故郷でひとり異邦人

１２月初旬の２週間、一人で帰省した際に羽田空港で家の鍵をなくしたらしく、スペアキーを持つ息子がマンチェスターから帰ってくるまでの数時間ホームレスとなる。４つのうち２つの鍵はセキュリティー・キーなので、テナントは合鍵が作れない。大家はポルトガルに住んでいるので、今現在鍵は１セットしかない。娘と息子は違う時間にバイトをしているので、何かと不安だ。子供達が北部へ帰るまでは、出かけられない理由ができたと思えばよい。それ以降は自分で一切気をつけなければいけない。何しろ一番信用できないのは自分自身である。

母は父の死後、６４歳でさっさとケアハウスに入居し、実家はそれ以来賃貸にだしているので、実家といっても私の帰る場所はない。 まるまる２週間ジムとプールと駐車場のあるホテルをとって、そこを基盤にして母の予定に合わせて移動した。熊本だけで５箇所もお墓参りにいき、佐賀県の嬉野温泉に一泊し、佐世保のハウステンボス内で一泊。帰りには八女のお寺さんへ寄った。（とにかく、母はお墓の事とお寺の事と仏壇の事ばかりを心配しており、その心配をわかってくれない息子に対する不満で一杯なのだ）。あとは「死ぬ前に会っておきたい人」に会いにいくのが主な目的。

そのリストの中に、私と兄の保育園の先生がおり、その後仲人を務めたとかの理由でずっと年賀状交換を続けており、是非会いたいというので連れて行った。先生のお宅で先生から「T君（兄）は絵がとても上手だったもんね。そしてCちゃん（私）が知能テストでずば抜けた結果をだすまではT君がトップだったったいね。Cちゃんの知能指数が人並み外れとったけん、テストを行った会社が、Cちゃんの今後を追跡調査させて欲しいと要求してきたけど、龍雄さん（父）が絶対反対しなはったもんね」と言われる。
この話は、子どもの頃何度か耳にした事があったけれど、私の中では「あらゆる面で出来の良い兄（オール５）と比べ、かなり出来の悪い私（体育美術家庭科国語以外はオール３＋忘れ物王）を慰め励ます為の作り話、もしくは百倍大げさにされた話」でしかなかったので、情報源から直接その話がでてきて、不意を突かれた。
とりあえず「あ、期待はずれですみません、追跡されなくてよかったです、ははは」と切り返す。

自分では自虐的なジョークで躱したつもりでいたけれど、日本の家族からみたらそれはジョークではなくて単なる事実なのだと気づく。（表向きに口に出さずとも、女は結婚して夫とその家族に仕えるのが良しとされている事が前提にあり）私はずっと出来の悪いふうてん娘だけれども、長男ではないからそれが暗黙されている。その分、何の期待もされていないから、私自身もその方が気が楽というバランス関係である。
しかし大体、なんで私は幼い頃からそこまで知恵遅れ的扱いをされなければならなかったのか。小学生の時はよく「３月生まれだから（発達が遅れ気味）」と親が発言しているのを聞いた。私が高校生になってから、母は（ものづくりに専念する様をみて）「キチガイ」と呼び、先生、他人にもうちの娘はキチガイだから、といっていた。
就学前の知能テストの結果になんらかの意味があるのならば、やはり私は発達障害、自閉症の一種をもって生まれたにちがいない。
今とその当時では精神障害に対する認識が全く違うとは言え、幼い頃から私の得意分野を「役立たず」扱いせずもっとポジティブに受け入れてくれていたならば、私にはもっと早くから別の道が開けて、今頃は親の自慢できる何者かになれていたかもしれないと思わなくもない。
誰かを責めているわけではない。ただ、日本の家族に会うと、今でも自分がその引っ込み思案で出来の悪い女児の殻に入り込んできっちり蓋をしてしまうのがわかるのだ。

父は酒癖が悪く両親の夫婦仲はひどいものだったし、家の中には幾種類かのDVがあった。 母はずっと父に不細工だの世間知らずだのと虐げられ続け「とんま」な振りを続けていたので、父の死後も、自分の「価値観」を取り戻すことができていないし、もう取り戻すこともない。これからはただひたすら損ない続けるのだ。


英国では声を上げなければだれも聞いてくれないからもっと声をあげなければというプレッシャーがあり、日本では特に女性はその全く逆、meekであることが求められているという感じがある。
故郷に帰ると、自分が、声を上げずとも、意見や権利を大声で主張する異邦人と見られているような気分になってしまうのです。


今年のクリスマスもご馳走（ラム）が食べられました。ありがたい事です。


新しいミキサーと、新しいレシピでつくったパネトーネ。一つ目は焼いている途中で落っことしてしまったのでリベンジベイクしました。前のレシピより柔らかく、1日で完成するので来年はこれをパンドーロにしましょうか。


なぜか突然 Chuck D がフォロバしてくれてとても励まされました。