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2023年08月13日00:10

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【映画】『To Leslie トゥ・レスリー』

宝くじに当たったものの、酒に溺れて賞金を浪費。アル中となってどん底の人生を送る中年女の再起を描く物語。低予算のインディペンデント映画ながら、アンドレア・ライズボローがアカデミー主演女優賞にノミネートされた話題作。見事な人間ドラマの力作だった。

何はともあれ中盤まで延々と描かれる主人公レスリーのダメ人間ぶりが凄まじい。息子に保護されると、息子のルームメイトの金を盗み、酒を飲む。そんな調子なので誰からも疎まれ、嫌われ、居場所を失う。映画の主人公でここまで正真正銘のクズはなかなかいない。映画史に残る圧倒的クズ演技。
しかもそのクズっぷりがこれでもかと続く。このまま徹底的な自然主義で、クズがクズのまま人生のどん底で死んでいって終わりなのではと心配になるほど。しかしここまで徹底的にどん底の人生を描いてこそ、ちっぽけな再起がドラマとしての説得力を増す。

そのクズを演じたアンドレア・ライズボローはオスカーノミネートも当然の名演。と言うか、今年のアカデミー主演女優賞は、『TAR ター』のケイト・ブランシェットに加え、本作のライズボローという歴史的名演が競っていたのか。あらためてミシェル・ヨーの受賞に異議を唱えたい気分だ。
全体の雰囲気としては、『ファイブ・イージー・ピーセス』などのアメリカンニューシネマを思わせる。ロードムービーではないのにロードムービーっぽい。その手のアメリカ映画が好きな人なら、まるで故郷に戻ったような懐かしささえ覚える空気感だ。

残念なのは、レスリーが再起を決意するきっかけが少々ふんわりしていたり、性的な要素が不自然なまでに排除されている(あの状況なら体を売って酒代を稼ごうとするだろう)など、ドラマとしての展開がいささか甘いところ。ストーリーテリングだけに注目するなら、そこまで誉められる出来ではない。

しかしその欠点を考慮してもなお、アンドレア・ライズボローのクズ演技があまりに迫真的なもので、「物語」ではなく「今目の前にいる人間の実存」として全てを納得させられてしまう。豪腕としか言いようがない「俳優の映画」だ。お見事です。



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