「プーチンの愛国教室」Mr. Nobody Against Putin。2025・ZDF.Arte/BBC/丁コペンハーゲン/捷PINK。DCP露語。監脚:デヴィッド・ボレンスタイン、監撮解:パヴェル・タランキン。編:ニコライ・モンベウ、レベッカ・ロンキビスト。音:ミハル・ラタイ、ヨナス・シュトゥルク。
本作はその性質上、原語タイトルからして露語では無く英語のインターナショナル版のみが存在します。また本作を鑑賞する上で『国と国家の違い』を明確に理解しておく必要があります。
”主人公”タランキン氏は自ら『愛国者』と宣言しているが政権支持者では無い。この事は反体制作品を撮り続け軟禁中のアレクサンドル・ソクーロフ監督が国外脱出を勧められて「自分は愛国者だ。何で国を見捨て逃げなければ成らないのか?」と主張してる事からも愛国心と政権支持は違うと理解出来ます。
学校内で閲兵行進が為される最初のシーンの音楽は帝政ロシアの行進曲、次の時はソ連国歌(ソビエト連邦時代は構成各国に当然国歌がありエリツィン政権はグリンカ作曲のロシア共和国国歌を使用。プーチン政権に成ってソ連国歌の歌詞を変えたものに国歌を変更)が流れます。この本来相反する曲が使われる
矛盾は、現政権は大国意識だけに立脚し政治思想に興味が無い覇権主義という証明に繋がります。本作が他の個人撮影型ドキュメンタリーと違う特徴として、タランキン氏が撮ったり自撮り画面がある一方、別の複数スタッフがタランキン氏を台本に沿って撮っているなど意図的に演出されたシーンが多い事です。
また指示は主監督の米国人ボレンスタイン氏であり、現ロシア政権によるプロパンガンダ教育の告発の体裁はとってはいるものの、政治的都合で選考が左右されるアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞の受賞からも本作自体が反プーチン政権のプロパガンダであり、私の感性では大きな違和感を覚えます。
オタク的には『大祖国戦争』史観教育の教材『狙撃銃型M1891/30PU』の中に左利き用があり驚く。が、そのような存在は確認出来ないので何らかの事情で映像を左右反転させたのではないか?。本作は明らかに演出された映像や”主役ヒーロー”が居るなど現代米国製ドキュメンタリーの特徴をよく備えてますね。
欧州では児童や卒業生の映像が本人の同意無しに使用されてる点や、映像が偶発的ではなく主監督の遠隔指示で撮影されてる点、タランキン氏は国外脱出したものの登場人物で政権に都合の悪い発言をした人々の安全は保障されていない点が問題視されてます。他人の安全をエサにした『売名行為』との批判も。
画面に映るロシアでの『戦争反対!』の抗議デモはTVニュースからの転用映像で私もテレビで観た事があるものばかり。一方で『特別軍事作戦支持』のデモはタランキン氏が撮影したものですが田舎町のせいか小じんまりとしています。支持を訴える”愛国者”も自身では志願もせず徴兵の恐れも無いタイプの人達ばかり。
そして本作の宣伝では恐怖政治に基づく児童への狂信的軍国主義化洗脳みたいな煽り文句だったのに、蓋を開けてみれば一番冷静なのが児童達で、国家主義者の教師が言う事を『信じてるフリをしていて内心ではバカにしている』のが画面に映る態度や表情から読み取れます。
戦闘軍事教練やブーチン神格化崇拝教育のような事も少なくとも画面の中では行われておらず、正直、権威主義的全体主義国家の所業からは程遠いヌルさを感じます。この点で時代背景や社会情勢は異なるものの、国際連盟を脱退した『大日本帝国』や『第三帝国』による未成年教育との余りの乖離に逆に驚きます。
ゲッベルスによる「強要ではなく自ら進んで国家の為に行動させる点にプロパガンダ教育の極意がある」とは程遠い世界。むしろ本作こそがプロパガンダとして西側諸国(勿論日本も)を踊らせていて、配給会社の宣伝文句と印象操作に誰も疑念を抱かず鵜呑みにしている事にこそ危機感を抱きます。
本作や「N」を見て『戦争反対!』と投稿してる主張そのものは間違っていないし賢明な判断だと同意しますが、その結論に至る過程は様々な情報に基づく演繹的、若しくは帰納的判断ではなく『誘導』によって為されているという印象を持ちます。でなければ皆が一斉に同じ文言の『正しい発言』を行ってる
のは何故か誰か説明出来ますか?。逆説的に戦前の『八紘一宇』を口実とした覇権的軍国社会、戦後の『日本国憲法九条の順守を日本以外の国にも強要(つまり他国の主権を認めない)』する左翼社会、の方法論から現代のSNS社会も『日本が中心』という考え方は何も変わらず、手を変え品を変え扇動された
新たな『国粋主義』『民族主義』『選民思想』であって、戦争を行う行わないの決定権は日本にあり、つまり他国に主権は無く国際関係は日本のイニシアイブで動かねば成らない、従って【日本さえ放棄すれば戦争は起こらない】という『正しい人達』の主張の大前提って非論理的と思うのですが誰も同意しません。
(連中の本音は自尊心を満たし優越感に浸る事が目的だから論理的整合性などどうでもよいのでしょう)。さらにウクライナ戦争を含めて諸々のロシア問題の元凶は山師エリツィンの私欲にあった点を誰も検証せず、『何もかもプーチンが悪い』として誰もエリツィン大統領の所業を追及しようとしません。
これは敗戦後日本の『何もかも軍部が悪い』と都合の悪い事は皆陸海軍のせいにして『自分は被害者だ』と手の平を返した市井の方法論とどう違うんでしょうか?。プーチン大統領も最初から覇権主義者だった訳ではなく当初政治はギブアンドテイクだという政策でした。秀吉もナポレオンも最初から太閤や皇帝だった
訳ではありません。さらに本作で描かれる現ロシアの愛国教育が【戦前の日本と同じ】と断定している投稿をいくつも見かけて驚きます。『神さえ超越し宇宙の全てを掌握した自分が【そう思う】のだから、これ以上に頑強で揺るぎなく説得力に満ちた論拠があるだろうか?』という主張はファシズムと同じですよね。
何者かに都合よく創作されたプロパガンダを鵜呑みにして疑わず、得意満面に『自分は万物の真理に到達し、宇宙の頂点に立つ存在なのは明白だから崇拝しろ!』との恍惚としたSNS投稿者の態度こそ本作の戒めるところ。情報を精査せず先入観だけで自分が考えたいように断定をする短絡思考こそ平和を脅かす一因と考えます。
ログインしてコメントを確認・投稿する