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2023年08月30日23:35

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【映画】『CLOSE クロース』3回目

2週間のうちに3回も見るほど惚れ込んだのに、2回目3回目の観賞後にはほとんど何も書いていなかった。しかし名作過ぎるほどの名作で、物語自体はシンプルなので、ある意味「見れば分かる」作品。そのためあまり語る事がないというのも事実ではある。
 
本作のテーマを一言で語るなら「無垢の喪失」だ。子ども時代の幸福が思春期を境に急速に失われていく経験は誰にもあるだろうが、そのような経験と極めて悲劇的な形で向き合うことになってしまった少年の物語。
この物語に最も近いフィーリングを持った創作物として想起されるのは、ビーチ・ボーイズのアルバム『ペット・サウンズ』だ。ロック史上トップクラスの評価を得ているあのアルバムが持つテーマと情感、それと果てしなく共通するものが、この映画にも流れている。
 
繰り返して見ていくと、主人公の少年レオの中にあるものが、純粋な喪失感や罪の意識だけでなく、自分の罪がバレることへの恐怖であることも分かってくる。後半の彼の心理や行動は、少なからず「どこまで事実が知られているのか」を探るためのものだと分かってくる。
純粋な感情と保身のための打算…2つの世界の間で揺れ動くレオの心理は、決して思春期特有のものではなく、人間が生きていく上で常に抱え続ける問題だ。レオの苦悩は少年時代の痛みを呼び覚ますと同時に、その痛みが大人になった今も続く普遍的なものであることに気づかされる。
 
そしてこの作品は少年の物語であると同時に、親たちの物語でもある。中心となるのはレミの母親だが、他の親たち、そして先生…この悲劇に直面した心の揺らぎを、誰もが繊細に、誠実に表現している。中でも特筆しておきたいのは、物語の大きな転調となるシーン、レオの母親がバスの中で見せる演技だ。1分もないシーンだが、あの表情の変化だけで助演女優賞を与えたくなる、壮絶なほど繊細でリアルな演技だった。
 
また繰り返し見ていくうちに、私がこれほど本作に惚れ込んだ大きな理由は、映画の語り口や映像の肌触りがテレンス・マリックとクシシュトフ・キェシロフスキに似ているからだという、元も子もないことに気がつく。『ツリー・オブ・ライフ』や『ふたりのベロニカ』を彷彿させる映像の数々…私が惚れ込むのも当然だ。
 
私の心の本棚では、マリックやキェシロフスキ、ダルデンヌ兄弟などの映画、そして『シベールの日曜日』と同じあたりに並べられる作品。本年度のトップを争うのはもちろん、これまでに見た全ての映画の中でも特筆すべき作品として、死ぬまで忘れることはないだろう。

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