26歳、操縦士
凛(りん); ホログラム、32歳、コンピュータ
蘭(らん): アンドロイド、9歳(19歳児ぐらいの精神年齢)
             、ロボット
---
ソクラテス : 男性、70歳、哲人
プラトン  : 男性、28歳、哲学者
ラピスラズリ: 女性、64歳、土星に住む『銀河連盟』の調査官
              サファイヤのご先祖様
---
ゴータマ  : 男性、64歳、ブッダ
---
「哲学者」では、哲人ソクラテスと哲学者プラトンと交流する物語で、パート3です。

 ちなみに、アテナイは、現在のアテネです。

コメント(9)

「飛翔号の冒険3ー哲学者」 第1話 土星

 出発して、9年が経(た)ち、飛翔号は、ようやくブッダが住む太陽系に到着します。
 操縦室には、智(とも)、勇(ゆう)、恵(めぐ)、そして、ホログラムの凛(りん)とアンドロイドの蘭(らん)がいます。

 ***

凛「第6惑星の周回軌道上に、宇宙船が飛んでいます」
勇「えっー!『宇宙船』って?」
蘭「パパ。これだって、宇宙船だよ」
恵「智様、どうしますか?」
智「凛、通信を入れてください」
凛「今、先方(せんぽう)から通信が入ってきました」
勇「何んだって?」
智「ほほー、そうきましたか」

 ***

 飛翔号は、第6惑星・土星の周回軌道上を飛んでいる宇宙船に、ドッキングしています。
 そして、智、勇、蘭の3人が、その宇宙船に乗り込んでいきます。
 すると、宇宙船には、サファイヤのご先祖にあたるラピスラズリが、笑顔を浮かべて、迎えてくれます。

 ***

ラ「私たちが、ここ第6惑星に来て、
  およそ37500年が経(た)ちます」
蘭「そんな昔から?」
ラ「はい」
勇「なんで、ここにいるんだ?」
ラ「人類を調査しているんです」
勇「『人類を調査』だって?」
ラ「そうです。
  第3惑星に住む人類が、自(みずか)らの力で、
  戦争を全面的に放棄できた時、
  『銀河連盟』の一員になってもらうためです。
  そのため、常に、調査をしているんです」
智「戦争は、まだ、続いているんですか?」
ラ「はい。
  第3惑星では、まだ『火の時代』です。
  部族間・国家間の戦争が、頻繁(ひんぱん)に起きていますね」
勇「じゃ、ブッダはいないんじゃないか!」
ラ「え?『ブッダ』?」
智「ここには、『ブッダセンサー』は、ないんですね」
ラ「はい、ありませんねぇ。
  そもそも『ブッダセンサー』自体が、
  なんのことかも、分かっていません」
智「説明するのは、とても難しいのですが、
  今は、『ブッダは、生命としての最高の智慧者(ちえしゃ)』
  と、考えてください。
  実のところ、
  私も、良くは分かっていません」
ラ「うーん。
  そういう方なら、心当たりがあります」
智「『心当たり』?
  ぜひ、教えてください」
ラ「ひとりは、インドに住むゴータマ、64歳です。
  もうひとりは、ギリシャに住むソクラテス、70歳です」
勇「ふたりも、いるのかい?」
ラ「はい。
  私たちは、ゴータマの方を注目していますが、……」
勇「じゃ、決まりだな!」
ラ「ちょっと待ってください。
  ソクラテスは、明日(あした)、処刑されるんですよ」
勇「えーっ!」
智「『処刑』?
  ……
  では、なんの罪なんですか?」
ラ「『若者を堕落(だらく)させた罪』だそうです」
蘭「はぁ?」
勇「それって、何だい?
  俺だって、そんな馬鹿な罪で、刑務所にいたわけじゃ
  ないんだぜ」
智「気になります」
勇「うん。俺も気になるな」
蘭「じゃ、ソクラテスに会いに、行こう!」
ラ「私も、それがいいと思います。
  ゴータマは、とても元気で、
  積極的に、説法をされていますしね」
智「そうですか?
  そういうことでしたら、
  まずは、ソクラテスに会いましょう」
ラ「……  
  では、私たちの『電送エレベーター』をお使いください」
勇「『電送エレベーター』って?」
ラ「ここからだと、1分ほど、かかりますが、
  ソクラテスが収容されている牢屋の近くにある建物に、
  繋(つな)がっています」
勇「うん?『1分』だって?」
ラ「もうすぐ10秒くらいで行ける予定ですが、
  ただいま研究している最中です」
勇「いやはや、上には上があるもんだね」
智「そうですね。
  お言葉に甘えて、使わせていただきましょう」
蘭「賛成!」
勇「まあ、そうだな」

 ***

 智、勇、蘭の3人は、『電送エレベーター』に乗り、第3惑星・地球のギリシャに降りていきます。

2008/1/3・志村貴之
「飛翔号の冒険3ー哲学者」 第2話 法

 その夜。
 智、勇、蘭の3人は、ソクラテスがいる牢屋の前に立ちます。

 ***

智「あのー、ソクラテス。起きていますか?」
ソ「あー、起きているが、誰かね?」
智「他国(たこく)から来た者です」
ソ「ほほー」
智「少し、話しがしたいのですが、
  中に入ってもよろしいでしょうか?」
ソ「眠るのは、明日(あした)には、十分できるからね。
  ……
  さあ、どうぞ」

 ***

 智を先頭に、勇、蘭が、牢屋の中に、入っていきます。

 ***

智「私は、智と申します」
勇「俺は、勇です」
蘭「蘭です」
ソ「ソクラテスです」

 ***

勇「あのさ、この牢屋、脱獄、簡単だよ」
ソ「そうですね。
  脱獄が、正しい行為なら、簡単でしょう」
勇「正しくないのかい?」
ソ「牢番は、私に同情してくれています。
  ですから、
  少しのお金を出せば、ここを出してくれるでしょう」
勇「だったら、…」
ソ「みなさんの国では、
  『法を守る』ことや『法にしたがう』ことは、
  正しいことでは、ないんですか?」
智「いいえ、そんなことはありません。
  私の国でも、『法にしたがう』ことは、正しいことです。
  でも、その法が間違っていることもありますので、
  常に、修正を加えています」
ソ「もちろん、このアテナイでも、法の修正は可能です。
  ただし、『私に不利な法だから、間違っている』
  ということにはなりません」
智「では、
  ソクラテスは、明日、死ぬのですか?」
ソ「いいですか。
  私は、自殺するのではありません。
  正しい手続きに従って、正しい裁判がおこなわれ、
  処刑と決まったのです」
蘭「死ぬのは、怖くないの?」
ソ「私にとっては、死は、良いことです。
  死ぬことは、
  完全に意識がなくなるか、魂があの世に行くか、
  のどちらかです」
蘭「『魂があるならば』ですよね?」
ソ「もちろんです。
  魂があるならば、あの世でも、
  きちんとした吟味(ぎんみ)の旅を続けていけますので、
  とても嬉しいことですし、
  完全に意識がなくなるなら、
  それはそれで、『良し』とできます」
蘭「でも、『処刑』って、痛そうだよ?」
ソ「私の場合、
  みずから、毒汁(どくじる)を飲み干(ほ)す
  という処刑です。
  眠るように死ぬようですから、痛くないはずです」
蘭「それは、他(ほか)の人の場合ですよね?」
ソ「うふふ。
  正確には、そうです。
  私の体験ではありませんので、
  私の場合、苦痛を感じることになるかもしれません。
  ……
  それよりも、
  物事を論理的に考えられるお嬢さんと話しができるのは、
  とても嬉しいですね」
蘭「ソクラテス。
  実は、……私は、人間ではありません」
勇「え?
  いいのかい?」
智「はい。
  蘭、左腕(ひだりうで)をはずしてください」

 ***

 蘭は、左腕をはずして、ソクラテスに見せます。

 ***

智「蘭は、論理的な思考ができる『からくり人形』です」
ソ「ほほー。
  これは、すごい!」
勇「まあ、感情もあるんだけどな」
智「私の国では、
  論理的な思考ができる『からくり人形』が、造られています。
  人間のように、論理的に考えたり、感情表現でもできます」
ソ「ほほー、とても面白い!
  ……
  世界は、広い!
  やはり、知らないことが、たくさんありますね!」
智「実は、
  この広い世界の中で、
  私たちは、『ブッダ』を求めて、旅をしています。
  すでに、9年が経っています」

2008/9/15・志村貴之
「飛翔号の冒険3ー哲学者」 第3話 無知の知

 智、勇、蘭が、牢屋の中で、
 ソクラテスとの対話を続けています。

 ***

ソ「『ブッダ』とは、どういうお方ですか?」
智「『ブッダ』は、人の名前ではありません。
  簡単に言えば、
  『生命としての最高の智慧(ちえ)者』という意味です」
ソ「知恵者ですか?」
智「はい。
  今のところ、そう思っています」
ソ「あまり信用できませんね」
勇「どうしてだい?」
ソ「私は、デルフォイで、
  『ソクラテスより賢いものはいない』
  というの神託がありました」
勇「そりゃ、凄い!
  ソクラテス。
  あなたこそが、『ブッダ』ではないのかい?」
ソ「まさか!
  私は、『自分は、無知』だと知っています。
  それにも関わらず、
  デルフォイの神託がありました」
勇「それで?」
ソ「私は、アテナイ中を歩き回って、私より賢い人を探しました」
勇「え?」
ソ「私より賢い人を探しだし、
  神様に、反証(はんしょう)しようと考えていたんです」
智「なんと」
ソ「神託を受けてから今まで、30年かかりましたが、
  私より賢い人は、見つかりませんでした」
勇「ほら、やっぱり!」
ソ「私は、そうは思いませんでした。
  探し回った結果、よーく分かったことがあります。
  ……
  『自分を賢いと思っている人』は、
  『自分が、無知である』と、知りませんでした。
  ところが、
  私は、『自分が、無知である』と、知っています」
蘭「その違いなんだ!」
ソ「そうです。
  この違いこそが、神様の真意ではないでしょうか?
  私は、『自分の無知を知っている』ことで、
  神様に、その分だけ『賢い』と言われたのだと思います」
蘭「ソクラテスって、凄いねぇ」
ソ「ですから、
  私が、『ブッダ』のはずがありません」
智「分かりました。
  確かに、
  『この国には、ソクラテス以上に賢い人はいない』
  というのは、分かりましたが、
  『他国(たこく)には、ソクラテス以上に賢い人はいる』
  のかもしれません」
ソ「他国に、『ブッダ』がいるのですね?」
智「そうです。
  遠く東の国に、『ブッダ』が現れました」
ソ「ほほー、それは、面白い!」
勇「じゃ、脱獄しない?」
ソ「また、その話しですか?」
勇「だめかー!」
ソ「だめです。
  ……
  そうだ。
  私の代わりに、プラトンを連れて行ってください」
勇「お弟子(でし)さんかい?」
ソ「いいえ。
  私には、弟子はいません。
  28歳と若いのですが、仲間です」
智「そのプラトンは、どういう方ですか?」
ソ「私が処刑される前に、『魂の永遠』を証明して、
  私を安心させたかったんでしょう。
  ずーっと、部屋に閉じこもって、研究しているようです」
智「『魂の永遠』ですか?」
ソ「そうです。
  でも、証明は、間に合わなかった。
  ……
  しかし、
  明日(あした)、プラトンは、ここに来るかもしれない」
勇「明日って?
  明日、処刑だよ?」
ソ「はい。
  明日、仲間たちの中で、
  私は、毒汁を飲み干(ほ)します」
勇「はあ?」
ソ「もちろん、処刑には、違いありませんが。
  ……
  この30年の間、
  私は、自称『賢い人』たちとその取り巻きたちに、
  敵意を持たれました。
  そのために、
  ありもしない罪で、私は、裁判にかけられて、
  処刑になるのです」
蘭「かわいそう」
ソ「私のことは、もういいのです。
  ただ、
  プラトンは、かなり賢い若者ですから、
  私の次に、狙われています。
  そこで、
  今すぐにも、アテナイを脱出した方がいいのですが、
  彼は、『魂の永遠』の証明に、没頭していて、
  仲間の言葉に、耳を傾けないのです」
智「プラトンに、危険が迫っているのですか?」
ソ「はい」
智「分かりました。
  そういうことでしたら、
  明朝(みょうちょう)、プラトンに会いましょう」

2008/9/15・志村貴之
「飛翔号の冒険3ー哲学者」 第4話 魂の存在

 朝。
 智、勇、蘭は、プラトンの家を目指して、アテナイの街を急いで歩いています。
 しばらく歩くと、突然、蘭が、路地の奥を指さして、叫びます。

 ***

蘭「あそこに、男が倒れている!」
勇「え?」

 ***

 勇が、走って、倒れている男に近づきます。
 そのあとを、智、蘭と続きます。

 ***

勇「息がある!」

 ***

 仰向(あおむ)けに倒れている男の脇腹から、かなりの血が流れています。

 ***

プ「ソ…ソクラテス?」
智「あっ!
  あなたは、プラトン?」

 ***

 プラトンが、頷(うなづ)きます。
 その直後、プラトンの動きが止まります。

 ***

智「心臓が止まった!」
勇「プラトン!
  死ぬんじゃない!
  そうだ! 
  飛翔号に運べば、助かるかもしれない!」
蘭「智!
  プラトンを助けようよ!」
智「分かりました!
  凛!今すぐ、私たち4人をピックアップするんだ」

 ***

 飛翔号のホログラム凛から、すぐに返事がきます。

 ***

凛「分かった!
  今、光エレベータを降ろす」

 ***

 飛翔号から、光エレベータが降りてきます。
 すぐに、
 勇が、プラトンを抱きかかえて、光エレベータに乗り込み、
 そのあと、智、蘭が、乗り込みます。

 その日の夜。
 飛翔号の医療室で、プラトンが、目覚めます。
 ただ、ベッドに横たわったままです。
 そして、プラトンの周りには、智、勇、蘭、恵がいます。
 
 ***

プ「あ?…どうしたんだろう?」
蘭「路地で、倒れていたんだよ」
プ「そうだ。
  襲われたんだ。
  いきなり、剣で刺されて、…倒れて」
勇「死んだんだ…」
恵「いいえ、気を失ったんです」
勇「あっ、そうそう、そうだった。
  浅い傷だったんだが、
  凄い衝撃があったようで、気を失ったんだ」
プ「そうでしたか?
  あ、ソクラテスは?」
智「やはり、
  あなたは、プラトンですね?」
プ「はい!
  それで、ソクラテスは?」
智「先ほど、処刑されました」
プ「あぁ〜っ」

 ***

 しばらくすると、
 プラトンが、落ちついてきます。
 まだ、ベッドに横になっていますが。

 ***

智「昨晩(さくばん)、ソクラテスに会って、
  その時に、あなたを、国外に連れ出してほしい
  を頼まれたんです」
プ「え?
  ソクラテスが?」
蘭「そうだよ。
  ソクラテスは、とっても心配していたんだから」
プ「私は、何もできなかった!
  ソクラテスを助けることが、できなかった!」
蘭「でもさ、
  ソクラテスは、死ぬのを楽しみにしていたよ」
プ「じゃ、
  ソクラテスは、『魂の永遠』を証明したんですか?」
智「それは、どうかなぁ?
  あなたが、『魂の永遠』を証明するのではないんですか?」
プ「そのつもりでしたが、
  結局、証明できませんでした」
智「そうでしたか。
  あのー、
  こんな話しをしていいかどうかは、分かりませんが、
  私の先生は、『魂は存在しない』と言っているんです」
プ「え?『魂は存在しない』?
  どういうことですか?」
智「私の国でも、『魂の存在』を証明しようとしていましたが、
  いつまで経っても、それこそ、1000年経っても、
  2000年経っても、3000年経っても、
  誰もが、納得するような証明はできませんでした」
プ「それは、証明しようとした人たちが、
  未熟だったんじゃ、ありませんか」
智「たしかに、未熟だっただけかもしれません。
  ただ、私の先生は、違う考えを持ちました。
  『魂が存在する』のではなく、『魂が存在したらいいな』と、
  強く願っている人たちが、たくさんいるのではないか、と」
プ「え?」
智「『私は、とても尊(とうと)い。だから、
   肉体が死んだら、私も無くなるなんて、とてもイヤだ』
  という思いが、
  『魂が存在する』という妄想を生みだし、
  『魂は永遠である』という妄想を生み出した、と」
プ「妄想ですか?」
智「はい。
  私の国では、3000年経っても、証明できないんですから、
  私も、妄想だと思っています」
プ「では、『魂は存在しない』という証明はできたんですか?」
智「いいえ。
  残念ながら、まだ誰もが納得する証明はできていません」
プ「じゃ、『魂が存在する』可能性は、ありますよね?」
智「可能性なら、あります。
  ですが、
  『ブッダ』なら、『魂は存在しない』という証明
  ができているかもしれません」
プ「え?…『ブッダ』って、誰ですか?」
智「『ブッダ』は、人の名前ではありません。
  簡単に言えば、
  『生命としての最高の智慧(ちえ)者』という意味です」
プ「知恵者?」
智「うふふ。
  ソクラテスも、あまり信用していませんでしたね」
プ「それは、そうですよ!」
智「遠く東の国に、『ブッダ』が現れました。
  ……
  昨晩、ソクラテスは、
  『私の代わりに、プラトンを連れて行ってください』
  と、私に、言ったのです」
プ「はい」
蘭「それで、
  あなたに会うために、あの道を歩いていたんだよ」
プ「そうでしたか。
  みなさんは、命の恩人です。
  ありがとうございました」
勇「それよりか、
  一緒に、『ブッダ』に、会わないかい?」
プ「ありがとう。
  ただ、仲間のことも気になりますので、
  しばらく、考えさせてください。
  あ、考える時間はありますか?」
智「少しなら、時間はあります。
  身体の傷が癒えるまで、2,3日かかりますから、
  その間(あいだ)、ここに居て、考えてはどうでしょうか」
プ「ありがとう。
  ところで、ここは、どこですか?」
恵「あっ、そうそう、船です。
  私たちの船の中です」

 ***

 プラトンは、まだ気付いていませんが、宇宙船『飛翔号』は、地球の周回軌道上を飛んでいます。

2008/9/17,18・志村貴之
「飛翔号の冒険3ー哲学者」 第5話 執着

 2日目の昼。
 飛翔号の医療室で、プラトンが、ベッドに横たわっています。
 そして、プラトンの周りには、智、勇、蘭、恵がいます。

 ***

勇「少しは、元気になったかい?」
プ「身体のことですか?
  それなら、お陰様で、順調に良くなっています。
  しかし、心のことなら、
  ……、何が何だか、……とても不安定です。……」
勇「そうかい。
  でもな、
  プラトンは、まだ生きているんだから、
  その内、なんとかなるんじゃないの?」
恵「勇様は、のんきですねえ?」
勇「『深刻に考えるより、真剣に考えよ』だろ?
  なあ、智!」
智「まあ、そうですね。
  深刻に考えると、妄想しているだけで、
  ほとんど有効に考えていません」
プ「うふふ。
  ソクラテスの話しを、…聴いているみたいです!」

 ***

 ついに、プラトンは、泣き出します。

 ***

プ「もう!…いないん…ですね!」
勇「そうかもしれないけど、……」
蘭「そうじゃなかもしれないよ。
  ねえ、智!」
智「最近は、言うことがなくなった」
蘭「あ、ごめんなさい」
プ「そうじゃないかもって?」
智「プラトンの心の中には、
  ソクラテスは生きているでしょう?」
プ「生きている?」
智「今、言ったじゃないですか?
  『ソクラテスの話しを聴いているみたい』
   って」
プ「はい!」
智「だから、
  プラトンの心の中で、
  ソクラテスと対話したら、どうでしょうか?」
プ「あっ!できます。
  それなら、できます!」
智「そうでしょう?
  心の中でも、
  真面目に、ソクラテスに問えば、
  答えてくれるでしょう」
プ「はい、やってみます」
智「その時、執着があってはだめです」
プ「執着?」
智「はい。
  『ソクラテスには、このように答えてもらいたい』
  という執着です。
  もし、このような執着があれば、
  プラトンの中にいるソクラテスは、死んでしまいます」
プ「でも、そのお方が、
  ソクラテスが実際に言わなかったことを言い出したら?」
智「おぉー、いいですね。
  そうなってこそ、
  プラトンの中にいるソクラテスが、生きている
  と、言うんじゃないですか?」
プ「え?…そうか!
  そうですよね!
  私の予想を越えて、いろいろ答えてくれる。
  そんなソクラテスは、私の中に、生きています!」
蘭「良かったね」
勇「うん、うれしいな」
プ「みなさん、ありがとう」

 ***

 今度は、
 プラトンは、嬉し涙を流しています。

 ***

智「プラトンは、執着を、どう考えていますか?」
プ「自称『賢い人』は、自分の賢さに執着していました。
  執着があったから、自分の無知を認めること
  ができなかったのです」
智「そうです。
  では、
  プラトンの中に、
  ソクラテスを告発して、処刑にさせた人に、
  恨みはないんですか?」
プ「残念ながら、恨みはあります」
智「それは、執着じゃないんですか?」
プ「え?
  何に対しての『執着』?」
智「ソクラテスは、死ぬのを楽しみにしていたんですよ」
プ「あ、そうか!
  執着は、私にあった!
  『もっと、ソクラテスに生きて欲しい!
   どうして、ソクラテスを分からないんだ?!』
  これは、全部、私の執着です!」
智「プラトン。
  あなたも、殺されそうになりましたね」
プ「はい。
  暗殺者には、怒(いか)りがあります!」
智「なぜ、怒(いか)るんですか?」
プ「なぜって、…え?
  あ、そうか!
  『私という存在に対する執着』ですか?」
智「さすがですね。
  こんなに賢いあなただからこそ、
  あなたは、殺されそうになったんです」
プ「そうなんですか?」
智「『プラトンは、かなり賢い若者だから、
   私の次に、狙われている』
  とソクラテスが、言っていましたよ」
プ「え?
  そうなんですか?」
智「はい!
  では、尋(たず)ねますが、
  『私という存在』は、特定できるんですか?」
プ「特定?」
智「はい。
  まず、『私という存在に対する執着』があります。
  それで、『私という存在』は、特定できると勘違い
  するんです」
プ「えーっ?
  『私という存在』を特定できないと言うんですか?」
智「プラトン、執着を甘くみてはいけません。
  ……
  『私という存在に対する執着』が強すぎるために、
  あらゆる困難な問題が生まれたんじゃないんですか?
  ……
  怒りが生まれて、恨みが生まれて、悲しみが生まれて、
  不満が生まれて、不安が生まれて、虚しさが生まれて、
  要するに、『苦』が生まれたんじゃないんですか?」
プ「論理の展開が、逆転しているんですか?」
智「そう、逆転しています。
  もし、
  『私という存在に対する執着』を完全に消し去る
  ことができたならば、
  『私という存在』を特定できるかどうかが、
  客観的に分かると思いますね」
プ「そりゃ、そうですね。
  あ!そうか!
  ブッダは、『私という存在に対する執着』を完全に消し去る
  ことに、成功したんですね?」
智「そう思います。
  ですから、とてもお会いしたいんです」

 ***

 その時、
 プラトンは、黙ったまま、考え込んでしまいます。

2008/9/21・志村貴之
「飛翔号の冒険3ー哲学者」 第6話 継ぐ者

 3日目の昼。
 飛翔号の医療室で、プラトンが、ベッドに座っています。
 そして、プラトンの周りには、智、勇、蘭、恵がいます。

 ***

プ「かなり良くなりました」
恵「そうですね。
  もう、ほとんど完治しています」
蘭「顔色もいいし、食も進んでいるしね」
プ「そこで、今晩、この船を降りたいと思います」
勇「アテナイに戻るのかい?」
プ「そうです」
智「一緒に、ブッダに、会いに行かないんですね?」
プ「それは、とても魅力的な提案でした。
  しかし、
  私は、アテナイを見捨てるわけにはいかないんです」
智「ソクラテスの望みでも?」
プ「はい。
  もし、私が、殺されそうになっていなかったなら、
  すぐにでも、みなさんと一緒に、
  ブッダに、会いに行ったことでしょう」
智「事情が変わったのですね?」
プ「はい。
  ソクラテスは、自分の無知を知っている人でしたが、
  同時に、知を愛する人でした。
  真理を愛する人でした。
  それは、私も同じです」
智「はい」
プ「アテナイには、真理を愛する仲間がいます。
  その仲間は、みんなソクラテスの志(こころざし)を継ぐ者
  です。
  私も、ソクラテスの志を継ぐ者になりたいんです」
智「今のアテナイは、とても危険ですよ」
プ「分かっています。
  ソクラテスの志を潰(つぶ)そうとする勢力は、
  露骨な行動を起こしています」
智「それでも、戻るのですね?」
プ「単に、私は、『ソクラテスの志』に執着しているだけ
  かもしれません。
  しかし、一方、
  私は、『ブッダに会うこと』に執着しているだけ
  かもしれません。
  実は、
  私には、分からなくなりました」
蘭「うん、それは、難しい」
勇「おぉー、確かに!」
智「私は、まだ一度も、ブッダに会っていません。
  そのため、
  これ以上、あなたを誘うことは、しません」
プ「ありがとう、智」
勇「そうと決まったら、
  いつ降りるつもりだい?」
プ「夕方には、降りたいと思います」
蘭「寂しくなるねぇ」
勇「うん、寂しくなるなぁ」
プ「私も、寂しいです」

 ***

 3日目の夕方。
 飛翔号は、地上に降りていって、アテナイの沿岸に着岸します。
 そして、
 プラトンは、智に、最後の問いかけをします。
 
 ***

プ「智。
  本当に、魂は、無いんでしょうか?」
智「たぶん、無いと思います。
  少なくても、ソクラテスは、どうでもいい
  と思っていたのではないでしょうか?」
プ「え?
  でも、ソクラテスは、いつも
  『自分の魂の世話をする』と言っていましたよ」
智「ソクラテスは、『自分の心の世話をする』ぐらい
  に言っていたのではありませんか?」
プ「なるほど。
  そうかもしれません」
智「『魂』という言葉には、
  『変わらないもの』が、『私』の中にあってほしい
  という執着を、感じます」
プ「ひょっとして、『私』も無いのですか?」
智「私の先生は、『私という存在』は無いと言っています」
プ「うーん、困ったなあ?
  私は、『私を自覚』しています」
智「私も、『私を自覚』しています。
  ただ、私の場合、それが、まぼろしだと知っています」
プ「『まぼろし』?」
智「はい」
プ「やはり、難しいですね。
  私には、ちょっと理解できません。
  でも、面白い話です」
智「そうですよね。
  私も、完全に理解しているわけではありませんから、
  これ以上は、うまく説明できません」

 ***

 飛翔号の出口が開いて、勇、智、プラトン、蘭、恵の順に、降りていきます。
 プラトンが、振り返ります。

 ***

プ「これは?……船ですか?」
蘭「これでも、船なんだよ」
勇「面白い形だろう?」
プ「初めて見ました。
  あっ!ひょっとして、
  みなさんは、アトランティスの末裔(まつえい)ですか?」
蘭「『あとらんてぃす』って、な〜に?」
プ「では、違うんですか?」
勇「違うかな」
プ「失礼しました」
恵「私たちは、かなりの遠くにある国から、来ました」
プ「はい、分かりました」

 ***

 プラトンが、みんなに挨拶します。

 ***

プ「みなさん、ありがとうございました」
蘭「うん、またね」
勇「元気でな」
智「十分に、気を付けて、言動してください。
  さようなら」
恵「ご無事を、お祈りします」
プ「みなさん、さようなら」

 ***

 智、勇、蘭、恵は、プラトンが、見えなくなるまで、手を振っています。
 そして、
 智、勇、蘭、恵は、飛翔号に乗り込みます。

 ***

恵「凛様!今から、インドを目指します!」
凛「はい」

 ***

 飛翔号は、垂直に飛び上がり、地球の周回軌道上にでます。
 ……
 眼下には、青い地球が見えます。
 そして、
 ブッダが住むインドが見えます。
 ……
 飛翔号は、そのインドに向かって、高度を下げていきます。

2008/9/22・志村貴之

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