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大畑稔浩コミュの大畑稔浩論 4 【映画「天涯の花」-家族へのまなざし、家族からのまなざし】

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 宮尾登美子著、小説「天涯の花」は全編にわたってきわめて映像的な、それも色彩を抑えた清楚な映像的描写によって綴られています。私はこれを一読したとき、パゾリーニの「奇跡の丘」を思い浮かべていました。作中には新藤兼人監督の「裸の島」に関する記述があり、この映像性が偶発的に醸された印象ではなく、作者の意図的なものであることが推察されます。
 大畑はこの小説が当初高知新聞に連載された際の挿絵を担当しています。残念ながら現在その全容を見ることはできませんが、私は舞台となった徳島県の剣山を訪れた折、頂上ヒュッテの御主人、新居綱男氏が大切に保管されていた連載当時の新聞全部を拝見し、なるほどという感慨に耽ったものです。そこには私が夢想していた映画「天涯の花」が既に実現されていたのでした。モノクロームの深い階調は、新聞の印刷紙面に置き換えれられても充分に感じられ、まさに上質なサイレント映画を見るかのようなコラボレーションがそこにはありました。
 大畑にとってこの仕事は、二重の意味で大きな転機もたらしていると思われます。180回にわたる連載のすべてに鉛筆による精緻な写実画を副えるという作業は途方もない労力を伴います。大畑は小説の草稿が出来上がってない段階から剣山に滞在し取材を重ね、そこで出会った神秘の自然は、その後の画業の展開に大きなインスピレーションを与えたに違いありません。それはフリードリッヒにとってのザクセンのハルツ山のような存在だったのかもしれません。
 また、挿絵の中で主人公、平珠子のモデルを勤めているのは大畑夫人であり、その恋人久能卓郎は大畑自身、珠子の義母白塚すぎは大畑の実母がモデルになっています。大畑はこの仕事の期間、「天涯の花」の世界に生きていたのでしょう。連載終了後、大畑夫妻に生まれた長女は珠子と名付けられ、彼は娘愛しさのあまりスケッチだけでは飽き足らず、初めて粘土をこね、彼女のブロンズ像を制作しています。
 このとき彼が獲得した、家族へのまなざしおよび家族からのまなざしは、それまでの彼の画面を覆っていたひたむきな禁欲主義に加え、おおらかな楽観主義を併存させるきっかけとなったことでしょう。
 現代人は、自然に向き合えば解析された部分にのみ着目し、わざわざ白茶けた世界観を構築するという奇妙な特技を身につけてしまいました。そして自分自身もまた自然の一部であることに気付くと、今度はアイデンティティーという呪文の虜となり、抜け難い迷路にはまり込んでしまうのです。このとき他者への視線そして他者からの視線は、唯一の脱出の手だてであると私は思うのです。

 画家となった郵便配達の少年は、その後も野呂山の山上から私たちにさまざまな絵葉書を配達してくれているかのようです。葉書の裏にはこんな一文を添えて…。
 「見たまえ、幸福なことに世界はまだまだ莫大な謎にみちみちている。」
 今、大畑が再び山を降りる日が近づいています。
                                
2002年10月17日 Shamoto yoshiyuki 記

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【画像説明】

「天涯の花 より 剣山」大畑稔浩
【画像説明】

「天涯の花 より 珠子」大畑稔浩

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