実際に、早期発見・治療によって発症を防げることを証明した神経変性疾患があります。主に小児で発症する脊髄性筋萎縮症 (SMA)です。これも運動ニューロンの機能が低下して、重症例では生後2年以内に命を落としてしまう病気です。
SMAの発症原因はほとんどの場合、SMN1という遺伝子が失われる欠失であることが1995年に発見されました。SMN1からは運動ニューロンに必要なSMNというタンパク質がつくられます。
実は、SMN1とわずかに情報(塩基配列)が異なるSMN2という遺伝子もあるのですが、そこからは少量のSMNしか合成されません。DNAに書かれた遺伝子の塩基配列はRNAに転写され、そこからmRNA(メッセンジャーRNA)がつくられ、その情報に基づきタンパク質が合成されます。
しかし、SMN2では一部の塩基配列がSMN1と異なるため、転写されたRNAのうち、完全な情報を持つmRNAとなるのは10〜20%のみで、少量のSMNしか合成されないのです。SMN1遺伝子が欠失してSMNタンパク質が十分な量つくられないため、運動ニューロンの機能が低下してしまうことがSMAという病気の原因です。
SMAの治療には、欠失したSMN1の情報が書かれた長い塩基配列をまるごと導入するよりも、SMN2のはたらきを強めて十分な量のSMNタンパク質が合成されるようにするほうが技術的に容易です。
米国の研究グループは、人工DNAによって、SMN2から完全なmRNAができるようにはたらく核酸医薬ヌシネルセンを開発しました。SMAモデルマウスにヌシネルセンを投与すると、10日間しか生きられなかったマウスが、1年以上生き延びたのです。
そして2017年、SMAを発症した新生児に投与すると運動機能が大きく改善することが確かめられました。さらに2019年、SMN1が欠失した新生児に発症前にヌシネルセンを投与することで、健常な子どもとほとんど同じように成長できるケースが確認されました。早期診断・治療によって、今まで救えなかった命が救えるようになったのです。
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