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2023年12月25日19:41

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【演劇】2023年の舞台10本

NTLive『るつぼ』TOHOシネマズ日本橋5 4/14
SPAC『天守物語』駿府城公園 紅葉山庭園広場 5/4&5/5
喜昇倶楽部公演『其の女〜渋谷はるか一人芝居〜』下北沢 小劇場B1 5/28
劇団桟敷童子『海の木馬』すみだパークシアター倉 6/4
劇団チョコレートケーキ 『ブラウン管より愛をこめて』シアタートラム 7/2
SPAC『マハーバーラタ』行幸通り特設ステージ 10/21
SPAC『伊豆の踊子』静岡芸術劇場 10/29
名取事務所『慈善家-フィランスロピスト』「劇」小劇場 12/1
劇団桟敷童子『空ヲ食ラウ』すみだパークシアター倉 12/6
俳優座『閻魔の王宮』俳優座劇場 12/23

次点
iaku『モモンバのくくり罠』シアタートラム 11/24
市民参加演劇『人魚姫裁判』〈空〉せんがわ劇場 10/15


今年見た舞台は通算で83本。複数回見たものを除くと78本。最近演劇とはすっかり距離を置いているつもりだったので、意外なほど見ていることに自分で驚いた。そしてオールタイムベストに入るような傑出した上演こそないものの、何気に10本からこぼすには惜しい作品も多く、まだまだ演劇も捨てたものではないことが分かった。


今年はNTLive(ナショナル・シアター・ライブ)を『レオポルシュタット』『かもめ』『るつぼ』『ライフ・オブ・パイ』『善き人』と5本見たが、その中でずば抜けて良かったのがアーサー・ミラー作の『るつぼ』。新国立劇場でも2回見たことがあり、そちらも感銘を受けたが、本来の英語で上演されるこちも当然素晴らしい出来。300年以上前の魔女裁判を扱った50年以上前の戯曲が、そのまま現代に通じる恐ろしさ。なお今年のNTLiveは、「演劇」としてではなく「映像作品」として非常にばらつきがあり、「ヘタをすれば実演を見るより感動的なのでは」というものと「画面設計と編集がヘタで明らかに実演の良さを損ねている」と思えるものが混在していた。

実は私が本格的に演劇を見始めるようになったのは、2003年3月にク・ナウカの『天守物語』を見たのが大きなきっかけ。今回は、実質的にク・ナウカの進化形であるSPACがその作品をふじのくに⇄せかい演劇祭のメイン作品として再演。2011年にもSPACで上演されているが、初めて見たときから丸20年ぶりに生まれ故郷の静岡で上演されるということで、1つの円環が閉じたような感慨がひとしお。内容はク・ナウカ〜SPACの定番なので何をかいわんや。公園内に設けられたステージを隠すようなものはなく、いささか遠いものの、その気になれば近くを通りかかった人が周りからいくらでも見られる開放性も素晴らしかった。

喜昇倶楽部公演『其の女〜渋谷はるか一人芝居〜』は、On7による『その頬、熱線に焼かれ』 の続編的な作品。原爆乙女の中でもとりわけ顔の損傷が酷かった弘子の、その後の人生を描く実話ベースの物語。脚本 古川健/演出 日澤雄介/出演 渋谷はるかなので、『その頬〜』から完全に地続きの世界。違うのは渋谷はるかのひとり芝居という点だが、これが実に見事なもので、今思い出してもひとり芝居だったという気がしない。とりわけ盲目の夫は、実際に他の演者がいる以上に、そこにリアルに存在していた。ひとり芝居の1つの究極形と言えそうだ。

劇団桟敷童子『海の木馬』は、特攻艇「震洋」にまつわる悲劇を描いた実話ベースの作品。桟敷童子としては2021年の『飛ぶ太陽』によく似ているが、あちらに勝ると劣らぬ見事な出来で、終戦直前に起きた愚劣な悲喜劇を描いている。

劇団チョコレートケーキ 『ブラウン管より愛をこめて』は、タイトルや人名、時代設定などは完全に変更されているが、『帰ってきたウルトラマン』の名作として名高い「怪獣使いと少年」制作にまつわるエピソードをモチーフにしている。設定自体を大幅に変更したことで、むしろ作品の普遍性が増した好例。マイノリティ差別に関するエピソードを扱う中で、表現者として、仕事人として、人間として悩む人々の姿がリアルで感動的な物語となっている。

『マハーバーラタ』は今度で10回目の観賞(ク・ナウカで2回/SPACで8回)。正直、もう『マハーバーラタ』は食傷気味だと思っていたのだが、今回は東京駅の向かい側にある行幸通りでの特設ステージ。内容は短縮版なので肝心な部分が端折られてしまい食い足りないが、これまでのどの公演とも違うロケーションが、かつてない興奮を生む。周りで外国人観光客が喜色満面で見物しているのを見て、こちらまで幸福な気分になった。SPACの公演で写真撮影が出来たのも嬉しい。「体験」としては今年随一の楽しさだった。

そのわずか8日後に静岡で見たSPAC『伊豆の踊子』は、近年のSPAC作品の中でもベストと言ってよい出来。「SPAC版2.5次元」と言いたくなるような派手な演出、しかもその新奇さが清冽な青春ものとしての内容を損ねず、伊豆に対する完璧な観光演劇ともなっている。踊子役の河村若菜やドラァグクイーン的な役回りで場を盛り上げる三島景太など、役者陣も好演。つまりはケチを付けるところが無い面白さ。
さすがに10本のうち4本をSPACにするのは問題があるとして落としたが、年明けに上演された寺内亜矢子演出の『リチャード二世』も素晴らしい出来で、今年はSPACが宮城聰だけの力に頼らない形で傑作を放った年として記憶される。最近 心が離れ気味だったSPACに対する愛情と信頼が一挙に戻ったことが、今年最大の演劇的事件だったかもしれない。

名取事務所『慈善家-フィランスロピスト』は、極めて優れた戯曲を精緻な演出と演技で上演した台詞劇のお手本のような作品。人間の罪や責任を問う普遍性に溢れた内容で、オーソドックスな演劇としてはずば抜けた出来。今後も再演を重ねていくだろうから、機会があればぜひ見ることをオススメしたい。

劇団桟敷童子『空ヲ食ラウ』も、夏の『海の木馬』と共に落とせない作品。桟敷童子の作品で完全な現在(ウクライナの戦争の話も出てくる)を舞台にしたものは初めてでは。林業に従事する「空師」たちの物語で、物語の構造としては大傑作『獣唄』によく似ている。話の展開にいささか無理があり、戯曲の出来はベストにほど遠いが、桟敷童子の暗いロマンティシズムには抗い難い魅力がある。来年は劇団結成25周年ということで、さらなる傑作の誕生を期待したい。

最後の最後に滑り込んできたのが俳優座『閻魔の王宮』。売血によって広まった中国のHIV被害を描いたもので、人間としての倫理観から家族の愛情まで多くのテーマを含んだ大河ドラマを思わせるような大作。若干冗長な部分はあるものの、中国第五世代の映画を思わせる貧しい農民たちの姿に胸を打たれ、さまざまな人のさまざまな「選択」が他人事でないリアリティを持って迫ってくる。新劇らしいオーソドックスな芝居としては、名取事務所『慈善家-フィランスロピスト』と本作の2つが際だっていた。
 
 
次点のiaku『モモンバのくくり罠』は、最後になって『閻魔の王宮』に押し出された。横山拓也らしい複合的なテーマを持った傑作で、枝元萌と緒方晋の掛け合いも最高だった。ただ今になって振り返ると、他の横山作品と比べても設定が少しあざとすぎるのと、先述の2人の個人芸に頼った部分が大きいのがマイナスポイントに感じられ、『閻魔の王宮』を優先することにした。とは言え、春の『あたしら葉桜』(再演)も素晴らしかったし、横山拓也が今の演劇界において最も信頼できる作家であることに変わりは無い。

市民参加演劇『人魚姫裁判』〈空〉は佐川大輔の構成・脚本・演出による、せんがわ劇場の市民劇。おなじみの『人魚姫』をモチーフにして、様々な人間ドラマを浮かび上がらせた力作。市民劇としてはハードルが高すぎるほどの内容で、実際 出演者の能力がまったく及んでいない部分は多々見られた。しかし、その焦りや悔しさまでが「思い」となって観客に伝わるのが市民劇の醍醐味であり、完成された芝居にはない生々しさだ。高校演劇への展開もぜひ考えて欲しい傑作だ。


来たる2024年最大の演劇的事件は、「こまばアゴラの閉館」でまず動くことはないだろう。その歴史的意義や個人的な思い、今後の演劇界に及ぼすであろう影響などは、また折りを見て少しずつ書いていきたい。






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