〓外国人から見て、日本人の連発する 「よくわからないコトバ」 って、よく言われますよね。「どうもどうも」 とかね。
〓しかし、挨拶だと思えば、対応するフレーズが無いわけではないので。出会ったときの 「どうもどうも」 なら、それに対応するのは “Glad to see
you!” でもいいんだろうし、“Hi!” でもいいんだろうし。
〓日本人が別れるときの挨拶は、「じゃまた!」 とか 「じゃあ、がんばって」 とか 「じゃあ、よろしく」 なんて言いますけど、これをいちいち逐語訳していたら、とんでもないことになりまさぁね。“Bye!” でも “See you!” でもいいんでしょう。
〓「よろしく」 ってのも、よくわかんないですね。何も頼んでいることなんかないのに、「じゃあ、よろしく」 なんてね。
〓「じゃあ、がんばって」 は、相手が受験生とか、新人社員とか、何かの試合があるとか言うなら、ウッスラと意味がわかりまさぁね。これを直訳して、
“Do your best!”
って言うのは、ありなんでしょうか? きっとヘンだよな。“Good luck!” とか “Take it easy!” っていうもんなんだと思う。
〓スポーツの応援なんぞで 「がんばれ!」 と言うようになったのは、1936年 (昭和11年) のベルリン・オリンピック、女子水泳200メートル平泳ぎ決勝のラジオ中継で、NHKのアナウンサーが、前畑秀子 (まえはた ひでこ) 選手を応援して、
「前畑、がんばれ」
を24回、連呼したのが始まりと言われています。それまで、「がんばる」 というのは、「自分の意見を押し通す」 とか、「ある場所を陣取って動かない」 という悪い意味に使われていました。
〓この 「がんばれ」 っていうのも、訳しにくいコトバでさぁね。「元気出しなよ」 っていう程度のものだったら、英語の “Cheer up!” なんかが相当するんでしょう。
〓ただ、この 「がんばれ」 については、中国語に “ほとんどニュアンスの等しい” 単語があって愉快なんですよ。
加油 jiāyóu [ チャーヨウ ] がんばれ!
です。スポーツの応援なんかで、中国人の観客が、
「加油,○○!」
っていうプラカードを振っているのをよく見ますよね。日本語の 「がんばれ!」 とほとんど同じです。
〓中国語の 「加油」 というのは、もともと “給油する” という意味なんです。「油を加える」 から “給油” でさぁね。ところから、「精を出す」 という意味があり、それが日本語の 「がんばれ!」 同様に、決まり文句になったんですね。中国語で、ガソリンスタンドのことを
加油站 jiāyóuzhàn [ チャーヨウちゃン ]
と言います。「站」 は、日本では 「兵站」 (へいたん) ぐらいにしか使いませんが、中国では非常によく使う字です。そもそも 「駅」 を 「站」 と言います。覚えておくと役に立つかもしれません。
〓駅もガソリンスタンドも、英語では station ですが、中国語でも 「站」 で共通です。面白いですね。
〓きのうですね、「愛のエプロン」 を見ていてね、オロロキました。梅沢富美男シェフですよね。カレー・ルウを使わずに、香辛料から5分でカレーをつくってみせて、なおかつ、味は一流店並みであるらしい。
〓まあ、それは、それですごいんですが、日本人は、つくづく、
「おいしそう!」
という国民だなぁ、と。
〓このね、「おいしそう!」 には苦い思い出があります。昔、ハバーロフスクで、アタクシを含め、日本人10人くらいで、ロシア人のお宅に食事に招かれたことがあります。信じられないことですが、アタクシが、やっと何とかロシア語で意思の疎通ができるくらいで、あとは、全員カラッキシ。
〓料理が出てくるときに、「おいしそう!」 って言いたいから教えて、と同行の女性に訊かれたんですが、サッパリわからない。いや、「これは美味なように見える」 という文章ならつくれないことはないです。
〓しかし、そのとき本能的にオカシイと感じたんですよ。目の前に料理が出されて、「これはオイシソウに見える」 と言って、
ロシア語で “褒めコトバ” になるのか?
〓いや、ならないんじゃないかって。
【 「おいしそう!」 が好きな日本人 】
〓ネットで、「おいしそう!」 を検索してみました。「おいしそうな」 とか 「おいしそうに」 とか 「おいしそうがいっぱい」 みたいな言い方をどんどんマイナスして行くと、ほぼ 「おいしそう!」 という表現が使われている回数がわかります。
〓その数、
231万件
です。
〓英語で 「おいしそう!」 という表現は、言おうと思えば、次のようになるんでしょう。「米国/英語 限定」 で検索してみました。
That looks delicious 18,700件
That looks yummy 962件
It looks delicious 25,200件
It looks yummy 12,200件
〓それなりに数があるように見えますよね。ところがですよ。たとえば、“It looks delicious!” という文章を検索してみると、1ページ目に表示された
44件のうち 23件が、日本人が英語で書いたものか、
日本語について、英語で書かれたもの
なんです。なんと 52%ですよ。
〓ネットで、検索数が 2万件以下というのは、むしろ少ないんではないか? 日常的に使うフレーズじゃない、ということを示しています。
〓今度は、「英国国内限定」 で検索してみましょうか。
That looks delicious 816件
That looks yummy 18件
It looks delicious 1,360件
It looks yummy 27件
〓どうですか? むしろ、「臨時表現」 に近いものですよ。それに、ここに含まれるのは、「おいしそう!」 という感嘆文ばかりではありません。「それは、おいしそうに見える」 という平叙文の一部かもしれない。
〓いずれにしても、日本人の 231万回の 「おいしそう!」 とは比ぶべくもありません。だいたい、おいしそうな料理が出てきたとき、英語のネイティブは “Great!” なんて言って済ますんじゃなかろうか?
〓ついでに、ロシア語も調べてみましょうか。「〜なようすに見える」 という、英語の to look に当たる動詞は、
выглядеть vygljadjet' [ ' ヴイグりゃヂェッチ ]
と言います。三人称単数形は、выглядит vygljadit [ ' ヴイグりゃヂット ] です。この動詞の補語は、やっかなことに 「造格」 という格を取ります。そして、主語──つまり、おいしそうなもの──の文法上の性・数によって変化します。
вкусным fkusnym [ フ ' クースヌィム ] 男性・中性
вкусной fkusnoj [ フ ' クースナイ ] 女性
вкусными fkusnymi [ フ ' クースヌィミ ] 複数
〓別に文法を理解する必要があるのではなくて、「おいしそうなもの」 がナンであるかによって、文末が変化する、ということを説明したかっただけです。
〓では、主語なしで、それぞれ検索してみましょう。
Выглядит вкусным 62件
Выглядит вкусной 5件
Выглядят вкусными 8件
〓ハナシになりません。やっぱりロシア語では、「おいしそうに見える」 なんて言い方はしないんです。
〓文法的には間違いなんですが、補語を 「無人称文」 の “おいしい!” «Вкусно!» と同じ 「中性の短語尾」 で済ませているものをカウントしてみましょう。実は、文法的には破格の、こうした文章のほうが多いんですね。
Выглядит вкусно 1990件
Выглядят вкусно 161件
〓こちらだと、まだ、臨時には、こういう表現もありうる、という可能性を示しています。実際、あがってきた情報をよく見ると、
Выглядит вкусно!
[ ' ヴイグりゃヂット フ ' クースナ ]
という感嘆文が、かなりの割合で見つかります。
〓いずれにしても、日本人の 231万回には、はるかに及びません。たぶん、ロシア語でも、単に、
Прекрасно! prjekrasno
[ プリク ' ラースナ ] すばらしい
Молодец! molodjets
[ マら ' ヂェッツ ] やったね、Good job!
と言えばいいハナシなんだろうなあ。
〓今日は、「おいしそう!」 という褒めコトバが、いかに日本語独特のものであるか、について考えてみました。
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