これは、大正時代の女性解放運動家・伊藤野枝を描き第55回吉川英治文学賞を受賞した村山由佳の同題小説をNHKがドラマ化し、2022年に放送したものを再編集したもの。
主演は吉高由里子。共演に、稲垣吾郎、永山瑛太、松下奈緒。監督は、NHKの朝の連続TV小説「花子とアン」の柳川強。
大正時代。家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫の死後は子供に従うという三従が女性の道だと考えられ、男尊女卑の風潮が色濃くある中、そんな世の中に反旗を翻す女性たちが現れた。
福岡で育った伊藤ノエは、貧しい家を支えるために押し付けられた結婚を蹴って上京。女性文学家・平塚らいてうの青鞜社に入ることになる。ノエは、伊藤野枝と名乗り、青鞜社を婦人解放を唱える闘う集団に変えていく。その中で、野枝の文才を見出した夫・辻潤と別れ、無政府主義の大杉栄と生涯のパートナーとなり、波乱に満ちた人生を歩む野枝だったが……
大正時代の女性解放運動と言えば、平塚らいてうが広く知られているのだけど、彼女の影響により運動家として羽ばたき、もがき乍らもやがて大杉栄を支えるに至った伊藤野枝の知名度は高いとは言えないだろう――自分も本作によって、その存在と活動をあらためて認識した。
その生涯を語る、と言う点において本作の存在意義を理解はするが……それでも尚、本作は映画としては残念な出来。
多くの場面がセット撮影によるのは、いかにもNHKドラマらしいが、特に屋外セットにおいて、不自然なまでにせせこましく感じてしまう。野枝を巡る愛憎のドラマも、これまたNHK故に性愛の要素を後退させている為に生々しさに欠ける。これは最後の、そして最大の悲劇となる、野枝と大杉、そして甥っ子への理不尽な暴力と死のシーンについても同様だ。
劇場版として仕立て直す際に、この辺りまで手が入れられるとよかったように思うが、それは贅沢な望みだろうか……
伊藤野枝を演じたのは吉高由里子。熱演は認めるが、彼女も35歳。映画の中で17歳から28歳までの野枝を演じるには、ちょっと歳が……と思ってしまった。これは、もっと若い女優がやるべき役ではなかったのではないだろうか?
PS
この映画で、大杉栄を演じるのは瑛太なのだが、瑛太は、昨年「福田村事件」で、震災後にデマで殺害される被差別民役を演じている。
そして、大杉栄もまた、関東大震災後に捕縛され、震災のドサクサの中で殺害されてしまうのだ。
(尚「福田村事件」にも大杉栄は登場している)
これも、縁、だろうか……
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