・ワーグナー:楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』全曲
ザックス:ゲオルク・ツェッペンフェルト
ポーグナー:パク・ジョンミン
ベックメッサー:ミヒャエル・ナジ
ワルター:マイケル・スパイアーズ
ダーヴィット:マティアス・シュティアー
エヴァ:クリスティーナ・ニルソン
マグダレーネ:クリスタ・マイア ほか
合唱:バイロイト祝祭合唱団
演出:マティアス・ダーヴィッツ
ダニエレ・ガッティ指揮、バイロイト祝祭管弦楽団
収録:2025年7月25日 バイロイト祝祭劇場
今年もバイロイト音楽祭の放送がやってまいりました。BSプレミアムシアターで2022『神々の黄昏』、2023『パルジファル』、2024『トリスタンとイゾルデ』と毎年上演を観てきたのですが、過去の舞台は演出のひどさを争うような内容で、もう演奏会形式でやれ!とほぼ結論に至っていたみっちでした。しかしここまでくると、次はなにをしてくるのか逆に楽しみにもなってきてるf^^;。で、今年はどうだったのか? 正直、これまででいちばんでした。ひどさじゃなくよかったという意味で(爆)。
まず、指揮のガッティ。名前だけは知っていた人ですが、劇場の構造からくぐもりやすいオケを明るく響かせていました。指揮姿などは映らないので、どうやったのかはわかりません。音楽は豊かでよく流れるし、場面場面に合わせた起伏に魅了されました。第1幕への前奏曲でいえば、開始は軽快で、音楽が内面的になってくるとテンポを落とし、マイスターたちの嫌がらせ的なフレーズになるとまた速くなるといったアゴーギクが自然でうまい。例のパンパパパン!という箇所は、トランペットを抑え気味にして響きの厚みを強調していたのもいい感じでした。
歌手については、ザックス役のツェッペンフェルトはバイロイトの常連というか中心になっている感じ。痩せ型で背が高く顔も長いので、靴屋の親方というよりはヴォータンとかグルネマンツとかの方が合いますが、今回も安定していました。ワルター役のスパイアーズはいい声のテノールで、優勝歌を見事に歌い上げました。エヴァ役のニルソンは金髪で愛嬌のある顔立ちで好演。ダーヴィット役のシュティアーは半ズボンが似合うぽっちゃり系で、徒弟にぴったり。マグダレーネ役のマイアは年増設定にしてもいきすぎな気がしますが、歌と演技は良かった。ベックメッサー役は歌い方が性格的と正統的とあるようですが、ナジは後者で、いい声で歌うんだけどその分役柄としてはクセがない。見た目もワルターと同年輩でイケオジすぎて対比が弱いのですが、彼専用にワーグナーは意地の悪い音楽を付けているわけだし、リュートの代わりに持っているハート型のギターを光らせてたからまあいいかf^^;
これまでとは違って、舞台がちゃんとしてました(って……)。第1幕は向かって左側の高いところに教会の聖堂があり、そこからステージ左端までかなりの段数の階段を参集者が降りてくるわけです。バイロイトで、こういう建物とか階段とかの具体的用途のある大道具が使われれたことはなかったようなf^^;。ワルターは舞台中央付近でエヴァを出待ちしており、彼の周りを白いものがハート型に囲んでいるのですが、後にそれがエヴァが飛ばした紙飛行機だったことがわかります。第2幕では、この大きな階段が回転して右側に配置されると、教会内部のマイスターたちの会合場所であり、階段はベックメッサーが入る記録部屋への入口の役割を果たすことになります。この会合セットはどうやらバイロイト劇場の内部を模してもいるらしい。さらに場面が変わるとザックスとポーグナーの家もそれぞれ作られていて、ニュルンベルクの町並みを感じることができました。第3幕後半のヨハネ祭会場は、牛をモチーフにした大きな風船が枠としてステージ上部に飾られ、奥には金ピカの放射型模様が輝くというポップ?キッチュ?な明るい装い。そして中央には、エヴァが花や木の枝で組まれた冠と覆いに包まれて菊人形状態で鎮座していて、これには歌と音楽で出そうになった涙が引っ込むくらいのインパクトがありました(爆)。
登場人物たちの衣装も、これまでの返り血とか薄汚れたTシャツではなく、現代風ながらもそれなりに歴史や役柄感を出したものになっていて、ギャップが際立つ「読み替え」演出ではありませんでした。このあたりは、本作が喜劇ということもあるのかな? 以上のように、これまで観た中でいちばん抵抗感がなく楽しめるバイロイト上演でしたが、以下はネタバレなので、結末を知りたくない人はここまででf^^;。
見事な歌で優勝を認められ、ポーグナーから首飾りを授けられようとしたワルターが「マイスターなどご免だ!」と断り、それを見たザックスから「マイスターを侮るな」と説得されてめでたしめでたし、というのが元々のリブレットですが、この上演では、ワルターが首飾りを受け取るまでは筋書き通り。しかし、エヴァがそれを取り上げてポーグナーに突き返し、二人とも舞台から立ち去ってしまいます。これにはザックスならずとも口ぽかーん。
このオペラの結末をめぐっては、過去にもザックスとベックメッサーが和解する演出があったと聞きます。ナチスに政治利用された過去があり、上演自体が事件になる作品のため、ユダヤ人の扱いを後味良くしたいという意図があったのでしょう。現在、ユダヤ人問題についてはより深刻に考えさせられる状況がある中で、バイロイトはどうするのだろう?という疑問はありました。その答えが、ベックメッサーではなくザックスの演説否定、ひいてはこの作品が最後に訴えている「ドイツ芸術の称揚」をバイロイトが拒絶したわけです。さすがというべきか? カーテンコールは、概ね絶賛でした。演出チームにはお約束のブーイングがありましたが、ぞれでも歓声の方が大きかったように思います。みっちもその場にいたら拍手を送ったでしょう。
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