ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

哲学ノートコミュの未来の芸術とマルチチュード

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


「芸術とは、もっともうまく構築され、もっとも普遍的で、同時にもっとも特異的な価値、すなわち、ぼくたち全員によって、つまり、現実態となったマルチチュードによって享受されうる価値なんだ。芸術とは、天使の生産物などでは断じてなく、それどころか、すべての人間が天使であるということの肯定―その都度、新たな発見―なんだよ。」(ネグリ)

1983年、ネグリはアルド・モーロ元首相誘拐暗殺を含む多くのテロを主導した嫌疑で(えん罪だったが)、イタリア政府に逮捕・起訴され、パリに亡命した。その後、自ら帰国し1997年に逮捕され投獄された。ネグリは獄中で、スピノザ哲学を研究し、彼のスピノザ論である大著「野生のアノマリー」を完成させた。ネグリはその日本語版の序文においてこう語っている。

「スピノザの思想の布置は、近代の始まりにおいて「異形」として登場したが、いまや近代の終わり、かつて「ポスト(―以降)」と呼ばれていたものが同時代的になるこの時に、根本的に「オルタナティブ」なもの、実際的に革命的なものとして姿を現す。」(3)

ネグリが、スピノザ思想はいまこの時代において、根本的にオルタナティブで実際に革命的であるというとき、それはどのようなことを意味しているのであろうか。1960年代以降、フランスにおいて急速にスピノザ哲学が見直されるようになったが、そのきっかけのひとつにドゥルーズによるスピノザ研究が上げられる。(4)ドゥルーズがいうように、スピノザが生きた時代、そして近代のはじまりにおいてさえ、スピノザは異端であり、異形であった。(5)なぜならスピノザ哲学が持つ、唯物論的、無神論的、反道徳的な性格が、スピノザが生きた時代から今に至るまで、ヨーロッパの道徳体系を担っている神学の構造そのものを解体させる契機をはらんでいたからである。(6)そのため、スピノザの思想のなかにあらわれる「マルチチュード」(群衆=多数者)という概念の革新性は、すっかり見逃されてしまっていたといえるだろう。ここから、現代の哲学者であるドゥルーズやネグリが見出したスピノザの現代性の意義をたどりながら、スピノザ思想の中にある「根本的にオルタナティブ」であり「実際的に革命的なもの」の正体とは何か。



われわれの共同的な存在様式としてのマルチチュードと、新しい芸術の創造について。
ニーチェやスピノザが説く、唯物論的な運命愛からわれわれにもたらされるものは、われわれが一般的に考えている善悪を超えた、自己肯定のみが「よい」とされた倫理的な認識である。それは人間にとっての「よい」が、外部の評価ではなく、内的な自己肯定(欲望)に拠っているという認識の地平である。(30)それに伴って、ドゥルーズはスピノザ哲学が、道徳(モラル)では無く、生態の倫理(エチカ)を説いたものであるとしている。(31)スピノザが説く生態の倫理とは、神学的な規律や共同体の法という表象知を超えた、人間の根源的な存在様式の認識である。スピノザは人間の本質について、このように述べている。

「(自己の有に固執しようと努める)この努力が精神だけに関係付けられるときには「意志」と呼ばれ、それが同時に精神と身体とに関係するときには「衝動」と呼ばれる。したがって衝動は人間の本質そのもの、――自己の維持に役立つすべてのことがそれから必然的に出てきて結局人間にそれを行わせるようにさせる人間の本質そのもの、にほかならない。」(32)

 人間の衝動とはまさにそうした個々すべてのものがとる自己存続の努力(コナトゥス)以外のなにものでもない。このようなコナトゥスは、神に関連付けられる限り、すべての存在に当てはまる。したがって、それは物理的な自然状態に内在している力能なのである。(33)神に関係付けられるすべての事物には、コナトゥスが内在している。ネグリはマルチチュードを、このような物理的な自然状態に内在する力能の関わるものであると規定する。マルチチュードの地平とは、どこまでも開かれた群衆―多数性である限り、そこには有象無象としての衝動が複雑に絡み合った、錯綜と一致、連合と分裂、流れと凝固、こうしたものから成る世界なのである。(34)この物理的自然状態には、いかなる道徳的秩序も存在していない。ただひたすら構成因子の連鎖として力学的に作用するのみである。けれども、それと同時に、このような不規則な因果連鎖とは、すべて神の内にある神の様態であり、神の自己表現なのであった。「事物は現に産出されているのと異なったいかなる他の仕方、いかなる他の秩序でも産出されることができなかった」(35)という認識から、運命愛が生まれ、生態の倫理に基づく自己肯定の正しい認識が生まれる。スピノザはこのことを表象知と区別する形で、直観知と呼んだ。(36)直観知とは、自分自身が神の本質によって存在を含むようなものとして考える事である。そこから、人間の本質であるところの衝動という名のコナトゥスは、自己肯定であるともに、最高の善でもあるということになる。なぜなら「なんぴとも、在り、行動し、かつ生きること、言い換えれば現実に存在することを欲することなしには、幸福に在り、よく行動し、かつよく生きることができない」(37)からである。スピノザはおのおのがそのような地平を目指すことが、人間にとっての最高の欲望であり、理性に導かれる人間の究極目的であるという。(38)おのおのがそのような地平を目指す時に、物理的自然状態として噴出してくるマルチチュードという群衆―多数性は、新たな芸術の創造性としてわれわれの前に姿を現すことになるだろう。



 芸術とはなによりも喜びの創出である。喜びの感情を抜きに、どのような芸術も始まらない。スピノザの哲学とは何よりもまず喜びの探求であった。(39)喜びの探求としての哲学が、唯物論的運命愛に到達するときにもたらされるものは、第3種の認識、すなわち直観知である。われわれが神すなわち自然による、原因と結果の無限の因果連鎖を認識しようと努めるとき、人間の感情は受動であることをやめる。そのような地平では、もはや情念に煩わされることはなく、ただひたすら神の内部にあって、至福であり、神への理性的な愛が育まれる。われわれを含むすべての事物の存在は、すべて神の内にあるというとき、(41)人間の本質であるところの衝動という名のコナトゥスとは、自己肯定であるとともに、神が自分自身を愛する力能、すなわち神の自己肯定だということになるのである。(42)つまり、おのおのの神への理性的な愛が神の自己肯定であり、おのおのの存在の自己肯定と同一化しているのである。このように精神が全自然と有する一体的結びつきを知るとき、自分という唯一の存在は、目も眩むような「栄光」(43)を感じている。そして、このような精神の力能を養う原因こそがまさにマルチチュードなのである。ネグリは、スピノザのエチカの中にマルチチュードという用語がたった一度しか現れなかったことを指摘している。(44)それは、エチカ第5部定理20の備考の中である。

「(感情に対する精神の能力は)物の共通の特質ないし神に関係する感情はこれを養う原因が多数(マルチチュード)あることに。」(45)

 ここでの「多数」が、エチカに出てくる唯一のマルチチュードである。わたしはここに神への理性的愛とマルチチュードを結びつける地点を見出す。マルチチュードとは、おのおのが情念を抑制する精神の力能を養う原因としてある。それはマルチチュードという多数性が、神への理性的愛へとわれわれを導いているのだと捉える事が出来る。なぜなら、マルチチュードとしての存在様式は、自然状態であるとともに人間の本質に忠実な集合的実体、あるいは構成される集合的実体としての過程であり、(46)その群衆―多様性において、あるいはその物理的な自然状態において、新たな存在様式の地平を切り開いているからである。マルチチュードの芸術とは、このような集合的実体の生そのものであり、そのような在り方を模索する試みである。われわれによるマルチチュードの芸術が、その群衆―多様性によって、神への知的愛に繋がる精神を養う多数の原因としてあるとき、そこから湧き上がる喜びに基づいた真に自由な創造活動が展開されるだろう。そこでは市場や私的所有に拘束されない、新たな芸術の革新的な勢力が形成される。

われわれがマルチチュードとして、その人間の本質に忠実な集合的実体としての新たな存在様式を切り開くとき、それはスピノザが言う神に関係する感情を養う原因として作用する。つまり、多数であればあるほど、表象知の外に出る存在になるのである。そこでは、貨幣や富の蓄積、商品などの神性が滅ぶ代わりに、群衆=多数者としてのマルチチュードこそが神性を帯びるという転換が生じる。このようなマルチチュードによる芸術こそが、どのような存在も「栄光」なるものへと転換し、労働を創造行為へと導くのである。(48)

「芸術は、労働をその根源的な本質において構成する創造行為へと、ぼくたちを直に送り出す。(中略)美とは、したがって、新たな存在の美のことであり、集団的労働を通じて構築される超過、労働の想像力(potenza creative del lavoro)によって生産される超過のことなんだ。美の出来事を決定するこの生産、つまり、美の生産は、指令から解放された労働なんだ。」(49)

「おのおのが天使であることの肯定」とは、まさにマルチチュードとしての存在様式であった。マルチチュードは強大な集合的実体として、作用する力能となるだろう。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

哲学ノート 更新情報

哲学ノートのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング