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2026年06月11日10:48

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ヴィヴァルディと私

来年春にヴィヴァルディのグローリア・ミサを演奏する予定でパート譜を作ったり、わが家はちょっとしたヴィヴァルディ・ブーム。映画が公開されていることは知っていたのですが、北九州では上映館がなくスルー予定でいたところ、奥方が仕事休んででも観たいというので付き合うことに。博多のKBCシネマで鑑賞しました。

原題は "PRIMAVERA" つまり「春」。イタリアとフランスの合作、2025トロント国際映画祭のスペシャルプレゼンテーションズ部門公式出品とされています。監督・脚本のダミアーノ・ミキエレットは、ミラノ・コルティナ冬季五輪の開・閉会式でクリエイティヴ・ディレクターを務めた人。ヒロインのチェチリアを演じるのはテクラ・インソリア、ヴィヴァルディ役にはミケーレ・リオンディーノ。といっても全然知らない人ばっかり。

時代は18世紀の初頭。ヴェネツィアのピエタ院で生活する孤児で、院の女子たちで編成され教会の儀式などで演奏する楽団でヴァイオリンを弾いているチェチリアの前半生が描かれます。そこへ新たな指導者として赴任してきたのがヴィヴァルディ。彼の引き立てによってそれまで目立たなかったチェチリアの才能が開花し、出生の悩みを抱えながらも音楽する喜びを知った彼女は、変化に乏しく希望を見出すことの困難な孤児院での生活から、自分の意志で人生を選択しようと行動するようになります。終盤は良くも悪くも大揺れの展開となりますが、実はそれらの要素は伏線としてあらかじめ示されていて、「このタイミングでそれ?」という驚かされ方で回収されていくので、脚本の作り込みに最後まで惹きつけられました。

映像はヴェネツィアとローマでのロケにより、中世イタリアの雰囲気は満点。バッハの肖像画に見られるようなかつらを付けた人物が多数登場し、慈善の名のもとに運営される孤児院の人身売買的な実態がリアリティーを持って描かれます。開始早々、院長による子ネコ虐待シーンがあり、ニャンコ派でなくともドン引きしそうになりますが、ここはおそらく孤児たちの境遇をネコに重ねているようで、院長は内心葛藤があっただろうことが後にわかってきます。少なくとも金ずくの理事長に比べれば院長ははるかに善人。貴族や軍人たちは高慢で、お忍びのデンマーク王がお戯れの様子など、日本の時代劇のバカ殿さながらで世界共通(爆)。また、孤児たちはお仕着というのか、全員お揃いの服装をしていて、フェルメールの絵画「牛乳を注ぐ女」に描かれている女中の姿とそっくり。頭巾とか壺とかまさにあの感じで絵が動いている!

ヴィヴァルディは役としては重要ですが、主人公ではありません。彼の曲は演奏シーンを含めていろいろあるものの、楽団を直接指導している場面は少なく、むしろ団員には自習させて自分は作曲したり別の仕事をやっている場面が目立ちます。実際忙しかったらしい。チェチリアに対しては、最初に全員でフォリアを演奏させたときに彼女がわざと間違えたり落ちたりしていたことを見抜くんですが、それ以外では上記お忍びの王様に捧げるソナタを覚えておけと言ったことぐらいしかアドヴァイスもサジェスチョンもなかったような。ヴィヴァルディの人間像に関しては資料も少なそうで、映画としてそういうところで変なウソをつきたくなかったのかもしれません。よい師弟関係ではあったけれども、映画のチラシに使われている「あなたは、人生を教えてくれた。」というコピーは違うと思うf^^;。彼女に人生を教えてくれたのは、むしろ孤児の仲間や院長でしょう。

一方、音楽映画としても高い水準で成立しています。ファビオ・マッシモ・カポグロッソによるオリジナル曲が13曲、カルロ・ボッカドーロ指揮フェニーチェ劇場のオケと合唱団による演奏。劇中に使われるヴィヴァルディ作品は、ソリスティ・アクイラーニによる演奏で、ヴァイオリン独奏はダニエレ・オルランドということです。タイトルになっている「春」は、劇中でふだん院から外に出られない孤児たちが楽団として野外演奏するシーンで断片や暗示的に使われ、ラストシーンの後のエンディング・ロールで全容となって流れます。おそらく自由を象徴しているのでしょう。演奏もそれにふさわしい自在なテンポに、フレーズの表現も1回目は歯切れよく、繰り返しではレガートといった変化に富み、ヴァイオリン独奏もキレよく輝かしい。この「春」を含めた『四季』は、協奏曲のスタイルながらその内容は添えられたソネットどおりに進行する描写音楽ですよね。ヴィヴァルディがいなかったら、ベルリオーズもいなかったかもしれないくらいの存在だと思いました。
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