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2026年06月03日10:35

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『ムツェンスクのマクベス夫人』ミラノ・スカラ座公演

・ショスタコーヴィチ: 歌劇《ムツェンスク郡のマクベス夫人》

カテリーナ: サラ・ヤクビアク(S) 
セルゲイ: ナジムディン・マヴリャノフ(T)
ボリス: アレクサンダー・ロスラヴェッツ(Bs)
ジノーヴィ: エフゲニー・アキモフ(T)
ソニェートカ: エレナ・マキシモワ(Ms)ほか

ヴァシリー・バルハトフ演出
リッカルド・シャイー指揮、ミラノ・スカラ座管弦楽団、合唱団
(2025年12月7日、ミラノ・スカラ座)

NHK BSプレミアムシアターの録画を鑑賞。ショスタコーヴィチが「プラウダ批判」にさらされた原因とされる問題作ですが、観たことはありませんでした。ミラノ・スカラ座でどんな舞台になるのかも興味がありました。結論からいうと、めちゃくちゃ面白かった!

舞台設定はソ連時代のホテルに読み替えられているようです。読み替え演出は経費節減が前面に打ち出された貧乏くさい舞台になりがちなところ、そこはスカラ座で、ホールのシャンデリアなどなかなか豪華なセットです。全4幕のオペラですが、劇中で実際に幕が降ろされるのは第2幕の終わりだけ。前半の2幕では事件はすでに過去のもので、警察の事情聴取によってカテリーナとセルゲイが事件を再現・回想するという演出になっています。第3幕からはリアルタイム進行となり、第4幕への移行は、軍用トラックがいきなりホテルに突っ込んできてびっくりさせます。ブレーキとアクセルの踏み間違え?と思わずツッコミたくなるf^^;。また、ラストで台本では水死するはずのカテリーナとソニェートカは、トラックから火ダルマで飛び出してきてそのまま焼死します。かなり危険でショッキングな変更で、スタントとは思いますが本当に大丈夫だったんでしょうか?

裕福な工場主の妻が使用人と不倫の末に殺人を犯し、哀れな末路をたどるという物語は、当時流行ったリアリズム路線上にあって、イタリアではヴェリズモと呼ばれる救いのないオペラに近いものでしょう。これのどこが面白いのかと思うような素材ですが、このオペラでは、そこに刺激的な社会風刺をふんだんに盛り込んでいます。まず、登場人物たちがそろいもそろってろくでなしです。日常的な欲求不満を抱えて不倫や殺人に及ぶヒロインのカテリーナはもちろん、被害者でカテリーナの夫ジノーヴィも金にしか興味がない男で同情できない。そんなジノーヴィパパのボリスは、カテリーナの寂しい境遇を見て「代わりにわしが慰めてやろう」などと抜かすエロジジイです。殺していいとまでは思いませんが、局部を切ってしまえぐらいは言いたくなる。また、カテリーナをレイプし、なりゆきでジノーヴィを殺すセルゲイは、シベリア送りとなった責任をカテリーナに押し付け、あっさりソニェートカに乗り換えます。よくいえば自分の欲望に正直、自省や葛藤などとは無縁で行動に迷いがなさすぎ。

加えて、警察がサイテー。第3幕に「エジプトのファラオの時代から警察はあった」で始まる彼らの歌があり、金づるを見つけるのも一苦労、どこかにうまいネタはないかというリフレイン付きでご丁寧に3番まで歌われます。そこへ死体発見の通報が入って大喜びし、「急げ、非難されない程度には」と歌いながら退場します。エジプトのファラオに謝れ(爆)。いまの日本と変わらない気もしますが。ちなみに、初演でスターリンは第3幕の途中で退席したと言われており、この警察の歌までは聴いた可能性が高い。とすると、実は第1幕のレイプシーンに激オコしたんじゃなくて、警察の描き方にムカついたのかも。セックスシーンはニヤニヤしながら楽しめても、国家権力をコケにするのは許せんということだったのでは?

なんといってもショスタコーヴィチの音楽が素晴らしい。躍動感と沈痛な表情の振幅の大きさで舞台から目が離せない。交響曲第5番で聴いたことのあるフレーズも随所に出てきて関連の深さをうかがわせます。深刻そうな場面で金管のおふざけ音型が出たりするかと思えば、音楽の見事な高揚感に乗って最低な内容の歌詞が歌い上げられるさまは、ギャップと刺激と笑いに満ちた、スラップスティックな魅力が全開です。陳腐と言ってもいいくらいの題材をこんなに面白く仕上げたオペラはほかにないのでは? アネクドートでしたっけ? ロシアのジョークのパンチ力は半端ないとつくづく思い知らされました。ショスタコーヴィチには『ムツェンスクのマクベス夫人』を皮切りとして『ニーベルングの指環』に匹敵するような連作オペラの構想があったらしく、もし「プラウダ批判」がなければ、彼は交響曲作家ではなくオペラ作家として大成しただろうとも言われています。これは政治が音楽史に与えた影響の中でも最大のものかもしれません。

おしまいになりますが、出演陣はみな健闘しました。問題視されるセックスシーンは、スカラ座の舞台ということもあってか裸になったりはしませんでしたが、それでもかなりの勢いで、ヒロイン役のヤクビアクは体を張る覚悟がいったと思います。あっぱれ! シャイー指揮による管弦楽も生き生きして見事でした。
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