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2024年03月08日20:00

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【2/3鑑賞】映画『コット、はじまりの夏』

 
2月3日(土)シネリーブル梅田にて鑑賞。観客22人。張り切ってA-5を押さえた。

公式 https://www.flag-pictures.co.jp/caitmovie/

英語版予告編 https://youtu.be/LGWyqty2m-A



日記に貼るためググった予告編を1ヶ月ぶりに見て、また泣けた。
まるでドキュメンタリーのような作品だ。なんて美しく愛おしい映画なんだろう!

原題『An Cailin Ciuin』。(英訳 : The Quiet Girl)

多くを説明しない繊細かつ詩的な作品だからこそ、観る側の眼力が問われる。
以下、鑑賞時の記憶を掘り起こし。汗




1981年、アイルランドの田舎町。子供達が「コット!」「どこ?」と呼んでいる。

やがて、草むらから むくっと起き上がる少女。沈んだ表情。重そうに家へと向かう。
後に分かるが、彼女は失敗した時「逃げて隠れる」反応しかできない。未熟だった。

コットは9歳だが、おねしょ癖がある。情緒不安定か、膀胱機能の発達遅れか。
上には姉が3人、いずれも要領良くて逞しそう。下にはまだ幼児の弟が1人。
(後に分かるが、コットの親、特に父親は無計画で無責任、育ちが悪い放蕩者)
母親はお腹が大きかった。大人しいコットは親や姉達に構ってもらえてない様子。
暗く荒んだ家、貧しそうな家庭だった。
コットは無表情な真ん中っ子だった。まるで人生を諦めているような顔だった。

学校で。コットの音読は非常にたどたどしかった。LD?境界知能?ネグレクト?
彼女の存在感はとても薄かった。性格?発達の遅れ?まだ自我がない子だった。


ある日、手紙を読んだ母親が「夏の間、親戚が子供を1人預かってくれるって」。
おねしょなどで手のかかる、大人しいコットが親戚宅へやられることに即決した。
彼女は不安そうな表情を浮かべたが、抵抗することなく黙って従った。

親戚宅へは父親が車で送って行った。コットは大人しく後部座席に座っていた。
父親はロクデナシ臭がぷんぷん。親戚宅でも無作法な態度で、早々に去った。
彼がコットに親らしい愛情を示すことは一度もなかった。



コットを引き受けたキンセラ夫妻、妻のアイリンはとても優しそうな女性だった。
「いらっしゃい。大きくなったわね」と声をかけると、コットは戸惑っていた。
彼女はコットが(他所の家に預けられるのに)服と靴が汚いと気づき、悲しい顔に。
この子はネグレクトされていたのでは…とアイリンは気付いたのだろう。
努めて明るく親切な態度でコットを家の中へ案内、2階に上がった。
キンセラ夫妻の家は、どこも明るく清潔で、生活に余裕がある雰囲気だった。

壁紙で、そこは男の子の部屋だと分かった。出された着替えも大きな男児服だった。
この家にはかつて男の子が住んでいたと分かった。
『TOY STORY』のアンディみたいに、成長して家を出たのだろうか…今はいない。


アイリンがコットを風呂に入れて体を丁寧に洗ってやり、清潔な服に着替えさせ、
長い髪を優しく漉いていると、コットはふと言い出した。

「お父さんが、好きなだけ預かっていいって」「喜んで預かるわ。私達は大歓迎よ」

身なりを綺麗に整えてもらったコットは、見違えるように可愛らしくなった。
子どもは、愛情込めて手をかけてやるだけで「愛されオーラ」を放つようになる。


翌朝、コットはおねしょをしてしまった。アイリンは叱らず、コットを励ました。
そして、「おねしょに効く水を汲みに行きましょう」と、明るくコットを誘った。

綺麗な水場で、アイリンは楽しそうだった。「これは美容にも良い水なのよ」と。
その帰り道、アイリンに手を繋がれたコットは一瞬驚いたが、嬉しそうだった。
(この子は、今まで大人に優しく手を繋がれた経験がないのか…)と胸が痛んだ。

アイリンの明るさ優しさに、コットの寂しい心は癒されていった。
翌日はおねしょをしなかった。「ほら、水が効いたわ!」と、アイリンは笑顔に。
(ああ、やはり情緒の問題だったか…)と、だんだんコットのことが見えてきた。

アイリンはコットに家事を教え、じゃがいもの皮剥きや水汲みを一緒にやった。
コットは相変わらず口数が少ないものの、自主的に動く様子も見せるようになった。



夫のショーンは無愛想な農夫だった。コットは最初、彼を恐れていた。
お休みの挨拶にも振り向いてくれないショーンは自分を嫌っていると思っていた。

新生活に馴染んできたある日、コットはショーンに連れられて牧場へ行った。
ショーンが牛舎の掃除をしていると、コットの姿が消えた。必死で探すショーン。
やがて、離れた小屋でコットを見つけた瞬間、ショーンは感情的に怒鳴りつけた。
「そばにいなさい!」

ショーンの激しい剣幕に、掃除道具に手をかけたコットは固まり、逃げ出した。
彼女はショーンのお手伝いをしようと思いつき、道具を探していただけなのに…。
キンセラ夫妻には「子供が消える」ことにナーバスな秘密があると察せられた。


その後ショーンは、ダイニングで座っているコットのそばを無言で通った時、
テーブルの隅にクリームビスケットを1つ置いて行った。仲直りの印だ。

コットとショーンはまた一緒に牧場へ行くようになった。
会話もするようになった。牛舎も一緒に掃除した。コットは張り切っていた。
子牛に乳を飲ませる体験は、コットの情操に良い影響を与えていた。
彼女は後に、自ら進んで意見を述べるようになった。すごい進歩だと感じ入った。


「君は脚の長い子だな。走るのも早かろう。郵便を取って来てくれ。時間を測る」
とショーンが持ちかけ、コットは小道の果てにある郵便受けまで全力疾走した。
「早いな!」「昨日よりタイムが良くなったぞ!」と褒められて嬉しいコット。

大人に構ってもらい、遊びながら役に立つ経験で、コットはどんどん成長した。
来た時とは別人のように表情が明るくなり、自信がつき、しっかりしてきた。
今やコットは「キンセラ家の娘」のように馴染んでいた。

ショーンは「日曜礼拝にコットを今の格好で連れて行くのは…」と妻に言った。
アイリンはすぐ街の洋服屋にコットを連れて行き、ワンピースを2着購入した。
可愛いワンピース姿のコットを見たショーンは満足そうだった。



ある日、近所の葬式に出た帰り、アイリンは知人から用事で呼び止められた。
近所のおばさんが「コットは私が連れ帰ってあげるから行って来なさい」と言うので
善良なアイリンは彼女に託した。しかし、このおばさんは食わせ者だった。
田舎あるあるだが、彼女は「三度の飯より近所の噂が好き」だったのだ。

オバハンは、コットからキンセラ家の様子を根掘り葉掘り聞き出そうと試みた。
しかし、無口なコットが余計なことを言わないので、オバハンは揺さぶりをかけた。

「あんた、知ってるかい? あの家の男の子は、肥溜めに落ちて死んだんだよ」

コットは血相変えて帰宅するなり、ただいまを言うのも忘れて2人に尋ねた。

「男の子が死んだって本当? 私が着ている服は、その子の服なの?」

絶句するアイリンとショーン。「…誰に聞いたの?」「一緒に帰ったおばさん…」


その晩、ショーンはコットを連れて浜辺に行った。
彼はコットの無口さを「賢さ」だと、肯定的に評価していた。

「常に覚えておきなさい。辛い時は何も話さなくていい。
 多くの人はそれを忘れて余計なことを話してしまい、大きなものを失うんだ」

コットは黙ってその言葉を聞いていた。波の音を聞く2人の心は繋がっていた。



夏の終わり、コットの母親から手紙が届いた。「新学期前に返して欲しい」と。
「最初からそういう約束だから」と口では言うが、浮かない顔のアイリン。
ショーンも、コットも同様だった。
このまま、3人で仲良く暮らせたらーー。でも、誰もそれを言い出せなかった。


ある日、コットの姿が見えなくなった。名を呼びながら必死に探すアイリン。
すると、コットがびしょ濡れ姿でやって来た。アイリンは駆け寄って肩を抱いた。

「いったいどうしたの !? 」「1人で水を汲みに行ったの…」

2人が忙しそうだったので、コットは気を利かせてお手伝いしようとしたのだ。
彼女の自主性と思いやりの心は、確かに育っていた。
息子の事故を思い出し肝を冷やしたアイリンは、コットを抱いて連れ帰った。
アイリンの心の中で、コットはかけがえのない存在になっていた。
井戸に落ちて風邪をひいたため、コットが実家へ戻るのは数日繰り延べになった。


しかし、その日はやって来た。
ショーンが運転する車で、コットは大人しく家に向かった。アイリンも同行した。
3人とも明らかに気の進まない様子で、ずっと無言のままドライブしていた。

久しぶりに帰って来た家は、陰気で荒んだ佇まいだった。家の中も埃だらけ。
ダイニングテーブルの端っこを、そっと指でなぞって汚れを確認するコット。
キンセラ家はいつもピカピカで、こんなじゃなかった…と顔に書いてあった。

男の子が生まれたばかりで、母親はますますしんどそうだった。
彼女はコットに愛情がないわけではなさそうだったが、生活に余裕がなさすぎた。

(こんな家に逆戻りなんて! コット、キンセラ家の子になりたいと言うんだ!)
私は感情移入して身を乗り出した。(早く、早く言って! 2人が帰る前に)
でも、無口なコットは何も言わない。人生を変えるチャンスは今なのに…。泣



ヤキモキしながら見守っていると、ついにキンセラ夫妻は別れを告げ車に乗り込んだ。
コットは黙ったまま、父親と一緒に、敷地内の小道を遠ざかってゆく車を見送った。
(なんで?コット、今すぐ走って車を追いかけて!)
でも、コットは動かない。

ショーンの車が小さくなった頃、コットに突然スイッチが入った。
彼女はショーンの車を追いかけて猛然と走り出した。が、もう追いつく訳ない…。

と、思いきや!!

ショーンは敷地に入る時に閉めたゲートを開けて外に出るため、車を停めていた。
(田舎の家は、ゲートから家屋までのアプローチがやたら長い)
なんと、コットは土壇場で追いついたのだ。

髪をなびかせ全力で走ってくるコットに気づき、思わず棒立ちになるショーン。
その胸に飛び込んでコットは叫んだ。「ダディ!」
ショーンはしっかり抱きしめ返した。2人は固く抱き合った。「ダディ!」
アイリンは助手席で静かに涙を拭っていた。


コットを追いかけて来た父親は、2人の様子を見て呆然としていた。
彼が「はっきり意思表示するコット」を見たのは、人生で初めてだったろう。
彼女はついに、自分の意思で新しい人生を選択できるまでに成長したのだ。



子どもを大切に育てれば、可能性が花開くように成長することを実感した。
心に傷を抱えた大人も子供も、愛情深い関係で癒され、立ち直れることも実感した。
観ている者も癒された。心が震えた。

きわめて普遍的なテーマを見事に描き切った、尊い名作だと感じる。


第72回ベルリン国際映画祭・国際ジェネレーション部門(子どもが主役の映画)で
グランプリを受賞。
主演のキャサリン・クリンチはアイリッシュ映画&テレビアカデミー賞(IFTA賞)の
主演女優賞を、史上最年少の12歳で受賞。
本作はアイルランド映画初、アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされた。
『PERFECT DAYS』と甲乙つけ難い傑作だが、個人的には本作が受賞して欲しい。



関連日記 【隠された物語】『ショーン、再生の夏』 2024年03月10日
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劇場で見た予告編に一目惚れ。
繊細かつ丁寧で「嘘がない」物語だった。瑞々しく愛おしい傑作!

主演のキャサリン・クリンチは演技初体験とは思えぬ名演技。
ルノワールの「少女イレーヌ」を思わせる美少女で、今後の活躍が非常に楽しみだ。

1981年、アイルランドの田舎町。9歳の少女コットはネグレクトで発達が遅れていた。
6人目の出産を控えた貧しい家庭に、母親の親戚キンセラ家が「夏の間、子供を1人預かってあげる」と親切に申し出た。両親はみそっかすのコットを出すと即決。

母の従姉妹アイリーンとその夫ショーンとの温かい暮らしで、初めて愛情を注がれたコットは、ひと夏の間にみるみる成長を遂げた。コットを可愛がるキンセラ夫妻にはある秘密があった。

やがて夏は終わり、実家に戻る時が来た。でも、実家にコットの居場所などないことは明白。「どうする、コット?」と、最後までヤキモキさせられた。

この静かで美しい物語を、世界中の大人に見てほしい。
教育関係者や子を持つ親はもちろん、身近に子供がいる人たちに「大人の接し方次第で子供の可能性は見事に花開く、自分達にはその力と責任がある」ことを知ってほしい。



Filmarks https://filmarks.com/movies/107854
映画.com https://eiga.com/movie/100690/review/


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スクリーン 「孤独だった少女が自分を認めてもらうことで再生する」
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ぴあ 「彼女の内側では大きな変化が起こっている」
https://lp.p.pia.jp/article/news/334734/index.html?detail=true

映画.com 「完成させるために必要だった“奇跡”とは? 監督が撮影の裏側を語る」
https://eiga.com/movie/100690/interview/

週刊文春 「9歳の寡黙な少女が、後部座席で気づいた“不穏な気配”」
https://bunshun.jp/articles/-/68583


 
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